悪魔世界の特別公演 7
愛理姉が天使になっちゃったらしい。
ハービィさんにその事を言うと、どうも愛理姉の優しさと純粋さがそうさせたらしい。
「一応、魔界に天使がいることはあれなのだが……まぁ、なっちゃった物は仕方ないかな」
「他の悪魔に見つかったらどうなるんです?」
「特にないが、たまに天使を無理矢理……そういう悪魔がいるけど」
それを聞いた愛理姉は俺の方に寄り添ってきた。がくがくと震え上がっちまってる。
大丈夫だ、何かあったら俺が守る。力が及ぶかはわからんが。
「将君、私って大丈夫なのかな」
「大丈夫だ。愛理姉は俺が守るから」
「ありがとう……」
抱き合う俺と愛理姉を見て、ハービィさんは微笑みながらステージへ出て行った。
愛理姉のやわらかな身体を抱いていると、何だか知らないうちに幸せになってくる。まぁ、だから愛理姉が天使になっちゃったんだろうけどね。
みんなに愛理姉の天使の羽の事を話し、愛理姉はお空を飛んで売り子をすることになった。悪魔たちの鼻の下が伸びてるぞおい。ライブに集中できるのか。
理子姉は他のバンドメンバーに合図をすると、集まった悪魔たちに挨拶をした。
「みなさん、今日は来てくださってありがとうございます!」
会場全体が、一瞬で沸き立った。
大小種類問わずの悪魔たちが一斉に声を上げ、理子姉たちを凝視している。ステージの脇にいた俺は、理子姉からとてつもない覇気が来るのを感じていた。
「それじゃあ、最初はカバー曲から始めます! 曲名は、『禁断のエリクシア』」
もともとこの曲は理子姉の曲ではない。だが、理子姉はそれをうまく自分のものとしていた。歌手の真似をしているのではない。理子姉が、自分で歌っているのだ。
リーンさんの指が流れ、CD音源と変わらないサウンドを作り出す。
理子姉の口が開くと同時に、魔界全体は別世界に変貌した。
「……ぁ」
理子姉の声を聞くだけで倒れた悪魔が、俺の視界に軽く数十はいた。その場で固まる悪魔も少なくはない。理子姉の歌声は、表現は、魔界でも通用している。
「ペンライトいりますかー?」
そしてその上を、お空を飛んでいる愛理姉がペンライトを配っていた。
愛理姉の可愛さなのか、天使の珍しさなのかは分からなかったが、順調に売れているらしい。籠の中のペンライトが少なく見える。
そして、リリィさんのギターソロが流れると悪魔たちは一斉に歓声を上げた。
流れるような運指と痺れるような音。これ絶対プロの犯行でしょ。
「リリィさんもハービィさんもリーンさんも、凄いんだなぁ」
美香姉もミスをすることなく、正確にベースを弾いている。無言で、あまり表現をせず淡々と弾いているだけなのだが、美香姉の目を見るとなんだかぞくっとくる。
そうして、裏方でいろいろ準備をしている俺は、理子姉の歌う姿などに圧倒されていた。




