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Constellation Knight 〜私達の星春〜  作者: Remi
16節 迷ってても、進め

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第272話 俺が、弱いから

 突然、大流おおながれ市で発生した怪物騒ぎ。

 制圧と偶然居合わせてしまった由衣ゆいの救出に急ぐ俺達の前に、へび座が現れた。


 へび座が現れた以上、戦闘になるはずだ。


 そう考えた俺は、他のメンバー先に行かせた。

 そして、戦闘に備えてギアを喚び出したとき。


 へび座が「待ってよ」と言って来た。


「今日は別に、君と戦うつもりはないんだよ」

「じゃあ何しに来た」

「強いて言うなら……相談、かな」


 へび座(こいつ)が、俺に相談?



 ……まさか、人質?



 その可能性が思い当たった瞬間、俺の口が勝手に動いていた。


「人質か?由衣はどうした」



 俺のそんなその叫びが、無人の大通りに響く。



 そしてへび座からは、鼻で笑ったような音が聞こえた。



「山羊座は本当に牡羊座のことが好きだね?

 でも今回は違うよ。僕達だって暇じゃないんだ」


 ……この言い方だと、由衣は無事なんだろうか。


 そう思いながらも、俺は「じゃあなんだ」と返す。


「今暴れてるやつの話。

 あれ、倒してくれていいから」

「……どういうつもりだ。

 何でお前がそう言う。そもそもあれは何なんだ」


 そんな俺の言葉に対し、へび座はため息をついた。

 そして「相変わらずの質問攻めだね」と呟いた。


「でも今回は教えてあげるよ。

 あれは、ケルベロス座。色々あって、言うこと聞いてくれなくなっちゃってさ。

 だから、倒していいよ」


 サラッとそう答えたへび座。

 しかし、俺はその言葉に耳を疑った。


 ケルベロス座は88星座外の星座。

 まさかあのケルベロスが本当に、ケルベロス座の概念体とは……。


 何故そんな存在を堕ち星が持っているのか。


 だが「いうことを聞いてくれなくなっちゃって」ということは、少なくとも一時期は堕ち星の制御下にあったということになる。



 ……いや、そんな考えてもわからない。聞いても答えないだろうことはどうでもいい。



 今聞くべきなのは。


「何故俺達に倒させようとする」

「変に消耗したくないからさ。

 そんな困ってるところに、牡羊座が来た。そして、君たち全員揃った。

 だから、代わりに倒してもらおうと思って」

「……俺達を利用するつもりか」


 すると少しの沈黙の後、へび座は「まぁそうだね」と呟いた。


「でも君達は、正義のヒーローだから街を壊す怪物を倒さないといけない。

 でしょ?」


 煽っているような、馬鹿にするような口調。


 へび座(こいつ)は、何を考えてるんだ?



 ……いや。

 へび座(こいつ)に敵意がない以上、今戦いを仕掛けるのは時間と戦力の無駄だ。



 だったら。


「わかった。利用されてやる」

「流石。話が通じるから助かるよ。

 お礼に、今日は絶対に手を出さないって約束するから」


 そう言った後、へび座は左側に歩き出した。

 そして跳躍し、何度か跳んだ後。その姿をビルの上へと消した。



 ……戦闘にならずに済んだが、時間がとられてしまった。

 


