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Constellation Knight 〜私達の星春〜  作者: Remi
15節 自分の力で

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第256話 元の人間に

「私、部長失格ね」


 そう呟いた入海いりうみ先輩の目からは、涙が零れていた。



 ……辛かったのだろう。怖かったのだろう。



 確かに俺は、その苦しみを開放から解放することはできる。



 だけど今、どんな言葉をかければいいかがわからない。



 そこに永川えがわの「そんなこと……ありません!!」という声が、運動公園の屋外休憩所に響いた。


「だって、入海先輩。ずっと頑張ってるじゃないですか。

 ずっと1人で泳いでるじゃないですか。

 それなのに責めたり嫌味も言わずに、みんなにはいつも笑顔で。

 そんなずっと頑張ってる先輩が、部長失格なわけ、ありません」


 そう言い切った永川の手は握りしめられ、震えていた。

 そんな振り絞ったような永川の言葉に、入海先輩は「でも……」と口を開いた。


「私は、手段は何でもいいから記録を伸ばしたい、大会で成果を残したいと思ってしまった。それが自分じゃない力でもいいって。

 そんな弱くて卑怯な自分を、部長に相応しいとは……思えないわ」

「でも先輩は、『すぐに後悔した』って言いました。それに『怪物に成らないようにとずっと抑えてた』って言ったじゃないですか。

 私は、先輩が弱くて卑怯なんて思いません。思えません。

 逆に、強くて優しいという証明だと、私は思います」

佳奈かな……ちゃん……」


 永川のその言葉を受け、入海先輩は呟くように永川の名前を呼んだ。



 そんな先輩の目からは、さっきよりも大粒の涙が零れていた。



 それに気が付いた永川は、「せ、先輩。泣かないでくださいよ……!」と慌てている。



 だがそんな永川の頬にも、涙が伝っている。



 ……どっちも泣いてる。



 そこに「と、とりあえず!」と由衣ゆいの言葉が飛んだ。


「2人とも顔を拭いてください!」


 そう言った由衣の手には、いつも間にかハンドタオルが握られていた。


☆☆☆


「……情けない姿を見せてしまったわね」


 あれから数分後。

 ようやく落ち着いた入海先輩が、恥ずかしそうに呟いた。


 そんな入海先輩に由衣は「いえいえ!そんな!」と言葉を返す。


「悪いのは、さっきも言いましたけど入海先輩にそんなことを言った人なんで!」

「そうです!先輩は悪くありません!」


 由衣の言葉に続いて、少し怒ってるような声で永川も言葉を添えた。

 そしてまた、由衣と永川が入海先輩に言葉をかけ始めた。


 それにしても……永川は俺を他の人よりも怖がっていたことから、俺は永川を少し怖がりな奴だと考えていた。



 だがさっきの入海先輩への言葉を聞いて、その印象も違うと思った。




 永川は、踏み出すべき時には踏み出せる強い奴だ。




 むしろ、あのとき何も言えなかった俺の方が、弱い。




 ……いつから俺は、人を励ますことが出来なくなったんだろう。




 そう考えていると、「ちょっとまー君?」という言葉が聞こえた。

 俺は頭の中の靄を振り払って、意識を外に向ける。


 すると、由衣が目の前で不満そうな顔をしていた。


「……何だ」

「『何だ』じゃないでしょ!

 ……入海先輩もいいって言ってるし、いいよね?」


 ……あぁ、そうか。


 入海先輩からプレートを取り出せずにいたのは、突然意識を失ったからだ。


 そして今、意識が戻って感情も落ち着き、話も聞けた。

 あと、どうやって元の人間に戻すかという話もした。


 準備は既に出来ているんだ。


 それなら早くプレートを取り出して、堕ち星に成るかもしれない危険性を排除するべきだ。


 ……結局、堕ち星に成るための澱みや星座の力を与えた相手のことは分からなかったが。


 そう考えながらも、俺は「そうだな」と由衣に言葉を返す。

 そして、椅子に座っている入海先輩へと視線を向ける。


「……先輩、始めましょう」

「ありがとう。お願いするわね」


 そう呟いた入海先輩は、少しだけ落ち着いたような顔に見えた。


 そして、由衣が隣でレプリギアを喚び出した。

 だが……。


「外に出よう。ここでは狭い」

「え、私が星鎧を生成して、いつもの羊で元に戻すだけでしょ?

 別にここでもよくない?」


 ……確かにそうかもしれない。


 だが万が一、入海先輩が突然堕ち星に成ってしまった場合。

 休憩所が無事では済まない可能性がある。


 しかし、それを説明するには……。


 そう考えていると、佑希ゆうきが由衣の肩を叩きながら「出よう」と呟いた。


真聡まさとの言う通りだ。

 それに、星鎧を纏った俺達は力加減が変わる。もしベンチとか壊してしまって、怒られたくないだろ」

「だ、大丈夫だって!」


 由衣が少しムッとした顔で反論をする。

 それを見て、入海先輩は少し笑いながら「それじゃあ、出よっか」と言ってくれた。


 佑希は俺の考えを察してくれたんだろうか。

 真意は分からないが、納得できる理由を付けてくれて助かった。


 ……由衣にまた擦り付ける感じになったが。


 そう思いながら、俺は「はい。行きましょう」と口を開く。

 そして。


智陽ちはるはここで荷物を見ておいてくれ」

「わかった。でも、見えないとこまで行かないでよ」

「そこの遊歩道の真ん中まで行くだけだ。そこなら見えるだろ」

「うん。じゃあいい」


 すると智陽と入れ替わるように、永川が「わ、私は……」と聞いてきた。


「永川もここに居てくれ。すぐに終わる」


 そう言った後、俺は休憩所の外に出る。

 聞こえてくる声的に由衣と入海先輩がすぐ後ろ、その後ろに佑希……だろうか。


 だが、この様子だと入海先輩は大丈夫そうだろう。

 永川に言った通り、すぐにプレートを取り出せて終わるはずだ。



 そう思ったときだった。



 後ろから突然、入海先輩と由衣の悲鳴のような声が聞こえた。



 俺はすぐに後ろに振り返る。



 すると、予想もしてなかった光景が目に飛び込んできた。



 入海先輩の身体……お腹の辺りに黒い何かが巻き付き、先輩の身体は宙に浮いてどこかに引き寄せられていた。


 由衣が手を伸ばしているけれど、届いていない。



 俺はすぐに足に魔力を集中させて地面を蹴り、跳ぶ。



 しかし、入海先輩が引き寄せられるのは予想よりも早かった。



 入海先輩の身体は、予想よりも早く視界から消えてしまった。



 そして俺が入海先輩が居た場所に届いたときは、先輩は既にさらに遊歩道脇の茂みに引き寄せられていた。



 俺の手は、虚しく空を切る。



 俺は身体を入海先輩が連れて行かれた方向に向けながら着地する。



 そのとき、既に入海先輩の足は地面に着いていた。



 しかし隣には、全身が黒色に少し赤色が見える鱗の異形が居た。

 そしてその腕が入海先輩を捕えている。




 少し体色が変わり、印象が変わった。

 だがその姿は忘れるはずがない。



 星雲市《この街》に戻ってきたすぐ後から、ずっと俺達の邪魔をしてきた相手。

 そして、去年の9月の地下貯水路での戦いで倒したと思っていた堕ち星の1体。




 へび座の堕ち星が、そこに立っていた。

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