第082話 私の目的
スイッチを入れるとバチバチバチと電気が流れる音がする。
その音は俺1人しかいないビルのフロアに響く。
華山 智陽監禁事件から数日後。
俺は警察からあのときに使われたスタンガンを預かっていた。
理由は改造されているからだ。
しかもそれはただの改造ではない。
魔術による改造が行われていた。
恐らく使われているのは電流魔術と失神魔術。
電流魔術により身体を動けなくさせ、失神魔術で確実に気絶させる……という連携が狙いなのだろう。
しかし、問題はそこではない。
問題は何故あの男達がこの魔術で改造されたスタンガンを持っていたか。
わかってはいたが男達は魔術どころか、スタンガンが改造されていることすら知らなかった。
供述によると、ただの特殊なスタンガンだと思っていたらしい。
だが一方、拳銃の方は細工されていなかった。
ではあのスタンガンはどこから?誰がこんな改造を?
一応俺もこのスタンガンを調べてみたが、残念ながら使われている魔術しかわからなかった。
そもそも俺は魔術師としては優秀でも何でもない。
そんな俺が使用された魔術から使った相手を探知できるわけがない。
そして男達もこれの送り主どころか、ギアとプレートを盗めと指示した相手すら知らないときた。
……面倒だ。
しかし、気味が悪い。
俺は右手でスタンガンのスイッチを入れたり消したりしながら思考を続ける。
……やはり本部に報告して送り、調べてもらうべきか。
しかし誰が魔術をかけたか分からない以上、あまり不特定多数の手を経由したくない。
出来ることなら信頼できる人間に手渡しが1番なのだが……。
「焔さんは今どこにいるんだよ……」と呟いたそのとき、扉を叩く音が聞こえた。
俺は改造スタンガンをケースに戻し、ケースのロックをかける。
そして扉まで向かい、鍵を外して扉を開ける。
「来たよ!」
「やっと来たか……って全員いるのか」
ドアを開けると、目の前に由衣が立っていた。そしてその後ろに志郎と鈴保もいる。
さらにその後ろには……
「……華山もいるのか」
「ほらやっぱり……」
鈴保が呆れたような声でそう言った。
そう。監禁事件の際に協力関係を終了した華山 智陽も来ていた。
今日は由衣から「話したいことがあるの。だからまー君の家に行くから出かけないでね!」というメッセージが来ていた。
「話したいこととは何だ?」と考えながら、言われた通り家にいたが……華山を見て大体の事情はわかった。
だが確認のために、「……話って華山についてか?」と疑問を投げる。
「そう。まー君に聞いて欲しい話があるの」
「聞かない……と言ったら」
「聞くだけ聞いてやれよ……」
志郎のその言葉に俺はため息をつく。
由衣が増えた気分だ。
だが聞くだけなら失うのは時間くらいだ。
そう思い俺は「入れ」と言って、部屋の中に戻る。
「だが何も出ないぞ」
「わかってるよ。だから私達でちゃんと買ってきた」
そう言いながら由衣と志郎はビニール袋を俺が座ったソファーの前にあるテーブルに置いた。
1つ目の袋から紙コップと1リットルのペットボトルが出てきた。種類は炭酸とお茶とミルクティーとフルーツジュースが1本ずつ。
……こういうとこ用意周到だよな。
呆れている間に全員が座ったので、改めて「で、聞いて欲しい話とはなんだ」と問う。
すると、隣に座った由衣が俺の方を向いて口を開いた。
「ちーちゃんを」
「由衣、ありがとう。でもここからは私が自分で話す。
……陰星、単刀直入に言う。私を、もう1回堕ち星との戦いに協力させて欲しい」
由衣の言葉を遮り、華山はそう言い放った。
さっき顔を見たときから、そんな予感はしていた。
……この前の監禁事件で懲りてないのか、華山は。
しかし、そんな俺を気にせず華山の言葉は続く。
「私には目的がある。そしてその目的を果たすためには、やっぱり陰星達と行動して、堕ち星と戦うことに協力するべきだと思ってる。
だからもう1回、私に協力させて欲しい」
そう言いながら、向かいのソファーに座っている華山が頭を下げた。
堕ち星と戦うことに協力することで果たせる目的……か。
「……目的ってなんだ」
「もちろん全部話す。私の目的も、過去も。長くなるけど、良い?」
俺が「昔話はそういうもんだろ」と返すと、華山はすぐに「まず」と口を開いた。
「私は、お母さんがもういない。私が小さい頃に病気で亡くなった。
だからその分、お父さんが寂しくないように頑張ってくれてた。私はそんなお父さんが好きだった。
でも、全てがそれで片付くわけでもなかった。
仕事の都合でお父さんが小学校の行事とかに来れなかったときがあった。
私は別に気にしてはいなかった。……少し寂しくはあったけど。
だけど周りは残酷だった。
私は事あるごとに「片親」とか「親無し」ってイジメられるようになった。
……でも、それで終わらなかった。小学校卒業して間もないある日。突然、お父さんが帰ってこなくなった。
お父さんの職場に連絡してみても、わからないと言われた。
そして数週間後、職場は閉鎖されていた。名前は……」
「「時代錯誤遺物研究所」」
華山と俺の声が重なった。
この場にいる全員が驚きの声と共に俺の顔を見る。
そしてすぐに由衣の「知ってたの!?」という声が飛んでくる。
「いや、今の話を聞いていて推測した。本当に当たるとは思わなかったけどな」
「……やっぱり、陰星は研究所のこと知ってたんだ」
「あぁ、俺の両親も同じ職場だったからな。
……俺の両親は、お前の父親が失踪したのと同じ時期に事故で亡くなったが」
その言葉で、部屋の空気がさらに重くなるのを感じた。
……まぁ、5人中2人が両親がいないという話をすれば重くもなるか。
だが今、話の焦点はそこじゃない。
俺は「それで、続きは?」と華山に話の続きを頼む。
「……お父さんがいなくなった後。私はお父さんの知り合いに手当たり次第連絡した。でも結局、何も情報を得られなかった。
私はあの日からずっと、お父さんを探してる。もちろん今も。
そして私は、ついに手がかりを見つけた。それが……」
俺はそこでまた「俺の使ってるギア……か」と推測した言葉を口にする。
今回は誰も驚かなかった。
華山は静かに「そう」と肯定をして、話を続ける。
「私は何度か研究所に連れて行ってもらってた。そのときに研究室に保管されてるギアを見たことがあった。それに、お父さんが残した研究資料にも書いてあったし。
だから私は、ギアを使っている陰星に近づいた。一緒に行動すればお父さんについて何かわかるかもしれないと思って。
そして今、お父さんについて何もわかってない以上。やっぱり陰星を頼るしかないと思ってる。だからもう1度、私を堕ち星退治に協力させて欲しい。
……これが私の、過去と目的」
華山の事情はわかった。
協力の話を持ちかけてきたあの時から、何かあるとは思っていた。
……ここまで深刻な話だとは思っていなかったが。
とりあえず、先に気になったことを聞かせてもらおう。
そう思い、俺は「いくつか質問いいか?」という言葉を口にした。




