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クリスマスの姉2015 3

 台所ではなぎささんが一人で野菜をトントンと切っていた。エプロン姿で髪を後ろに上げたその姿は新鮮で、てきぱきと作業をするその姿は将来の良妻を感じさせた。

「希さんはどこに行きました?」

「千秋さんとどこかに行ったらしいですけど……」

 相変わらず千秋さんの考えていることは読めない。先ほど愛理姉に何を話していたかも気になるところであったが、とりあえず今はパーティーの準備に集中することにした。

「何か手伝う事はありますか?」

「そうですね……皿を洗っておいたのでそれを持って行ってくれますか?」

 なぎささんは台所の端に置いてある皿の山を指さして言った。わかりました、と返事をするとなぎささんはまた野菜切りの作業に戻る。皿を持っていこうとしたが、真剣な表情のなぎささんに見とれてしまい、皿に手をかけたまま動けなくなってしまった。その視線に気づいたなぎささんは少し迷惑そうにこちらを見てくる。

「あまり見ないでください」

「あ、すいません。つい……」

 彼女が髪を後ろに上げているのがまずいのだ。いかにもフワフワしてそうなその髪が悪いのだ、と言い訳しているうちに彼女はこちらへ迫ってくる。そして、台所に誰も入って来ないことを確認すると、そのまま頬にキスをしてきた。

「なぎささん……?」

「シーッ」

 そのままなぎささんと抱き合ってしまう。さらにくっつこうとキスを重ねていると、廊下から足音がしたため慌てて離れた。やって来たのは希さんだった。

「……失礼、でした?」

「希さん、そんなに怒らなくても」

「怒ってないです……別に」

 見られてこそはいないが雰囲気で察せられてしまい、なぎささんは少し気まずそうな顔をする。希さんは頬を赤くしながら近づいてくると、先程なぎささんがしたようにぎゅっと抱きついてきた。

「希さん!?」

「ずるい……」

 いつになく積極的な希さんに気圧され、なぎささんの目の前でなすすべもなくキスをしてしまう。なぎささんはどうしてよいか分からずに困惑しているようで口をパクパクとさせていた。希さんはどうにも止められなくなったようで、そのまま食器棚に押し付けてくる。そのせいで動けなくなってしまい、そんな俺に希さんは身を寄せた。

「希さん、準備しないと」

「どうでもいいです」

 希さんはこちらに身を任せてきた。このままだといつまでたってもクリスマスパーティーが開けないことを察した俺は頭を回して希さんに言う事を聞かせる術を考える。そして頭に浮かんだことが、いつの間にか出来ていた「ご主人様」設定であった。だが、近くにはなぎささんがいる。なぎささんには少しの間ご退場してもらわねば。

「なぎささん、玄関に荷物が届いていると思うので見てきてもらっても」

「わ、わかりました」

 いたたまれなくなっていたのだろうか、なぎささんはこそこそと台所を出ていく。台所に俺と希さんだけになったのを見計らい、希さんの耳元で声を変えて囁いた。

「人前で見境もなく抱き付く子にはお仕置きをしないとね」

 予想通り希さんのスイッチが入り、彼女の身体がびくっと震えた。希さんは慌てて俺から離れると、まるで許しを請うかのような視線でこちらを見つめてくる。ここで簡単に許してしまっては「ご主人様」失格だと思うのできっちりと罪は償ってもらうことにする。

「皿を運ぶのを手伝ってくれないかな?」

「は、はい、ご主人様」

 持っていく皿を半分希さんに渡し、もう半分は自分が持っていく。廊下に出たところで頭に疑問符を浮かべたなぎささんと再び出会った。玄関に荷物がなかったからであろう。それもそのはず、荷物を取って来てと言うのはなぎささんを台所から出す口実だったのだ。

「無かったですよ?」

「あれ……すいません、俺の記憶違いです」

「しっかりしてくださいね」

 なぎささんは料理の続きをするのだろう、台所へ帰っていく。皿を部屋に持っていくと、そこでは美香姉と理子姉がクリスマスツリーの飾りつけをしていた。飾りつけの方も最終段階に入ったようである。

「料理の方はどう? 将君」

「もうすぐ出来る所かな。千秋さんたちが何やっているか気になるけど……」

 千秋さんと愛理姉……一体何をやるのだろうか。大体予想が付きそうな自分が怖い。


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