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Constellation Knight 〜私達の星春〜  作者: Remi
5節 逃げるか、逃げないか

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第065話 何もかもが嫌

 私、砂山さやま 鈴保すずほは川にかかっている橋の上にいた。

 そして、欄干にもたれて腕を下に垂らしている。

 それはまるで干された布団のように。


 夜風が気持ちいい。

 夜でも蒸し暑い季節だけど、吹いてくる風は浴びると少し涼しい。


 だけどその風は、最悪な今日を吹き飛ばしてはくれなかった。

 私の頭の中でまた最悪な今日の振り返りが始まる。


 まず梨奈りなに捕まった。また「一緒に陸上をやろう」って言われた。

 するとそこに颯馬そうまもやってきて喧嘩になった。


 私は「陸上から逃げたやつ」だって。


 ……颯馬に私の気持ちがわかるか。

 私の悔しさと、虚しさが。



 その後、怪物に襲われた。


 巨大な蠍だった。

 怪物の噂は聞いていたけど、実際に見たのは初めてだった。


 死ぬかと思ったけど、梨奈に庇われた。

 お陰で逃げれたけど、巨大蠍は私を追いかけてきた。


 ……そういえば私をかばったとき、梨奈も転んでたよね。


 心配じゃないって言えば嘘になる。


 でも、梨奈に連絡する気にはならなかった。

 梨奈からはメッセージが来てたけど。


 ……なんなら親からもメッセージが来てたけど、返す気にもならなかった。


 そして鎧を着たやつに助けられた。

 本当によくわかんないけど、中身は同じ星芒せいぼう高校の制服を着たやつだった。


 それにしてもムカつくやつだった。今思い出してもイライラしてくる。


 何で初対面のやつに言いたい放題言われないといけないの。

 でも1番ムカつくのは……。


 ちょっとイライラしてきた次の瞬間。

 「ちょぉっと待ったぁ!!!」という大声と共に、私の身体が突然後ろに引っ張られる。


 何!?不審者!?痴漢!?変質者!?


 私は反射的に、両手で欄干を掴んだ。

 離したら何されるかわからない。


 というか力強っ!?これ私両肩掴まれてる!?

 怖すぎるので私は両手に力を入れて必死に抵抗する。



 ……でも少し冷静になってみると、私の肩を掴んでる推定不審者は何か言ってるよね?

 というか聞き覚えある声な気がするんだけど……。


 そう思いながら、私は推定不審者の言葉に耳を傾ける。


「砂山!やめろって!真聡ことは俺が代わりに謝るから!早まるなって!」



 ……これ、平原ひらはらじゃん。


☆☆☆


「あのさ、いきなり両肩を掴むのやめてくれない?不審者かと思って怖かったんだけど」

「それは本当に悪い……」


 とりあえず、簡単に事情を話し合った後。

 落ち着いた私達は改めて橋の欄干にもたれなおす。



 まず、私の両肩を掴んだのは同じクラスの平原だった。

 どうやらあれから、ずっと私を探してたらしい。


 そしてやっと見つけた私が、橋の欄干もたれていた。

 それを平原は川に飛び込もうとしてると勘違いして、慌てて引き止めようとしたらしい。


 ……本当に怖かった。マジで不審者かと思った。


 怖かったけど、不審者じゃなくて知り合いで良かったと心底安心した私がいた。


 そして平原は「つまり……」と言葉を発した。


「砂山は本当に死にたいなんて思ってないんだな?」

「だからさっきから無いって言ってるでしょ。あれはあまりにもイライラしてたから言っちゃっただけ。……八つ当たりみたいなもの」


 私の言葉に、平原が「何だよ……」と力が抜けたような声で呟いた。


「……怒った?」

「あ~……いや、安心した……って感じ」


 ……怒らないんだ。

 あれから約半日、探し回って結局無駄足だったのに。


 何?馬鹿だとは思ってたけどお人好しも極まってるの?


 しかし、平原はそんな私を気にしてないようで、「なぁ」と口を開いた。


「砂山に何があったか聞かせれてくれねぇか?」

「……何であんたに話さないといけないの」

「それは……そうだよな……」


 「デリカシーとか無いの?」と言いそうになる。

 でも「平原はそういう配慮はできなさそう」と思ったので言うのをやめた。


 ……でもちょうど気になってたから、さっきのやつについて聞いてみようと思った。

 思い出すだけでもムカつくけど。


「ねぇ。さっきの私に好き放題言ったやつ、誰?」

「あぁ〜……名前は陰星いんせい 真聡まさと

「陰星……真聡……。何なのあいつ。めっちゃムカつくんだけど」

「俺もあれはどうかと思うんだよな。

 自分の予想だけで人を決めつけるなって話だよな!」


 右手で作った拳で左の掌を軽く殴りながら平原はそう言った。

 一緒に怒ってくれてるのか、それとも平原自身も嫌だったのか。

 どっちなのかはわからないけど。


 でもそうじゃない。

 

「私が1番ムカついたのはそこじゃない」

「え?」

「初対面のくせに、私の言葉が嘘だってことを見抜かれたのが1番ムカつく」

「それって……」

「私、何もかもが嫌なの。過去も未来も街も世界も。……前に進めない自分も。もう何もかもが嫌」


 そう。私は自分が思ってることを、初対面のやつに見抜かれたのが1番ムカついた。

 私のことを何も知らないやつに、何がわかるって言うの。


 ……というか、私は何で平原にこんな話してるの?

 ただ同じクラスなだけのやつに。


 そう思ってると、平原が急に「あ~……!」と大きな声を出した。

 私は反射的に「何!?」と文句を投げる。


「急に大きな声出さないでくれる?」

「あ、悪い……。

 いやさ『真聡が言うことってやっぱ間違ってねぇんだな〜』って思って。口は悪い癖に」

「……何であいつと友達やってるの」

「それって……きっかけを聞いてるのか?」

「違う、理由。

 ……あいつの魅力とか」


 平原だって陰星ってやつの文句を言ってるのに、「言うことに間違いはない」と断言する理由が気になった。


「そうだな……あいつ口は悪いし冷たいけれど、やることはしっかりしてる。自分がやると決めたことは、絶対やるやつなんだよ。

 あと噂とかに流されず、自分の目で見たもので考えてる。まぁ……単に噂を知らないだけってのもあるかもしれないけどな。

 それに、名前も知らない誰かを怪物から守るために戦えるか?

 俺はそういうとこが良いと思ったんだよな。でも口は悪いけどな!」


 そう言い切って平原は笑い出した。


 ……これ笑いどころなの?


 わからないからそこは無視する。


 でも陰星は実際、私をあの巨大蠍から助けてくれたときも正面から尻尾を受け止めてた。


 ……その後、投げ飛ばされてたけど。


 もし私に同じことができるかって聞かれたら……きっと無理。

 戦う力があってもできないと思う。


 ……そういえば、平原は同級生を殴ったって噂があったっけ。


 そもそも人と関わるのを避けてたから、噂を聞いても特に気にしてなかった。

 でも実際、こうやって《《ちゃんと》》喋ってみると、平原はそんな人には思えない。


 ……きっと、平原も色々大変だったんだろうな。


 何となくだけど、平原が陰星を評価する理由がわかった気がした。 

 そして私は、何故か平原に質問をしていた。


「平原ってさ、挫折とかしたことある?」

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