 俺はそう思いながらも、走り出す。

 そして十字路を直進する。


 とにかく今は、早く辿り着くべきだ。


 焦りを押し殺し、無心で無人の大通りを走る。



 時々響く振動と衝撃音が大きく、近くなってきた。



 恐らく、もう少しで戦場に到着する。



 そのときだった。

 俺の耳に、「おにい、おにい」と涙ながらに叫ぶような声が。




 本当に小さくだが、確かに聞こえた。




 立ち入り禁止区域の外には、警察と救急隊が来ているはずだ。



 今俺のするべきことは、一秒でも早くケルベロス座の概念体を倒すことだ。



 それは分かっている。



 しかし俺の足は、気が付けば行き先を変えていた。



 路地を曲がり、その声の出所を探す。



 声の出所は、とあるビルの入り口だった。



 そのビルの入り口には階段があり、そこに仰向けになっている男性と隣に女性が居た。



 そしてその男性は、激しく出血していた。


 来ていた服の元の色が、赤だったのではないかと思うぐらい。

 もちろん、男性の周りにも小さな血溜まりができていた。


 少し血の匂いが気になる。



 明らかに一刻も争う状態だ。



 俺はギアを左手で撫でて、送り返す。

 そして女性に駆け寄り「何があったんですか」と声をかける。


 しかし、女性は「お兄が……お兄が……」と泣きながら呟くだけ。



 ……時間がもったいない。



 俺は話を聞くのを諦めて行動に移る。

 まずは「失礼します」と断ってから、男性の首に触れる。


 脈は、まだある。


 だけど、「わかりますか」などと声をかけても返事がない。


 やはり意識がないらしい。

 そして、腕や胸に激しい裂傷。


 ケルベロス座にやられたのだろうか。


 そう考えるている間にも、少量だが流れ出る鮮血。


 ……禁じ手に近いが、この状況だと仕方ない。

 背に腹は、変えられない。




 俺は、目の前の命を。

 見捨てることはできない。




 覚悟を決めた俺は、深く息を吐く。

 そして妹らしき人に「離れてください」と声をかける。


 しかし、女性は「え……え……?」と呟くだけ。


「……この人が、少しでも助かる可能性が高くなるように手を尽くします。

 なので、壁まで下がっていてください」

「わ……わかり……ました」


 ようやく、女性が離れてくれた。


 俺は立ち上がり、左手を伸ばして男性に向ける。

 そして集中して、口を開く。


「氷よ。世界に永遠を与える氷よ。今その大いなる力を我に分け与え給え。

 今、傷つき、揺らぐ命の炎を繋ぐため。その炎を守るために。緩やかに、穏やかなの眠りをもたらし給え」


 言葉が口から紡がれると並行して、俺の左手から冷気が放たれる。


 その冷気は、優しく男性を包み、流れ出る血を凍らせていく。



 そして、傷口からの血が止まった。



 するとその光景を見た女性が、「お兄……何を……?」と聞いてきた。


 ……説明する必要があるよな。


 そう思った俺は言葉を選びながらも、口を開く。


「詳しくは言えません。

 ですが、あなたのお兄様が助かるように、俺ができる最善は尽くしました」


 今俺がしたことは、最低限の冷気で身体の動きを鈍らせたこと。

 そして、傷が沢山ある身体の表面おもてめんに氷で薄く膜を張ったことだ。


 中等部の授業の齧った知識だ。

 上手くできてるかはわからない。


 後俺ができることは、これで状態の悪化がちゃんと遅れるのを祈るだけだ。


 だが、これ以上話してしまうと秘匿違反に引っかかるかもしれない。

 俺はそのまま話をそらすために「救急車は」と問いかける。


 しかし、女性は「わ……わかりません」と返してきた。


 パニックになって、呼べていないか。


 今から俺がスマホで……。

 いや、この状態で119は通じるかわからない。


 ならば丸岡刑事に連絡を……それでも時間がかかるか?



 そう考えていたとき。

 遠くからサイレンの音が近づいてくるのが聞こえた。


 そして、瞬く間に白い車体に赤いラインとランプがある車が。

 救急車がビルの陰から現れた。


 ……こんなにタイミング良く?


 俺がそう思っている間にも、救急車の中から救急隊員が下りてきた。

 そのまま隊員は手際よく、車両の後ろからストレッチャーを運び出す。


 どうであれ、プロが来たなら俺の出番はない。


 とりあえず、俺は邪魔にならないように男性から離れる。

 その間にも救急隊員はテキパキと活動している。


 そして1人の救急隊員が女性に話しかけた。


「怪物によって負傷をされた意識不明の男性ですね?」

「は……はい……!

 な……なんで……?」

「避難された方からの情報を頂き、やってきました。

 急いで搬送しますね」

「お、お願いします!」


 その間も俺はただ、男性がストレッチャーに乗せられ、救急車に乗せられているのを眺める。


 そして気が付けば、女性はまた泣き出していた。



 安堵なのか、不安なのか。

 理由は分からないが。



 そんな女性も、別の救急隊員に付き添われて救急車に乗り込んだ。


 そこに、先程女性と話していた救急隊の男性が「あなたも乗りますか?」と話しかけてきた。


「……いえ。俺は……。

 他にも怪我している方が居ないか、探しながらここを出ます」

「……わかりました。どうかお気を付けて」


 そう言い残して、救急隊の男性は救急車の運転席に戻っていった。

 ほぼ同時に別の救急隊員によって、救急車の後ろの扉が閉まる。


 そして救急車は赤色灯を光らせ、サイレンをビル街に響かせながら走り去った。


 俺は自分と同年代と思われる男性の無事を祈って、その走り去る救急車の後ろを見続ける。



 あの兄と思われる男性は。

 ケルベロス座が暴れなければ、あんな怪我をせずに済んだ。



 あの妹と思われる女性は。

 ケルベロス座が暴れなければ、あんな悲しみを味わわずに済んだ。



 俺が、来るのが遅かったから。



 俺が、居合わせなかったから。




 ……いや。




 俺が地下貯水路のとき(あのとき)、へび座を殺せなかったから。




 大流市での(この)悲劇は、起きた。





 この全ての不幸は俺が、弱いから起きている。





 ……だけど、今も。

 友人達メンバーが、ケルベロス座と戦っているはずだ。





 早く、行かないと。




 俺は煮え切らない、この無力感を燃料にして。

 再び戦場を向けて、ビル街を通る無人の車道を走り出した。

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