こっそりな姉 1
〈百合姉、将君はどうなの?〉
「静かにしなさい、愛理。今見てるところだから」
〈むーっ〉
「あ、将が希と一緒に店を出たわ」
〈どこ行くんだろうねぇ〉
メールで日時を決めた後、その当日俺は希さんと一緒にデートをしていた。
とは言っても、こっちは特に何とも思っていない。でも希さんかわいいよ。
「あ、あの……」
「どうしたんですか?」
「その……遊園地、てのはどうでしょうか……」
自信がないらしく、細々とした声で俺に提案をして来る希さん。かわいいです。
俺も遊園地は良いと思うから、今日はそこに行くことにしよう。
「よし、じゃあ遊園地だな」
「は、はいっ」
俺と目を合わせただけで、希さんの顔がぼわっと真っ赤になる。
彼女の、少し茶色がかった髪が日の光で黄金色に輝く。
こんな女性とデート出来るなんて人生捨てたもんじゃないなぁ。姉さん、なんかごめん。
「……店長、怒っていないでしょうか」
「一応事前に話は通したけど……今更気にしても」
「そうですよね」
百合姉、怒ってないよねぇ。
「……希、将と一緒に遊園地に行くなんて」
〈ゆ、百合姉、一回落ち着いて!〉
「私だってまだ一緒に行ったことがないのよ」
〈……じゃあ、私と行く?〉
「あれ、愛理……?」
〈今そっち行くから、待っててね〉
「あ、愛理……電話切れちゃった」
電車に乗っていたが、相変わらずの混み様である。
ほぼ満員電車状態で、俺と希さんの間はあまり空いてはいなかった。
少し動けばくっつく。そんな状態で、希さんは口元がわなわなと震えてしまっている。
「……ひゃぁっ!?」
「あ、す、すいません」
腕がちょんとくっついただけで、声を少しだけ出してしまう希さん。
一体ぶつかったらどうなるんでしょう、という位、神経が敏感になっているようで。
降りる駅まではあと少しあるからなぁ。希さんとぶつからないようにしないt、あ。
「……ふへぇぇ」
電車のブレーキで俺と希さんは前に揺られ、ぶつかってしまった。
俺の息が希さんの首元にかかり、希さんの意識が一瞬ですっ飛ぶのを感じる。やばい。
その場で気が抜けてしまった希さんを立たせるだけで手いっぱいで、これ、迷惑。
「希さん、頼むから起きて」
「……え?」
希さんが目を覚まし、自分で立ってくれた。
他のお客さんに迷惑がかからなくてよかった。でも、ああいう反応かわいいなぁ。




