第264話 仲良くしてよ
永川 佳奈に「避けてませんか?」と指摘された。
俺はそんな永川に「話す理由がないからだ」と言ってから、下駄箱を離れた。
だが実際、戦いに関係ない相手と不必要に関わる理由はどこにもない。
階段を1人で上がり、教室がある階に辿り着いた。
俺はそのまま足を止めずに教室の方へ向かう。
しかし階段から渡り廊下に移動したとき。
後ろから走ってくる足音が聞こえた。
その次の瞬間。
少し息を切らした永川が、俺の前に立ちはだかった。
「ま、まだ話は、終わってないです……」という言葉と共に。
永川の目は、真っすぐに俺を見ている。
……視線が痛い。
俺は目を逸らしながら「……何もないだろ」と言葉を返す。
「あります。
……わ、私と。と、友達になってください!」
「…………は?」
俺はそう呟いた後、固まってしまった。
永川に視線を戻してから。
そして、永川は相変わらず真っすぐに俺を見ている。
……いや、意味が分からない。
思考が停止した俺は、「なぜだ」と聞き返す。
「だ、だって。もうすぐクラス替えじゃないですか。
それに、由衣ちゃんって共通の友人がいますし。せっかくだから、陰星さんとも仲良くしたいなって」
……その必要は、ないだろ。
俺は、澱みや堕ち星と戦うのが役目だ。
色々と予定とは変わったが、そこは変わらない。
そんな俺が、不必要に非魔師の人達と関わると逆に危険だろう。
だが、これは言える理由ではない。
なので俺は「別に、俺と仲良くしても面白いことはない」と言い返す。
そして、永川の横をすり抜けて教室へ向かう。
背中に「ちょっとまー君!!??」という由衣の声が飛んでくる。
だが、気にせず俺は歩き続ける。
渡り廊下の角を曲がり、自分の教室へ向かう。
……クラス替えをしたら、どうせ話さなくなる仲だ。
それぐらいなら、関係を増やす必要は無い。
そう思いながら、自分の教室に入る。
自分の席に目を向けると、今日も佑希と智陽が集まっていた。
2人揃って朝の挨拶をしてくるので、とりあえず「おはよう」と返す。
その後、佑希が「座れよ」と席を譲ってくれたので、俺は鞄を置いて自分の席に座る。
……いや、俺の席なんだがな?
とりあえず、一息つく。
朝から色々言われ、少し疲れた気がする。
そこに。
「なんか……あったか?」
「ね。なんかいつもより疲れてない?」
そんな言葉を順番に投げてきた佑希と智陽。
……顔に出てるか?
そう考えながらも、俺は「ちょっと絡まれただけだ」と返す。
その直後。
教室に「ちょっと陰星く~ん?」という声が響いた。
「佳奈をイジメるなんて、どういうつもり?」
「そうだ~!」
その声と共に、俺の前に永川といつも一緒に居る田渕 桜子と荻野 乃々華が現れた。
もちろんその後ろには永川も居る。
ただ……永川は「2人とも……そこまでじゃないから……!」と言ってないか?
しかし。
「というか陰星君。いつの間に佳奈と仲良くなったの?」
「佳奈も陰星君、怖いんじゃなかったの~?」
そんな風に俺と永川に聞いてくる田渕と荻野。
だがその話をすると……いるか座の堕ち星の話をする必要がある。
不必要に広めるのは秘匿違反だし、入海先輩のプライバシーもある。
なので俺は「それは言えない」と返す。
すると永川も「それは……言えないかな……」と返した。
「でも、もう怖くはないよ。
由衣ちゃんの幼馴染なだけは……ある。陰星君は、凄く良い人だよ」
永川のその言葉に田渕と荻野は「へぇ~……」と呟く。
そして、2人の視線が俺と永川を交互に捉える。
……この2人は何が言いたいんだ。
それが数秒ほど続いた後。
田渕が「まぁそこは聞いても駄目そうだしいっか」と呟いた。
「あの日、私は部活を優先したし。
それより。それなら佳奈とだけじゃなくて、私達も仲良くしてよ。ほら」
「そうだ~!仲良くしろ~!」
そう言いながら、俺の机の上にスマホを置く田渕と荻野。
続いて永川も「わ、私も!」と言いながら、スマホを置いた。
置かれた3台のスマホには、メッセージアプリの友達申請の画面が映し出されている。
……凄く逃げたい。
俺は助けを求めて智陽と佑希の顔を見る。
しかし、前に居たはずの智陽はいつの間にかいない。
そして後ろを向くと、佑希もいない
2人の姿は少し離れた教室の1番後ろ。
そこに由衣と、そして何故か長沢 麻優の4人で固まっていた。
しかも4人とも……笑ってるよな?
とりあえず、助けはないと理解した俺は「なぜだ」と口を開く。
「別に仲良くする必要ないだろ」
「私達がしたいの。由衣の幼馴染だし、ずっと機会窺ってたんだから」
「陰星君、クラスのメッセージグループにも入ってないしさ~~」
田渕と荻野が相変わらず詰めてくる。
……どうしてこうなった。
どうにか脱出できないか考えているとき。
突然、由衣の「そうだ!」という声が聞こえてきた。
そして駆け寄ってくる足音が聞こえ、俺の両肩に両手が置かれた。
「みんなで遊びに行けばいいんだよ!
私達よく遊ぶ5人に、まー君達3人入れてさ!」
「いいね!由衣、ナイスアイデア!」
田渕がそう言いながら、由衣とハイタッチしている。
俺の頭上で。
……両肩から手が無くなったのはいいが、とんでもないことになっている。
そこに長沢の「え、私もいいの?」という声が飛んできた。
「もちろん!麻優ちゃんもだよ!」
由衣がそう言いながら、長沢に向かってサムズアップをしている。
すると次に「……待って?私も入ってる?」という智陽の声が飛んだ。
その言葉に「もちろん!」と笑顔で返す由衣。
「いや、私は絶対行かないから。私関係ないでしょ」
俺はその言葉に乗るように「俺も行かないぞ」と言葉を投げる。
すると、田渕が「いや、陰星君は主役だからね?」と投げ返してきた。
そして、女子5人は既に「どこに行くか」と話を始めてる。
……勘弁してくれ。
そう思ったとき。
教室のスピーカーから、チャイムが鳴り響いた。
そのすぐ後には、タムセンが「席につけ~朝礼を始めるぞ~」と言いながら教室に入って来た。
その声により、女子5人は「え~」と不満な声を出しながらそれぞれの席へと帰っていく。
そして、この場は解散となった。
この日ほど、朝礼をありがたいと思ったときない。
そんな確信があった。
ちなみに永川、田渕、荻野の3人はその日一日中「仲良くしてよ!」と言って来たので、連絡先の交換で我慢してもらうことにした。




