初詣の姉
2015年新年あけましておめでとうございます記念
初詣に行きたいと言い出したのは愛理姉だった。テレビで神社の前に並ぶたくさんの人を見て、それに触発されたらしい。初詣には自分も行きたいと思っていたので、理子姉や百合姉に提案したところ、簡単にOKをくれた。
朝早くて周りも暗く、肌寒い中を白金家の五人で神社の鳥居をくぐった。美香姉はまだ眠いのか、理子姉の背中でむにゃむにゃと眠ってしまっている。愛理姉と百合姉も眠そうだが、二人は頑張って歩いているようだった。元気なのは俺と理子姉だけである。
理子姉は美香姉を背負いながら、ちらと俺の方を見てきた。理子姉は和服を着ていた。それが言葉に出来ないほどきれいで、つい見とれてしまう。彼女の意地悪な微笑みで我に帰り、照れるように足早になった。愛理姉は百合姉にぴとっとくっついていた。百合姉は大晦日のお酒がまだ抜けていないのか、足取りがふらふらと安定していない。
この神社に来たのも理子姉のおかげであった。彼女がお酒を飲んでいないから、俺は愛理姉と提案をすることが出来たのである。と言っても、当の愛理姉は眠そうだけれど。
「ちょっと早すぎたかな?」
そう言って苦笑いを浮かべる理子姉。首を横に振ると、彼女はいつもの笑顔に戻った。百合姉が愛理姉を歩行補助の器具のように扱っているのが何だか見ててほほえましかった。愛理姉がうにゃーっと大変そうに百合姉を運んでいる。百合姉は泥のようになっていた。
そうして、いつの間にか神社の本堂付近にたどり着く。あまり人のいない神社を選んだらしいが、それでも人はぱらりぱらりといる。
「お賽銭は用意した? 将君」
「五人分は用意できてるぞ。問題は投げられるかだけど……」
ちらりと百合姉の方に目をやる。彼女は愛理姉の背中にもたれかかりながらこちらまで何とか歩いてきていた。もはや、完全にお荷物である。これが普段の百合姉とはとても思えない。あの高貴で穢れのない態度とは……いや、穢れてはいるか。
「美香姉は起きたか?」
「今起こすよー」
理子姉はゆっさゆっさと背中をジャンプで揺らし、背負っていた美香姉を揺らして起こした。美香姉は何が起きたか分からない様子であったが、遠くに見えるお賽銭箱を見つけると、俺の持っている五円玉を見て理解したらしい。それでも、目をこすっているその姿はまだ眠そうであった。それが彼女の可愛い所でもあるが。
百合姉に絡まれて大変なことになっている愛理姉にも五円玉を渡した。その時、後ろから聞き覚えのある声で自分の名前を呼ばれる。
「将か。こんなに朝早くからご苦労だな」
振り返ると、そこには焼き鳥屋の千秋さんがいた。黒っぽいコートに白いマフラー。コートの下からは黒タイツが伸びている。普段の姿とは違うそれに、しばらく目を奪われてしまっていた。千秋さんは不審そうな目でこちらを見つめる。すいませんでした。
「そんなに見つめられても困るな」
「本当にすいませんでした」
「うわわわわぁぁぁぁ」
千秋さんに謝っている時、横から百合姉に押された愛理姉が近づいてきた。千秋さんは愛理姉を抱き寄せるように引き留めた後、土嚢のようにのしかかっている百合姉を肩に組ませた。百合姉は何だか安定したようで、その場でううっ、と唸っている。
「飲み過ぎたのか?」
「そ、そうみたいです」
愛理姉が若干焦りながら答える。愛理姉は相変わらず女運が強いな。千秋さんとの間に何かありそうである。そんな事を考えていると、後ろから理子姉がぐいっとのしかかってきた。そんな事を考えちゃいけません、と言っているようでもあった。
「千秋もお願いごとしに来たの?」
「ああ。今年は行こう、と思っていたからな。まさかここで会えるとは」
