第274話 花吹雪
遠くから弓矢で援護してくれる射守君とからす座と協力して、3頭犬を倒そうとする私。
そこに、待ち望んでいたみんなが来てくれた。
星鎧を纏ったゆー君、しろ君、すずちゃんが前に出てくれて、ひーちゃんが「大丈夫?怪我は?」と聞いてくれた。
みんなが来てくれるのを、ずっと待ちながら戦ってた。
だから凄く嬉しかったし、安心した。
でも、そんなみんなの姿を見た途端。
私の星鎧は、光となって消えてしまった。
正直、もうくたくただった。
魔力も星力も、あと普通に体力も。きっと限界だったんだと思う。
でもやっとみんなが来てくれて、ここからが本番のはずなのに。
だけどみんなは「少し休んでていい」って。
ひーちゃんは「私達が来たから安心したんでしょ」って言ってくれた。
だから私はそんな皆に甘えて、後ろで休みながらちーちゃんからいろんな話を聞いていた。
麻優ちゃんからちゃんと連絡が来たこと。
外やSNSが大変なことになってること。
あの3つ頭がある犬はケルベロスって言うこと。
でもあのケルベロスは本当の動物なのか、星座概念体なのかわからないってこと。
ここまで、超常事件捜査班の人がたくさん助けてくれたこと。
そして、まー君がへび座の足止めをしてるってこと。
……私も、戦いたかった。
せっかくみんなが来てくれたんだし、早くケルベロスを倒してまー君を助けに行きたかった。
だけど、私の身体は動かなかった。
ただ、みんなが戦ってくれてるのを見てることしかできなかった。
そんな自分が、悔しかった。
あと、からす座は気が付いたら居なくなってた。
たぶん、みんなが来てくれた時に逃げたんだと思う。
でも、みんなが居ればすぐに終わると思った。
射守君は変わらず矢を撃ってくれてるし。
今まで私達は、みんなで力を合わせて勝って来たんだから。
でも、思ったように上手くいかなかった。
それどころかケルベロスの攻撃は、どんどん激しくなっていく。
そんなケルベロスに、みんな押されていく。
そんなとき。
紺色と黒色の鎧がいきなり左の大通りから飛び出してきた。
紫の光を放つ翼で、空を飛んで。
まー君だ。
へび座はどうなったかわからないけど、こっちに来てくれたんだ。
だけどまー君は、まるで自分1人しか居ないみたいにケルベロスと戦い始めた。
私達の声も、聞こえてないかのように。
もちろん、心配だった。
「また1人で勝手にやらないで!」と叫びたくもなった。
でも「まー君なら何か考えがあって、何とかできるのかも」とどこかで思っている私もいた。
けど、まー君も上手くいかずに吹き飛ばされた。
そんなまー君を助けようと、ゆー君、しろ君、すずちゃん、ひーちゃんがケルベロスと戦いにもう1回前に出た。
その間に、私はちーちゃんと一緒にまー君を助けに走り出す。
だけど突然。
ケルベロスが3つの頭から黒い靄、澱みを吐き出した。
その澱みによって、4人が吹き飛ばされる。
そして私達の動きも邪魔される。
その間に、靄状の澱みはまー君へと襲いかかった。
まー君は準備していた流星群で澱みを押し返そうとしてる。
でも、途中で負けてしまった。
まー君の姿は、そのまま澱みに呑まれて見えなくなる。
……助けないと。
私は再び、まー君の元へ走り出す。
止めようとしてくれるちーちゃんを気にせず。
私が辿り着くまでに、澱みが晴れた。
まー君の星鎧は消えてない。
だけど、膝をついていた。
そんなまー君に、ケルベロスが迫る。
そしてケルベロスのひっかきを受けて、まー君は吹き飛んで行った。
助けに行きたかった。
無事なのか確認したかった。
でも星鎧が消えてしまっている私は。
ケルベロスを追い抜いて、まー君を追いかけることはできなかった。
そして、ケルベロスは振り返ってこっちを向いた。
ちーちゃんが私の腕を掴んで「由衣!下がるよ!」と言ってる。
でも既に3つの頭が私達を捉えている。
下がるべきなのはわかってる。
まだ、車3台分ぐらいの距離はある。
だけど、概念体相手にこの距離は逃げられない。
もう、1年も戦ってるんだもん。
なんとなく、わかってしまった。
そしてそんな嫌な予感は当たった。
私達が後ずさりを始めた瞬間。
ケルベロスが地面を蹴った。
……とりあえず、せめてちーちゃんは守らないと。
