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狩人の姉友 1(千秋さん)

Tips:私のMHWのキャラは千秋さんがモチーフになっています。セリエナで僕と握手!

 我が白金家でVRゴーグルを買ったことが千秋さんたちにも広まっているらしく、それで次々と「私も買ったぞ」「買いました」「買った」と姉さんの友達も「Star Gate Online」を始めたらしい。ただそれでもやっぱり都合が合わないから基本的に一緒にやることはなかったんだけど……


「これくらいでいいかな……」


 ゲームの中の千秋さんに初めて会ったのはレアドロップ周回から帰ろうとしていたある日の夜。丁度ゲーム世界も真っ暗で、暗い森の中、拠点となる街に帰ろうとしたその時のことである。

 街との行き来に使っていた街道を通ろうとした時、そこに、低確率で出現する強力なレアモンスターが湧いていたのだった。蜘蛛型のそれはまるで俺を通せんぼしているかのようで、周回明けで疲弊していたプレイヤーを返さないと言わんばかりの立ち姿だった。


(まずいな、奴のドロップアイテムは結構良いんだけど、スキル使いすぎて疲弊してる今相手するのはあまり得策じゃない……)


 それが森からいなくなるまで待っていると他のモンスターが接近してくる危険性があることから立ち止まるのはあまり得策ではない。回り道もどうなるか分からないし、と色々思案していた時、遠くから別のプレイヤーが馬に乗ってやってくるのがマップに映る。姉さんかと思ったが、まだフレンドになっていない未知のプレイヤーだった。


 蜘蛛の向こうに「その人」が見えた。マントをはためかせながら全力で走る馬の上に二本足で立ち、背中に背負っていた大剣へ手を掛けていたのは冒険服に身を包んだ赤髪の女性――ってまさか?


「どけ、そいつは私の獲物だ!」


 彼女は馬を蹴って宙へ飛び上がり、自分の身の丈もあるような大剣を抜き放って大蜘蛛へ兜割りを決める。クリティカルと同時にスタンを取ることにも成功し、俺が見ている目の前であっさりとモンスターを倒してしまった。


「え、もしかして、千秋さん……」

「ん?」


 あまりに聞いたことがある声だったため、ついそんなことを口走ってしまう。

 それを聞いた彼女は最初は驚いていたが、しばらくしたらゲラゲラと笑い始める。


「なんだ、お前、将だったのか!? そう言えばキャラの名前同じだしなぁ!」

「やっぱり千秋さんだ……ゲームでも相変わらずですね」

「何か言ったかぁ」

「なんでもないです……」


 千秋さんはいつものように頭をぽんぽん――しようとして手をすり抜けさせた。

 そうだ、今彼女は遠い所でオンラインになっているから触れ合えないんだっけ。


「じれったいな、こういうことはまだできないか」

「技術の進歩を待つしかないですね……」

「そうだな、時間はまだあるか?」

「時間、そうですね、あります。明日は何もない日ですし」

「よし、じゃあちょっとレアモンスター狩りに付き合ってくれ。一人だと暇でな」


 ちらと時間を確認すると、現実世界は23時を過ぎた辺り。

 千秋さんと話をするのも数日ぶりだ。久し振りに一緒に何かするのも悪くない。


「ところで、職業は何選んだんです?」

「狩人だ。さっきみたいなレアモンスターに特化した職業だな」


 町に戻るために馬に跨り、いつも姉さんにしてもらっているように運んでもらう。すぐ隣に千秋さんがいるんだったら後ろから抱き着ける機会ではあるのだが、今はゲームの中だから悲しくすり抜けるだけで……


「スキルツリー解放の条件にレアモンスターの討伐があってな、それでフィールドの各地を忙しく駆け回ってるって訳だ」

「あ、すいません、次の場所行く前に街の宿屋お願いできますか? さっきまで周回してて体力減ってるんで」

「そうだな、一回じゃあ宿屋に寄っていこう。道中にあるからそこを使うぞ」


 馬に乗ってしばらくして辿り着いたのは道の隣に立っている簡素な小屋。一応は宿屋と同じ役割を果たすけど、見た目もあんまりよくないし立地も酷い所にあるから普段は誰も見向きもしないのだが……

