第083話 質問
「……これが私の、過去と目的」
華山が、そんな言葉で話を締めくくった。
華山の事情はわかった。
協力の話を持ちかけてきたあの時から、何かあるとは思っていた。
……ここまで深刻な話だとは思っていなかったが。
とりあえず俺は気になった点を聞くために「いくつか質問いいか?」と言葉を投げる。
「いいよ」
「華山はどうやって澱みや堕ち星が出現した場所を集めているんだ。
確か最初に……『消される前に見つけることができる』と言ってたよな」
「それは……これを使ってるから」
そう言いながら華山が机に置いたのは彼女のスマホ。
……スマホでどうやって?
無数の可能性が頭の中に浮かび上がる。
俺が結論を出すよりも先に、由衣が「まさか……」と呟いた
「手作業?ずっと見てたってこと?」
「流石にそれは非効率だからないでしょ」
鈴保に突っ込まれ、「そう……だよね……」と由衣が下がり調子の声で呟やいた。
……俺以外に由衣にツッコんでくれるやつがいるの助かるな。
謎の感激を覚えていると、華山は「まさか」と口を開いた。
「正解は……スター、聞こえる?」
『はい。聞こえていますよ、チハル』
「「喋った!?」」
……喋ったな。
口には出さなかったが、由衣や志郎と同じ感想を持ってしまった。
だけどそんな俺達を気にせず、華山は説明を続ける。
「AIを使ってたの。名前はスターって言うらしい」
『はい。私の名前はスターです。よろしくお願いします』
そのやり取りを聞いて、鈴保が「説明のために名前を言うと反応するの面倒……」とボソッと呟いた。
そこに由衣が「言うらしいって?」と華山に聞き返した。
「多分お父さんが名付けたんだと思う。家にあるお父さんのパソコンに入ってたし。
本体は今もパソコンにあって、私のスマホから本体に遠隔でアクセスしてる状態」
「なんか良くわかんねぇけど凄いな……」
志郎がそんな感想を口にする。
だが、俺が気になっているのはそこじゃない。
「それで、AIをどうやって使ってたんだ」
「ネットに投稿されるものから、この街の澱みや堕ち星に関係ありそうなものを探してもらってるの。
ネットに投稿された瞬間にチェックが入るから、情報が消される前に複製が取れる。そこから信憑性が高そうなものを陰星たちに知らせてたって訳」
「AIって……凄いね……」
由衣と志郎がよくわかってなさそうな顔をしている。
いや、黙って「わかってますよ」という雰囲気の鈴保も、多分よくわかってないだろう。
俺だって本当に理解できているのか怪しい。
だが、どうやって澱みや堕ち星の出現情報を得ていたのかは大体わかった。
俺は次の質問を口にする。
「華山、話からすると1人暮らしなんだろ?」
「……うん」
「……生活費とかはどうしてるんだ」
俺の質問に続いて、由衣も「あ、それ気になってた。どうしてるの?」という言葉を口にした。
「お父さんが貯金通帳を置いて行ったから使わせてもらってる。
困ったら使いなさいという書置きも挟んであったし」
「……働き始めるまで足りるのか?」
「それが、月に一度数十万円ずつ振り込まれてる。月によってバラバラだけどね」
とんでもない事実に、部屋の空気が一瞬固まった。
その数秒後、志郎が「……マジ?」という声が響く。
「マジ。私は、そのお金を振り込んでくれているのはお父さんだと思ってる。
きっと、どこかから。だから私は、お父さんは生きてると思ってる」
「誰か別の人が振り込んでる可能性もあるだろ」と言いたかった。
しかし華山だってわかっていると思い、俺はその言葉を胸にしまう。
それに、そんな言葉を言うのは残酷すぎる。
そして最後の質問の前に、「先に言うと、これは無理に答えなくて良い」という前置きを口にする。
「最後の質問だ。
……お前を監禁していた連中、あいつらは何者だ?」
その瞬間、華山の両手が強く握られたのを俺は見逃さなかった。
……やはり聞くべきではなかったか。
だが後悔しても仕方ない。聞かなければわからないんだ。
丸岡刑事からは「華山はいきなり誘拐された」と聞いていた。
だが俺は、華山はまだ何かを隠している気がしていた。
口を開かない華山を見て、由衣が心配そうに「まー君もああ言ってるし、無理しなくていいよ……?」と声をかけた。
しかし、華山は静かに首を横に振った。
「……いや、話す。全部話すって決めてたから。
私は高校に入って、皆と行動するようになってからもお父さんの情報を探してた。
そんなある日、確か……7月前半くらい。いきなり私のスマホにメッセージが来た。最初のメッセージは『父親の情報を知りたければ、ギアと星座の力を奪ってこい』って内容だった」
その言葉に由衣が「それって!!」と声を上げる。
俺は即座に「由衣静かにしろ」と言葉を返す。
「……続きを話してくれ」
「……私は知りたくて、すぐに「やる」と返事してしまった。
でも、落ち着いてから気がついた。私なんかがみんなから、陰星からギアを奪えるわけがないって。
その日からずっと悩んでた。1度はみんなから無理やり奪おうかとも思った。すぐに無理だと思ったけど。
それで……先週。今度は「指定された場所に来たら、父親に関する話を教える」という内容が、別のアドレスから来た。
みんなから奪うのは無理だと悩んでたから、私はその場所に行った。危なかったら逃げたらいいと思ってたし。
でもそしたら、いきなりあいつらに誘拐された。
監禁されてからはずっとみんなを誘き出せと言われていた。
……でも、みんなに嘘は言いたくなかった。だから私は、澱みが出たときにどこに行ったかを教えていた。
あとは陰星の知っての通り。
だから、私はあいつらが何者なのか。最初に連絡してきた奴は何者なのかも全く知らない」
俺はその衝撃的事実に「そうか」とだけ返事をする。
少し落ち着くために、俺は目の前に置いてある紙コップにミルクティーを注いで口に運ぶ。
その前後の時期から華山と行動することが増え、距離が近くなってきたと思っていた。
だけどまさか、そういうことだったとはな。
しかし、実は華山をどうするかはもう既に決めている。
注いだ分を飲み干した俺は、その答えを口にする。




