第059話 巨大な蠍
赤の他人とは言え、喧嘩を止めれなかったのはもやもやする。
そんなもやもやを抱えながら下駄箱で靴を履き替えていると、悲鳴が聞こえた。
一緒にいる志郎君と智陽ちゃんと悲鳴だと確認した私達は、慌てて外靴を履きながら聞こえた方へ走る。
悲鳴が発生した場所は下駄箱と校門の間。
そこで金色の髪の女子生徒、砂山ちゃんが巨大な蠍の怪物に襲われていた。
一応言うと、蠍人間ではなく本当に巨大な蠍。
私達人間が上に乗れるぐらいのサイズは余裕である。
そして身体の色。
堕ち星は今まで黒がメインだったのに、あの蠍は深い紅色。
……もしかして、堕ち星じゃない?
でも今はそんな場合じゃない。
その巨大な蠍の尻尾が、既に砂山ちゃん目掛けて振り下ろされている。
この距離だと間に合わない。
そう思ったとき。
さっき喧嘩を止めようとしていた女の子が砂山ちゃんを突き飛ばした。
そして女の子も体勢を崩して転ぶ。
だけど誰も蠍の尻尾は当たってないみたい。
とりあえず安心。
だけど安心できたのも一瞬で、今度はその女の子を目掛けて尻尾が振り下ろされた。
今度こそ駄目だ。
そう思ったとき。
今度は蠍の尻尾があちこちから生えてきた蔓によって縛られた。
蠍は尻尾の蔓を振り解こうとジタバタしてる。
「お前ら何見てる!さっさと星鎧生成しろ!」
その声は蠍の向こう側から聞こえてきた。
奥を見ると、まー君が制服姿のままで蔓を操っていた。
そして私と志郎君はその言葉で我に返って、慌ててギアを喚び出す。
そしていつもの手順でプレートを差し込んで、手順を取る。
「「星鎧 生装!!」」
その声と同時に、ギアの上側にあるボタンを押す。
2つの星座が飛び出して光を放つ。そして2人の高校生をそれぞれ包みこむ。
その中で、私達の身体は鎧に包まれる。
そして、光は晴れる。
私達はすぐに蠍座に向かって走り出す。
……いや、でもこれ。どうやって戦えばいいの!?
こんな本当の回物みたいな相手、初めてなんだけど!?
とりあえず、女の子を助けて巨大蠍から距離を取らないと。
志郎君は蠍座に向かって走っていく。
砂山ちゃんはいつの間にかいない。
だから私は女の子に駆け寄って、肩を貸して一緒に後ろに下がる。
すると、智陽ちゃんが「白上さん」と私の名前を呼びながら、下駄箱から顔を覗かせていた。
「智陽ちゃん!この子お願い!」
「任せて」
その会話をしながら、私は智陽ちゃんに女の子を預ける。
そして、振り返って巨大蠍を確認する。
既に志郎君と星鎧を生成したまー君が戦っている。
私達も急いで戻ろうと走り出す。
だけど突然。私の周りに澱みが地面から湧き出してきた。
そして「いやぁ……」と聞き覚えがある声も聞こえてきた。
「反応があるから来てみたら、まさかもう君たちがいたとはね。
まぁ、だからといって諦めるわけじゃないけど」
私の前に、からす座の堕ち星が空から現れた。
……私が相手をするべきだよね。
そのとき、からす座を目掛けて水が飛んできた。
だけどからす座は「あっぶな~」と呟きながら避けた。
「お前の相手は俺だ。由衣は澱みを頼む」
そのまま、まー君は「レチクル座、返して貰うぞ」とからす座に言葉を投げつけて、戦い始めた。
まー君1人でからす座と戦うのは不安しかない。
だけど、澱みだって無視はできない。
私は少し焦りながら、澱みと戦い始めた。
☆☆☆
最後の1体の澱みに、私は渾身のパンチをお見舞いして吹き飛ばす。
吹き飛んだ澱みは地面に落ちると同時に消滅した。
志郎君や大牙さんに色々教わるようになって、最初から上手く戦えるようになってる気がする。
……もちろん、まー君には及ばないけど。
でも澱みはそこまで多くなかったので、そこまで苦労せずに倒せた
やっと澱みも片付いたし、まー君の援護のために走り出す。
そこに、志郎君が転がって来た。
私は驚きながらも足を止めて「大丈夫!?」と声をかける。
「俺は大丈夫……」
そして志郎君は「いってぇ」と呟きながら立ち上がる。
……私はどっちを手伝えばいいんだろう。
悩んでいると、志郎君が「……あの蠍がいねぇ」と呟いた。
私は口から驚きの声を発しながら辺りを見回す。
確かに、どこにもあの大きな蠍は居なかった。
「……やべぇ」
「えっと……どっちに行ったの?」
そんな会話をしている私達の前に、まー君が着地した。
でも、何も言わない。
怒られる。
そんな予感が私の中を走った。
だけど、まー君の口から出たのは予想外の言葉だった。
「……からす座、任せるぞ」
「……さっきのデカい蠍追うのか?」
「あぁ。あれはあれで放置できない」
「う、うん。こっちは任せて!」
その会話の後、まー君は校門に向けて走っていった。
そしてからす座が「あ〜あ」と呟いた。
「山羊座君行っちゃった。蠍も行っちゃったし……。
君たちじゃちょ〜っとつまらないんだよねぇ……」
「何がつまらないだ。俺達をナメるなよ!」
そう言って志郎君は両手に武器を生成して、からす座に殴りかかった。
志郎君の武器は格闘技のグローブみたいなやつ。
まー君には「ガントレットだろ」と突っ込まれたけど。
ちなみに手の甲から爪も伸びるらしい。
志郎君はからす座に容赦なく殴りかかる。
だけどからす座は、志郎君の攻撃をあしらうように避けている。
私も黙って見てるだけには行かないから杖を生成する。
そして羊型のエネルギーの塊を生成して、志郎君に当たらないようにからす座に突撃させる。
しかし、私の羊も避けられる。「おっと」と軽い声と一緒に。
そしてからす座はそのまま飛び上がって、部室棟の屋根の上に着地した。
「そうだったそうだった。牡羊座ちゃんは少し面倒なんだった。
これ以上戦っても意味ないし、今日はこれで帰るね。じゃあね」
そう言い残して、からす座はそのまま飛び去っていった。
……終わったんだよね。
私達はとりあえずギアからプレートを抜いて、高校生の姿に戻る。
それで、からす座はどっかに行っちゃったから……。
「……あ、まー君追いかけなきゃ!」
「そうだ!あでも……何処に行ったんだ?」
「えっと……メッセージ送ったらいい?」
「でも、戦ってると見れないだろ」
「確かに」
志郎君とどうするか話し合うけど意見が出ない。
そこに「何してるの」という言葉と一緒に、智陽ちゃんがどこからか戻ってきた。
下駄箱とは反対の方から。
「陰星君の場所なら大体の方向はわかるから。行くよ」
「おう!」「うん!」
その会話の後、私達3人は走って学校を後にした。