 馬から降りた千秋さんは来るように手招きした。どうやら考えがあるらしい。


「この近くに狙い目の奴が居るんだ。しばらくここを拠点にするぞ」

「それでこんなところに小屋が建ってるんですね」

「一応寝れば回復は出来るからな。他の人も来ないし、お前と一緒にいるにはいい所だ」

「ん……?」


 安全地帯と設定された小屋の中に入ると「休息モード」になってそこにいるだけでも体力等は回復していく、らしい。特に何かしていないといけないことがあった訳でも無く、狩人姿の千秋さんと談笑していくうちに消耗したポイントも回復していった。

 そろそろ全回復、という辺りで千秋さんがふとこちらへ歩み寄ってくる。


「しかし、これだけ近くにいるのに触れ合えないのは辛いな」

「……俺も、そう思ってます」

「その気になれば会いに行ける距離ではあるが、あいにく暇がないものでな」

「やっぱり忙しいんですか」

「今時期は特にな」


 一緒にいるのに、ちょっと悲しそうな顔をする千秋さん。

 できることなら俺の方から行ってやりたい。できることなら……ん?


「明日、手伝いに行っていいですか」


 思い付きでそんなことを言ってみた。

 千秋さんは少し考えた後、何かに気付いてから爽やかな笑顔に変わる。


「その手があったな! いつから来られる?」

「昼からは大丈夫です。店は何時から何時までですか?」

「16時から開けて22時には閉めるつもりだ。その後は……まぁ、その時だ」


 そうやって茶化していると体力が全快したというメッセージが入った。千秋さんはすっくと立ちあがって大剣を背負う。大胆で豪快な武器はいかにも彼女らしいセレクトだ。


「行くか」

「わかりました」


 彼女の後ろを追いかけるように俺も小屋を出る。

 既に馬に乗っていた千秋さんの後ろに乗るとすぐさま山岳地帯へ向けて走り出した。先程までいた森がぐんぐんと遠ざかり、あっという間に周りは赤白い岩の目立つ山岳地帯の景色に早変わりする。モンスターの種類も森の生物をモチーフとした物から乾燥地帯の生き物をモチーフとしたものへ変わっていった。


 レベル的には問題ないが、レアモンスターというのは普通のモンスターよりも強力な攻撃・技を持っている事が多い。その事が少しだけ不安ではあった。負ける可能性はゼロではないのだ。


「千秋さん、一人でずっと狩ってたんですか?」

「まあそんなとこだ。狩人はレアモンスターに特化したパッシブスキルがある」

「聞いたことはありますが……」

「ま、心配はするな。お前が援護をしてくれている内に私が倒しておこう」


 山岳地帯も大分上の方までやって来た。先程まではまばらに生えていた植物も今はほとんど生えていない。硬い岩肌と土が露出する山道は月の光で白くなっており、強敵がどこかで待っているような雰囲気も漂い始める。

 そして辿り着いた、妙に広くなっているエリア。こういう所には大抵強いモンスターがいる、というのがゲームのお約束なのだが……


「千秋さん、いないですよ」

「まあ見てろ。そうだ、装備の確認は今の内にやっておけ」

「あ、はい」


 馬から降り、いかにもな場所に足を踏み入れるもお目当ての敵はいない。

 千秋さんはエリアのど真ん中に立つとそこで「強者の生血」を使用する。


「さて、あとは来るまで待つだけだが……」

「えっと、今回呼んだのって何ですか?」

「そうだな、細い人型の悪魔みたいな見た目をしたやつで――」

「何か来ましたよ……!」

「お」


 俺が指さしたのはまさに千秋さんが言っていたようなモンスター。細い人型で、悪魔みたいな見た目をしていて、その手には血塗られた槍を持っている「ガーゴイル種」の変異体。すぐに剣を抜いて構えたが、その一方で千秋さんはその場に立ったまま何もしようとしなかった。

 レベルを見れば結構な強敵だ。必ず勝てる保証はない。


「千秋さん……?」

「なあに、ここは任せておけ。姉としてお前に『狩人』の戦いを見せてやる」

「う」


 千秋さんの伝家の宝刀である「姉」。そんなこと言われたら、姉に逆らえないように出来ている俺はそうするしかないわけで――


「援護します……」

「ほら来るぞ! 避けろ!」


 その直後にガーゴイル変異体の突進が繰り出され、俺も千秋さんもそれぞれ横へ転がるようにして躱す。奇しくも千秋さんが俺を守るような立ち位置になってしまった。そこで彼女は背中の大剣に両手を掛けながら挑発するような台詞を吐く。


「来いよ、二枚にしてやる」


 少年漫画に出てくるようなヒーローが目の前にいた。

 二度目の突進を仕掛けてくる相手に対し、千秋さんは大剣を振りかぶって迎え撃ち――


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