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Constellation Knight 〜私達の星春〜  作者: Remi
6節 偽りか、裏切りか

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第090話 どう思ってるの?

 俺はため息をつきながら、さっき買ったベビーカステラの片手にベンチに座る。


 ため息の理由を簡単に言うと、由衣ゆい日和ひよりと逸れたからだ。

 しっかりと追いかけていたはずが、2人は少し目を離した隙に人波に消えていってしまった。


 探しても良いが……確実に疲れる。


 そう思った俺は「座ってる」とメッセージを送って、星鎖祭りの会場の一角に設けられたベンチスペースに座りに来た。



 ……それにしても、この4ヶ月でかなり変わった。


 高校入学前の俺に現状を話しても、きっと信じないだろう。


 「由衣と日和に再会して昔のように会話している。そして共に戦う仲間ができた」なんて1ミリも考えていなかった。



 そして、同時に入学前の俺は怒るだろう。



 「お前は、また同じ過ちを繰り返すのか」



 「由衣を始めとした、今度は非魔師の人間すら巻き込むのか」



 ……だけど、今回は状況が違う。



 由衣達も選ばれ、堕ち星ではなく神遺保持者と成っている。



 ……だけどあいつらは一般人だ。

 魔師は、普通の人間と生きる世界が違う。



 いや、違う。今はこれで良い。

 むしろ遠足に行ったあの日、今のままでは駄目だと思ったから今がある。



 だけどいつかはまた、別れなければならない。



 胸の中に泥のような濁った感情を感じながら、俺はベビーカステラを口に運ぶ。



 そのとき、聞き慣れた声で俺の名前が呼ばれた気がした。


 あたりを見回すと、浴衣を着た誰かがこちらに向かってくる。

 その誰かは目の前まで来て「ちゃんと来てたんだ」と言った。


 そして俺は彼女が目の前まで来て、ようやく声の主が誰かわかった。


「……鈴保すずほか」


 その呟きに鈴保は「何、その反応」と少し機嫌が悪そうな声色で言い返してきた。


 ……しまった。

 一瞬誰かわからなかったのが気づかれたか?


 わからなかった理由。それは鈴保の雰囲気が普段と違うからだ。


 普段の鈴保は由衣の言葉を借りるとボーイッシュ、かっこいいという印象を受ける。

 しかし、今日は浴衣姿で女性らしく美しい。


 ……鈴保も鈴保で、顔が美形ではあるんだな。


 だが、これを全部言うと色んな意味で怒られる可能性がある。

 そのため俺は言葉を選んで絞り出す。


「……いつもと違う雰囲気に驚いたんだ。浴衣、よく似合ってる」

「…………は?え?」


 鈴保はそう呟いた後、固まってしまった。

 そして顔を逸らした後、「……………あ、ありがと」だけ呟いた。


 これは……照れているのか?

 表情が見えないので、何を考えているかわからない。


 だがまぁ……誤魔化せたようでいいか。

 もちろん、嘘は言ってないが。


 そう考えてる間に、鈴保は再びまっすぐ俺の顔を見ていた。

 そして「というか」と口を開いた。


「私より褒めてあげるべき人がいるでしょ」

「……あ?」

「由衣は褒め……」


 そこまで言葉にした後、鈴保が再び固まった。

 そしてきょろきょろと辺りを見回しながら「由衣は?」と聞いてきた。


「逸れた」

「あぁ〜………とりあえず、隣座るよ」


 そう言いながら、鈴保は俺の隣に座る。

 俺が言葉を返す前に。


 もう確認や許可ではなく宣言だな……。


 そんなことを考えている俺を気にせず、鈴保は「で、褒めたの?」と聞いてくる。


 俺はため息を堪えて口を開く。


「……あいつを褒めたらどうなるかわかるだろ」

「まぁ……気持ちはわかるけどさ……こう……」


 鈴保は最後まで言い切らずため息をついた。


 何だ。俺は何か間違ったことを言ったか?