そう思って、前に出たとき。
「目を閉じろ!」というゆー君の声が聞こえた。
その声で私は咄嗟に目を閉じて守る。
その直後、目の前で目を閉じてても眩しい光が炸裂した。
同時に、風を切るような音と何かがぶつかったような音が聞こえた。
光が収まったので目を開ける。
すると既に、ゆー君、しろ君、すずちゃん、ひーちゃんが既に前に出ていた。
見えないながらも暴れるケルベロスを、抑えようとしてくれるみんな。
そんなみんながケルベロスの攻撃を避ける姿は、疲れ切っているように見えた。
みんなふらふらとしていて、動きにキレがなくなってきてる。
…………私だけ、見てるだけなんて。
でも悔しがってるだけじゃ、何もできない。
なので私は両手を握りしめながらも「ちーちゃん」と口を開く。
「……何?」
「まー君を探してきて欲しいの」
「いいけど……由衣は?」
「私は、みんなを手伝う。
1人だけ見てるだけなんて、できないから」
そう言った後、私は隣にいるちーちゃんを見る。
ちーちゃんは、私をまっすぐ見ていた。
当然、目が合った。
数秒経って、ちーちゃんは息を少し吐いた。
その後、「わかった」と言ってくれた。
「でも由衣、無理したら駄目だからね」
「……うん」
私の返事を聞いた後。
ちーちゃんは「真聡は絶対見つけるから」と言って、黒いケースを持って大通りを左へ走っていった。
そしてちーちゃんの背中は、通りを曲がって見えなくなった。
私は改めて、戦場に視線を戻す。
目が見えてるとしか思えない、相手を的確に狙った攻撃がみんなを襲っていた。
もう既にケルベロスは見えるようになってるみたい。
そんなケルベロスの攻撃を避けるみんなは、やっぱり限界が近そうに見えた。
……戻らなきゃ。
私はその決意と共にもう一度、なんとかプレートを生成してギアに差し込む。
そしていつもの手順を取って、ファイティングポーズで構える。
「星鎧生装!」
そう叫ぶと同時に、両手を下ろしてギアの上側のボタンを押す。
すると、ギア中心部から牡羊座が。
……飛び出さなかった。
その衝撃に、思わず私の口から「嘘……」と言葉が漏れる。
ギアが使えないなんて、最初の時以来。
もし、ギアが使えなくなったら。
もし、戦えなくなったら。
最悪の想像が、頭の中に溢れてくる。
そんな恐怖に溺れそうになったとき。
凄く痛そうな衝撃音がビルの間に響いた。
私は慌てて、いつの間にか下を向いていた視線を上げる。
目に入ってきたのは、すずちゃんがビルの外壁からずり落ちるところだった。
すずちゃんの星鎧はまだ消えてない。
だから、無事ではあると思う。
でもビルの壁はへこんでるから、絶対に身体は痛いと思う。
そしてそんなすずちゃんに追撃をさせないように、ゆー君としろ君がケルベロスの前に飛び出した。
だけど2人も吹き飛ばされて、ビルの外壁に激突した。
そこにひーちゃんがケルベロスの1つの頭の横顔に水弾を撃ち込んだ。
当然、ケルベロスの3つの頭はひーちゃんの方を見た。
ケルベロスが、ゆっくりとひーちゃんとの距離を詰め始める。
でもひーちゃんだって、もう限界のはず。
それにゆー君達と違って、距離が近い戦いは苦手のはず。
そして吹き飛ばされたみんなは、必死に立ち上がろうとしてる。
でも、すぐに立てないみたい。
……本当に、私が何とかしないと。
私は必死に考える。
星鎧が生成できなくなってる私が、この状況を何とかするために。
……そうだ。
星鎧が生成できなくても、羊だけでも生成出来たら。
その方法を思いついた私は、両手を前に突き出す。
そして、必死にいつもの私の杖が両手の中に生成されるのをイメージする。
すると、両手の間が紺色と赤色の光を放ち、アニメとかでよく見るような杖が。
いつもの私の杖が現れた。
……まだ、行ける!
ひーちゃんは水弾を撃ちながら、ケルベロスの周りを走って跳んで回ってる。
私が、ひーちゃんを、みんなを助けるんだ!!!
そんな決意と共に私はケルベロスに杖先を向け、「お願い!!!!!」と全力で叫ぶ。
すると、杖先が緑色に輝いた。
そして、私の杖先から現れたのは。
大量の花びらだった。
その花びらは、一直線にケルベロスに向かって行く。
そして花びらは、花吹雪のようにケルベロスを襲った。




