第262話 まだ沢山ある
「ペルセウス座流星群!」
その言葉を発すると同時に、俺の周りに浮いていた青白い光が概念体に向かって飛んでいく。
その青白い光によって、巨大な蛇の概念体が吹き飛ぶ。
その行き先は、戦っている鈴保とへび座の元へ。
ほぼ同時に、鈴保を挟んで反対側でも青白い光が炸裂するのが見えた。
そして数秒後。
鈴保が居た場所で青白い光が一層激しく炸裂した。
その光は、夕闇に沈み始めた運動公園内の林を飲み込む。
星力が衝突したからか、青白い煙が波のように襲ってくる。
だがその煙はすぐに収まった。
さっき鈴保とへび座が戦っていたところには残ってはいるが。
……とりあえず、鈴保の無事を確認するか。
そう思い、俺は林の中を右側へと歩き出す。
光が炸裂する直前、人影が右側に飛び出したのが見えた。
それが鈴保だと思うんだが……。
周りを警戒しながら、小走りで木々の間を進む。
すると木の根元に人影が見えた。
それは紺色と深紅色の鎧。
星鎧を纏ったままの鈴保が、1本の木の根元に座り込んでいた。
俺はすぐに「大丈夫か」と声をかける。
「大丈夫……と言いたいけど、疲れた。あいつ強すぎ。
練習のときの真聡が優しく感じる」
「……どういう意味だ。
というか、何で突っ込んでいった。俺がへび座の相手した方がまだいいだろ。何でそんな無茶なことした」
「無茶をしてるのは真聡もでしょ」
その言葉に言い返そうとしたそのとき。
「や~めろって!」という声が飛んできた。
声がした方を見ると、向かいから星鎧を纏ったままの志郎が走って合流して来た。
「鈴保だって考えてたんだから、なぁ?」
その言葉に、鈴保は「ちょっと志郎?」と不満そうに噛みついた。
だが気になるので、俺は聞こえないふりをして「考え?」と聞き返す。
「『私だって毒使えるんだから、私が相手した方がまだマシでしょ』って」
確かに、俺は何度も毒に苦しめられたことがあるが……。
そう思いながら鈴保に視線を向ける。
すると、鈴保は顔を背けていた。
星鎧を纏っているのもあり、何を考えているのか全く分からない。
……どういう感情だ?
そのとき。
「やっぱり、お友達がいるとできることが違っていいね」
そんな声が、運動公園内の林に響いた。
俺は咄嗟に声が聞こえた方を向き、戦闘態勢を取る。
鈴保もすぐに立ち上がり、立っていた志郎も同じく。
視界に入ったのは、こちらに向かって歩いてくるへび座。
2匹の概念体がいないということは、消滅まで追い込めたのか?
そう考えていると、志郎が「お前……まだやるのか?」と言葉を投げた。
だが、へび座は俺の方を見て「本当に、いいよね。君は」と言葉を投げてきた。
まるで志郎の言葉は聞こえていないかのように。
そしてその言葉には、恨みのような重さを感じた。
……いや、意味を考えている場合ではない。
今はこいつを倒し切る事だけを考えるべきだ。
消耗はしているが、3人いれば押し切れるか?
そこに、今度は「こっちはなんとかなったよ~!」と聞きなれた明るい声が辺りに響いた。
「先輩もひとまずは大丈……へび座」
視界の端で制服姿の由衣が後ろから来るのが見えた。
そしてそのまま、へび座の方を見ながら身構えている。
来るなら星鎧を纏ったままの方が助かったんだが……そこは言っても仕方ない。
しかし、由衣の言葉を聞いたへび座の反応は予想外のものだった。
「……そっか。いるか座さん、抑えられちゃったんだ」
そしてため息をつき、「残念」と呟いた。
「じゃあ今日は帰ろうかな。もうこれ以上、戦う理由もないし」
その言葉に対して、志郎が「逃げんのかよ」と噛みついた。
「逃げるよ。僕にはやりたいことがあるからね。
それに、もう失敗はできないから。
でも、君達を倒す機会ならまだ沢山あるから」
言葉の最後に、「じゃあね」と言った後。
へび座は俺達に向けて、赤黒い煙を吐いてきた。
俺は咄嗟に「下がれ!」と叫んだ後、左手で持っていた杖を煙に向ける。
そして無詠唱の風魔術を発動させる。
構えた杖から渦巻いた風が、赤黒い煙と衝突する。
そして、前が見えなくなった。
十数秒後。
視界が開けたときには、そこにへび座の姿はなかった。
「マジで逃げたな……」
「でも、助かった……。マジで疲れた」
志郎と鈴保がそう言いながら、レプリギアからプレートを抜き取った。
そして、制服姿に戻る。
……ぶっちゃけ、俺も今日は限界だ。
俺もギアからプレートを抜き取り、制服姿に戻る。
いや、それより……。
さっきから気になってることを聞くために、俺は振り向いて口を開く。
「由衣、佑希と日和は?」
そう。
由衣が最後に来た。
しかし、一緒に戦っていたはずの佑希と日和の姿はない。
……何かあったのだろうか
すると由衣は「えっと……」と口を開いた。
「それが……最後の方にいるか座の……超音波?を2人とも受けちゃって。
それで、2人は休んでるの」
「大丈夫なのか。怪我は」
「う、うん。別れる前は聞こえるようになり始めてたし。
それに今は入海先輩と一緒に救急隊の人が見てるから」
それならいい。
だが俺はそこで違和感を覚え、すぐに言葉にする。
「由衣は大丈夫なのか?」
「うん。何かすぐに聞こえるようになったんだ。
ゆー君は『まー君に聞いて』って言ってたんだけど……まー君わかる?」
由衣だけが、超音波の影響が少なかった理由?
その場に居なかった現象の理由を教えろと言われても……。
そう考えていると。
「……いつまでここに居るの?」
鈴保が、そんな言葉を呟いた。
志郎も「確かにもう見えなくなってきたよな……」と続く。
……確かに、もう周りも見えなくなってきている。
それに佑希と日和、何よりも入海先輩が心配だ。
考え事は後でもできる。
「悪い、先に移動しよう」
そう言葉を発した後。
とりあえず遊歩道に戻るために、俺は由衣が来た方向へと歩き出した。