 しかし、俺が理解する前に鈴保の質問が飛んでくる。


「……真聡は由衣のことどう思ってるの?」

「どうってなんだ」

「どう思ってるの?」


 意味を教えられず、質問だけを押し付けられている。


 どういう意味だ。どう答えたら良いんだ。

 しかし、これ以上聞いても答えてくれなさそうなので、素直に答える。


「そうだな……目が離せない…子犬…」

「子犬っ……!!」


 鈴保が噴き出すような勢いで笑い出した。


 「何故笑う」と聞くが、笑い続けて答えてくれない。


 笑いすぎだすぎだろ。

 俺は何かおかしなことを言ったか?


 数分後、鈴保はようやく落ち着いて口を開いた。


「はぁ……気持ちはわかるけどさ、そうじゃなくてさ……こう……人間的にどう思ってる?」


 鈴保は呆れた口調でそう聞いてきた。


 ……人間的に?

 人間で例えなかったからあんなに笑ったのか?


 そう考えた俺は何か良い例えがないか考える。


 答えは、すぐに出た。


「……強いて言うなら…………妹」

「うんっ……もういい……フフッ」


 呆れているのかと思いきや、これはどうみても笑っている。


 何が聞きたいんだこいつは。いきなり現れて……。


 そのとき、俺の中に別の疑問が生まれた。


「鈴保、あの2人と来てたんじゃなかったのか」


 笑いが収まり始めていた鈴保にそのまま疑問を投げる。


 すると、鈴保は深呼吸をしながら「あ〜……」と何とも言えない声を発した。


「実は、私も逸れたんだよね」

「探さなくて良いのか?」

「いやぁ……2人きりにさせとこうかな〜って」


 俺はその言葉の意図がすぐに理解できなかった。


 しかし、こちらの答えはすぐにわかった。


 夏祭り、高校生、昔からの付き合いがある男女2人。


「……まさか」

「梨奈は颯馬のこと、気になってるらしいからさ。

 ま、これは中学生の頃の話で今はどうか知らないけど」


 右手をひらひらとしながらそう言い放った鈴保。


 ……そういう話、赤の他人にしていいのか?


 そんな疑問が浮かんだが、それを塗り潰すような疑問が俺の中に生まれた。


「……もしかしてお前があの2人と距離を置いてたのって」

「いや、それは違う。

 ……あのときはそんな事考えている余裕はなかったから」


 さっきまで笑っていた鈴保の声が、一気に暗くなってしまった。


「……悪い。嫌なことを聞いたな」

「別に、もう終わったことだし」


 そのとき。俺はもう1つ、鈴保に言わなければならないことを思い出した。

 俺はすぐに「……もう1つ」と口を開く。


「最初にお前を概念体の蠍座から助けたとき、キツく言い過ぎた。……悪かったな」

「あのときは……私も悪かったから。

 それにもう気にしてないし。それももう終わった話」

「そうか」


 一緒に過ごすようになってからの雰囲気で、そこまで気にしていないだろうとは思っていた。

 だが一緒に過ごすなら、こういうことはしっかり片付けておくべきだろう。


 何にせよ、言えてよかった。


 そう思っていると、鈴保が「あ、でも」と口を開いた。


「あのときは凄くムカついたから……今日何か奢ってもらおうかな~」

「……実は怒ってるだろ」

「冗談だってば」


 そう言った鈴保は、ニヤッと笑っていた。


 そのとき。

 鈴保の名前を呼ぶ声がした。


 そして鈴保はすぐにその声の主を見つけたらしく、手を振り始めた。


 その声の主は浴衣を着た男女。

 鈴保の友人であり、逸れた相手である好井よしい 梨奈りな小坂こさか 颯馬そうまだった。


 どうやらそこそこ探したようだ。少し疲れた雰囲気が出ている。

 そして俺達の前にやって来て口を開いた。


「やっと見つけた……」

「勝手に消えるな」

「消えたのはそっちでしょ」

「すぐに喧嘩しない!……って陰星いんせい君?」


 俺は好井のその言葉で、2人と挨拶を交わす。


 小坂 颯馬も以前堕ち星と成り、戦った相手だ。

 だが、成っていた日数が短かったためすぐに元の生活に戻れたようだ。


 3人の関係は……まぁ、前よりはマシになったのではないだろうか。


 そして鈴保は「じゃあまたね」と言って立ち上がり、2人と去っていった。



 会話をする相手も居なくなったので、俺はぼんやりと人混みに視線を向ける。


 そんな俺の耳には、お祭りの熱気から生まれる人の声だけが聞こえていた。

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