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私達の星春群像奮闘記  作者: Remi
19節 誰かを護るために

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第328話 普通ではないのは

 朝の陽ざしが降り注ぐ中。

 俺は弓道場の床に正座で座っていた。


 背筋を伸ばし、目を閉じて。

 呼吸のリズムだけを意識する。


 矢を射るのは、そのときの精神や姿勢も大きく関わる。

 そのため、俺は幼い頃からよく正座をしてきた。


 今も、精神統一をしているという訳だ。



 ……いや、嘘だ。



 実際は不安で仕方ないので、自分の気持ちを落ち着けようとしているのだ。



 矢持やもち 満琉みちるが、や座の堕ち星にさせられた。

 俺はどうすればいいかわからなくなり、陰星いんせいに決闘を申し込んだ。



 その結果、呆気なく負けた。



 しかし、そんな俺を白上しらかみや陰星達は責めなかった。

 それどころか、俺に力を貸してくれることになった。



 その後、改めて陰星達は色々なことを教えてくれた。



 レプリギアの使い方や澱みや堕ち星といった怪物について。



 そして、俺に足りないもの。



 以前に矢持あいつからの通話越しに陰星達の話は聞いたことはあった。

 しかし、改めて聞くと情報の量が多い。


 かなりのことを聞いたが、これでも最低限らしい。


 ……この戦いは、俺が思っているよりも複雑なのだろう。


 春休みのとある日を境に、テレビでも怪物騒ぎについて報じられるようになった。

 きっとそれが、その複雑さの何よりの証拠なのだろう。



 だがそんな疑問よりも、俺の中には不安がより大きく渦巻いていた。



 ……怪物にされた矢持 満琉(あいつ)は、本当に戻るのだろうか。



 俺は矢持 満琉(あいつ)を、どう思っているのだろうか。




 ……いや、それ以上に片づけないといけない問題が目の前にある。



 それは、父さんに何と言うかだ。



 父さんは小さな頃から、俺に他人と過度に関わる事を禁じてきた。

 そのため俺には、友達がいない。


 作ったとしても、相手まで酷く怒られる。

 家まで着いてきた矢持 満琉(あいつ)が何度怒られたことか。



 他の例としては、小学校低学年の頃。

 学校の帰りに、澱みに襲われている同級生を助けたことがあった。


 その同級生はその出来事以降、何かと俺に話しかけてくるようになった。


 この話を父さんにしたとき。

 驚くほど怒られたのを、今でも覚えている。


 あの怒っているのか、恐れているのか。

 わからない父さんの顔は、今でも思い出せる。



 ……しかし、今思えば。

 あの日が俺と矢持 満琉の関係の始まりだった。



 あの頃は、なぜそんなに怒られるのかわからなかった。



 だがある程度大きくなってからは「父さんがそこまで怒るのは仕方ないことだ」と分かった。



 射守いもり家には射手座の力と呼ばれているものが代々受け継がれている。

 紫と紺の光を放つ、弓と矢を作り出せる力。


 その力は、澱みという泥の怪物を一撃で消滅させることができる。

 俺はそんな力を、物心がついた頃から使いこなす鍛錬をしていた。



 そんな射守家の普通は、世間の普通ではない。

 ずっとそう思って生きてきた。



 ……しかし、俺は俺以外にも同じような力を持つ者達と出会った。



 そんな陰星達は、同じような力を持っているのにも関わらず世間に溶け込むように過ごしている。



 もしかして。

 普通ではないのは射守家ではなく、父さんなのではないか。



 そんな疑問が、俺の中に芽生え始めていた。




 そんな父さんを、どうやって説得しようか。



 陰星達と協力することを隠し続ければいいのかもしれない。



 だが協力するとなると、今までと違うことも起きてくるだろう。

 それを含めて、俺は隠し続けられるだろうか。



 協力しない手もありかもしれない。



 だがそれでは、矢持 満琉(あいつ)を助けられない。

 堕ち星と成った人間を助けられるのは、牡羊座の力を持つ白上だけらしい。


 それにこれ以上、身体と弓と矢だけで戦うのは限界だと感じていた。


 レプリギア。陰星達が鎧を纏うときに使う道具。

 陰星はそのレプリギアを、俺に渡してくれた。


 レプリギアがあれば、俺も陰星達のように1人で堕ち星と戦えるのだろうか。


 だが、これを使っているところ家族に見られれば。

 確実に人との繋がりを持ったことがわかってしまうだろう。



 父さんは確かに少しおかしいのかもしれない。



 しかし。弓道を始めとした、俺の様々な成長を父さんは褒めてくれた。



 俺はそんな()()()父さんを、裏切るようなことはしたくない。



 ……本当に、どうしたものか。



 そう考えていると。

 「聖也せいや」と俺の名前を呼ぶ声が聞こえた。


 眼を開けて、声が聞こえた方を向く。


 するとちょうど、父さんが弓道場に入ってきたところだった。


「今日はまだ撃ってないのか」

「……はい。精神統一も大事だと思って」


 入ってきた父さんに、俺はそんな言葉を返す。

 そして父さんは俺の前を横切った後、足を止めた。


「……何か、悩みでもあるのか」


 28m先にある的の方を見ながら、そう呟いた父さん。


 ……まさか、見抜かれているのか?


 そんな疑問が、頭の中をよぎる。



 だが、ここで誤魔化す方が怪しまれるだろう。



 嘘はつかない、だが全ても言わない。

 そんな答えで父さんの様子を窺う。


 それが妥当な返しだろう。


 そう思った俺は「実は」と口を開く。


「自分の強さについて、少し悩んでいて」

「……心配するな。お前は強い。

 前にも言ったが、聖也は俺が高校生の頃よりも比べられないぐらい既に上手い。段位だって、高校生の頃の俺よりも上だ。

 射手座の力だって、俺以上に扱えている。だから心配するな」


 普段と変わらず褒め、励ましの言葉を返してくれた父さん。


 俺がここまで来れたのは父さんや、祖父が教えがあったからだ。

 そして弓道にのめり込む俺を応援してくれたからだ。



 ……陰星達と協力し、矢持 満琉(あいつ)を元に戻そうとするのは。

 父さんからの期待を裏切ることになるだろうか。


 そう悩んでいると。



 突然、ゾワッとする嫌な感覚を覚えた。



 これは、怪物が出る前兆だ。



 その直後。

 弓道場の矢道でもある家の中庭に、何かが落ちてきた。



 その姿は全身が黒く、木製を思わせる身体。

 そして足には矢の羽根ような飾り、頭には光沢がある三角錐状の笠のような物。



 昨日、俺が撃てなかった相手。



 矢を模したような怪物。

 や座の堕ち星と成った、矢持 満琉だった。

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