誘拐される姉 前編 3
「名前は?」
「リリィ、て言います」
彼女いわく、音楽の勉強がしたいため、人間界で音楽に詳しい人を探していたとか。
何か俺の知っている世界が一気にファンタジーになったんだけど。どうしてくれる。
リリィの背中から生えている黒い翼と、横にゆらゆら揺れているしっぽ。何だか人間にはないような色気と魅力を感じてしまうんだが。
「それで、姉さんたちは帰ってくるんですか」
「ほんの少しだけ借りる予定なんだよぉ、だからもうちょっと待っててよぉ」
俺たちは顔を見合わせた。
「ごしゅ……将さん、もう少しだけ待ってみます?」
「……リリィさんを信じるしかないな」
「はいぃ」
という事でリリィさんの言う通り、少し待つことにした。
が、来ない。一時間経ったけど来ない。ほんの少しだけとは何なんだ。
「……リリィさん、来るんですか?」
「来るよぉ」
「あの……どれ位で?」
「えーっと……一年くらいかな」
一年……長すぎですよそりゃぁ。
千秋さんたちはもう家でくつろいじゃってるし。というより明日学校。
「姉さんたちがいないと寂しいんですが」
「じゃああっち行ってみます?」
「あっち?」
リリィさんは俺の腕をつかむと、もう片方の手でゆびぱっちんをした。
あ、あれ、意識が……なぎささんたちが遠ざかっていく……