千秋さんは本当に男前である。俺よりも男前かもしれない。その言葉の一つ一つに張りがあった。腕を美香姉がくいっとつねったため、千秋さんの事を考えることはやめにする。
「……お賽銭」
美香姉がぼそっとつぶやく。理子姉と百合姉は千秋さんの所にいるようだったので、愛理姉、美香姉と一緒にお賽銭を投げてくることになった。
お賽銭の列は若干ながら並んでいる。三分くらいであろうか。俺は美香姉と手をつなぎながら愛理姉と並んでいた。愛理姉は先ほど千秋さんに抱かれたことがまだ何かあったのか、少し様子がおかしいようでもあった。
「愛理姉、どうしたの?」
「な、なんでもないよ」
愛理姉が慌てたように答える。そう言えば、百合姉に連れていかれた時もそうであった。愛理姉はもしかしたらお姉さま系キャラに弱いのかもしれん。義理の姉弟は似るのである。
美香姉は手を握ったまま、その場でうとうととし始めていた。列が進むときに頭をぽんぽんとすると、むにゃむにゃと何かを呟きながら前進する。その姿を見るだけで、長い列に並んでいる苦労が吹っ飛びそうであった。
「次だね」
「ああ」
愛理姉が五円玉をしっかりと握りしめる。立ちながら眠りかけている美香姉を起こした。列は前に進んでいき、三人で賽銭箱の前に並ぶ。2礼2拍手1礼を忘れずに行い、お願い事をそれぞれした。愛理姉が何だかたくさんお願い事をしている様子であった。
帰り際、愛理姉にこっそりとお願いの内容を聞く。
「何お願いしたの?」
「え……その、お姉ちゃんに聞く?」
「うん」
あえてダメ押し。
「うー……将君と、一緒にいられるようにって」
美香姉が肘で俺の脇腹をごすっと突いた。真面目にそういう音がした。痛い。美香姉は何も言わなかったが、行きと同じように手をつなぐことになった。愛理姉はそれを見ると何だか不満そうになり、空いた方の腕にそのまま抱き付いてくる。
すると、向こう側から希さんがやってくるのが見えた。
「あ、希さん」
「うぇ!? ……あ、将さん」
希さんは最初は驚いていたものの、こちらのことが分かると落ち着きを徐々に取り戻し始めた。彼女はゆるふわ女子という物を体現したような服装であった。ゆるふわー。
「あ、あの、将さんはご家族で?」
「はい。……まぁ、百合姉は酒で潰れましたけど」
「あ……」
希さんは何かを察したらしく、その場で苦笑いした。関わっちゃいけない何かを感じる。
どうやら彼女もお参り後らしい。四人で百合姉たちの所に戻ってくると、なんとそこになぎささんの姿もあった。なぎささんは理子姉と同じく、綺麗な和装に身を包んでいた。二人とも綺麗であった。なぎささんが少し寒そうなのが、何だか可愛い。
「……会っていきなりなんですか? 将さん」
「すいませんでした」
なぎささんは拗ねたようにぷいっと他の方を向くと、そのまま理子姉に抱き着いた。理子姉も寒かったのだろう、二人でぎゅっと離れる気配はない。
「寒いから早くお参りいかないとねぇ」
「早く行きましょう。ほら、将さんはそこで待ってて」
理子姉となぎささんはひょろひょろと行ってしまった。千秋さんも百合姉を叩き起こしながら後を付ける。俺たちはその後ろ姿を見送りながら、暖を取れそうなところを探した。
理子姉たちと合流し、急きょ新年のパーティーを白金家で行うことにした。目まぐるしいくらいの速さで家の中をごちゃごちゃと物が移動し、気が付けばもうパーティーは始まっている。美香姉は理子姉の所で眠ったようだ。愛理姉は百合姉と千秋さんの間に挟まれて顔を赤くしている。俺の隣にいる希さんは、何だか恥ずかしそうであった。
「今年もよろしくお願いしまーす!」
理子姉の声で乾杯した。今年も、よろしくお願いします。
四年目に入った白金家、今年もよろしくお願いします!
今の所死ぬまで書き続けるつもりであります!




