第079話 罪悪感
監禁生活から解放されてから数時間後。
私、華山 智陽は病院のベッドで横になっていた。
あれから私は念の為に待機していた救急車で病院に運ばれ、念の為検査を受けさせられた。
検査結果は栄養失調だった。
そして今日は病院で一夜を過ごすことになった。
助かったのは良かった。
もう限界だったし、結局お父さんに関する情報も何も得られなかったし。
でも私の頭の中では、陰星には何も言われなかったことがずっとグルグルと回っていた。
私は、自分の身勝手な理由で陰星達を利用して、危険な目に合わせた。
最初から利用するために近づいた。
それは間違いないはずなのに。
私は今になって罪悪感で押しつぶされそうだった。
そのとき。
誰かが廊下を走る音が聞こえてきた。
その数秒後、「智陽ちゃん!?」という声と共に病室の扉が勢いよく開いた。
「大丈夫!?監禁されたって聞いたよ!?」
「由衣……気持ちはわかるけど、流石に病院の廊下は走るなよ……」
「そうよ。高校生になってまでこんなことで怒られたくないんだけど」
「で、でも〜!!」
そんな会話をしながら、白上と平原、そして砂山が入ってきた。
この様子だと、私が監禁されていたと聞いて心配して病院内を走ってきたらしい。
白上らしいけど、その優しさが今の私は辛かった。
私は身体を起こしながら、罪悪感から逃げるために話題を私自身から逸らす。
警察が話していたのを運ばれている間に聞いた話。
この話が本当なのかを知りたいのもあって、私は口を開く。
「……みんなこそスタンガンで気絶させられたって聞いたけど、大丈夫だったの」
「あれ痛かった!」
「俺も痛かった……」
「私も。というかスタンガンって普通気絶しないはずなんだけど」
「あのスタンガンは改造されてたからな」
声が一つ増えた。さっきも聞いた声。
……戻ってきたんだ。
そう思っていると、白上が後ろを向きながら「まー君!どこ行ってたの!」と怒りの言葉を叫んだ。
「というか私達が目覚めたときにはいなかったし!」
私を助けてくれた陰星が3人の向こう側、病室の出入り口に立っていた。
白上がそのまま「ねぇ!ねぇ!ちょっと!」と文句を言っている。
だけど陰星は反論をしない。
私は気が付くと、「陰星君が……私を助けてくれたの」と呟いていた。
「え、そうなの!?」と白上が私の方を向きながら聞き返してくる。
すると入れ替わるように砂山が振り向いて、陰星に「というか」と追及の言葉を投げた。
「何があったか説明してほしいんだけど?」
その言葉を受けて、陰星はようやく「……ここ数日」と口を開いた。
「澱みと戦闘しているときずっと誰かに見張られているのを感じていた。
雰囲気や気配から相手は素人だとはわかっていたが、狙いがわからないからわざと罠にかかった」
「……じゃあつまり、私達は真聡が気づいていたのに気絶させられたの?」
「相手の尾行の仕方が素人だから問題ないと思った。それに殺傷武器を持っていたら抵抗するつもりだった。
……まさかスタンガンが改造されていて問答無用で気絶させられるとは思わなかったが」
「でも先に言っといてよ!」
そのまま砂山と白上は陰星に怒りの言葉をぶつけている。
でも私もこれは怒って良いと思う。
……私が言えたことじゃないけど。
そして陰星はまた反論しない。
するとそこに平原が「まぁ……」と間に入った。
「そこは予想外だったんだろ?俺たちは怪我してないから許してやろうぜ、な?」
その言葉で砂山と白上は口を閉じた。
不服そうなオーラはあるけど。
そして平原は「で、その後何があったんだよ」と言葉を続ける。
「……俺はあの路地から出る前にギアを喚び出し、プレートを生成しておいた。するとやつらはギアとプレートを盗んでいった。
俺は奴らが去った後に起き上がり、丸岡刑事に連絡を入れて奴らを追いかけた」
「え、まー君は気絶しなかったの?」
「していない。防御の術を張って身体を守り、気絶したフリをしていた」
「じゃあ私達もそうしたら良かったでしょ。何で先に言っといてくれなかったの?」
すると陰星は、「……お前らそういう演技できないだろ」と呟いた。
その言葉に対して、噛みついた砂山の口から「あぁ〜……」と何とも言えない声が漏れる。
そんな2人の視線は白上の方へと向く。
それに気が付いた白上は「何で私を見るの!?」と反論を始めた。
……でも言いたいことはわかる。無理そう。
そんな白上を平原がなだめた後。陰星に「どうやって追いかけたんだ?」と疑問を投げた。
「ギアには追跡できる術をかけていた。それで追いかけた」
「そんなこと出来るんだ……」
「そのまま追跡をして、潜伏してるマンションの部屋を特定した後、もう一度丸岡刑事に連絡をした。
そして周辺を包囲してもらった後、突入して制圧した」
「そこに智陽ちゃんがいた……ってことなんだね」
「あぁ」
「とりあえず、怪我がなくて良かったよ……」
白上がそう呟きながら、私の横に来て私の手を握った。
……やめて。
私は、心配して貰う価値なんてない。
私は罪悪感から白上の顔が見れずに俯く。
そこに、低い声で鋭い指摘が飛んできた。
「華山。お前、何を考えている」
私はその言葉でハッとして顔を上げる。
すると陰星は私の正面、足元の壁際に移動していた。
そして彼の目はまっすぐ私をみていた。
私はその視線を受けて、「私は……」と口籠ってしまった。
今になって、頭の中が恐怖と罪悪感がぐちゃぐちゃになってる。
どうしたいのかわからない。
ただ1つ、言えることは。
この罪の意識から逃げ出したかった。
そして、気が付くと考えていること全部を口にしていた。
「私は……許されないことをした。
自分の目的のために陰星に近づき、利用しようとしていた。そして……あなた達を不必要な危険にさらした。
だから、どんな処罰を受ける覚悟もできている」
「智陽ちゃん!?処罰って……」
「……そうか。
だったら、協力を今日で終わりとする。」
白上が「何言ってるの!?」と言わんばかりに、「まー君!?」と叫ぶ。
でも、これでいい。
助け出されたときから、覚悟はできていた。
私は絞り出すように「……わかった。」とだけ返事をする。
「……忘れろとは言わない。
だが、もうこういうことに関わるのは辞めろ」
そう言い残して、陰星は病室から出ていた。
それを追いかけるように残された白上達3人も慌ただしく、騒がしく病室から出ていった。
そして、病室は一気に静かになった。
私は、《《また》》独りになった。
でもこれは、私が自分で招いた結末だ。
そう思いながら私は、病室のベッドに身体を預けて横になった。




