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Constellation Knight 〜私達の星春〜  作者: Remi
15節 自分の力で

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第254話 決断ができない

 市民プールでの怪物騒ぎから数十分後。

 俺達4人はまた、運動公園内にある休憩スペースに居た。


 意識がない入海いりうみ先輩と、そんな先輩を心配する永川えがわと一緒に。



 丸岡刑事に電話をした後、智陽ちはるは無事に由衣ゆいに伝言をして戻って来た。

 プールの職員の女性と、もう1人水泳部のマネージャーの女子生徒を連れて。


 2人が中に取り残されていた訳。

 まず女子生徒は、永川の言葉を聞いたものの入海先輩を心配して更衣室内に突入。

 しかし、女子生徒は堕ち星に成ってしまった入海先輩に追い回される。


 そして職員の女性は、怪物騒ぎを聞き「誰か取り残されているかもしれない」と女子更衣室に突入。

 その結果、2人で襲われてしまったらしい。


 ……2人とも大した怪我はなく、無事だったからよかった。


 だが、頭の痛い話だ。



 そんな2人を救出してから数分後。

 次に女子更衣室の中から聞こえてきたのは、由衣の「みんな!入海先輩が!」という焦った声だった。


 その声を聞いた俺と佑希ゆうきはもう一度、智陽に更衣室の中を見てきてもらった。


 そして智陽が見た光景は、更衣室の中で倒れている入海先輩と慌てふためく由衣だった。


 そんな状況を智陽が通話で知らせてくれた。

 それとほぼ同時に、警察や救急隊が到着した。


 更衣室内に由衣と入海先輩以外に居ないことを確認できたので、俺と佑希も特例的に女子更衣室の中に入った。


 その後、救急隊の人に意識がない入海先輩をこの休憩所まで運んでもらって来た。


 本来なら病院、せめて市民プール内にある休憩室や管理室などに運ぶべきだ。

 屋外でベンチも硬いこの休憩所は不適当なのはわかってる。



 だが、先輩は堕ち星だった。



 いくらいきなり人間の姿に戻ったとはいえ、まだプレートは回収できていない。



 目を覚ましたら、また暴れる可能性だってある。



 だから、病院など人の多いところに運べなかった。



 ……実際、いるか座の堕ち星は今日だけではなく、昨日も戦っている。

 暴れないという保証はどこにもない。


 そして()()()()()()()()()()()()となっている以上、市民プールは1秒でも早く元の状態に戻さないといけない。


 そのため先輩は、固いベンチに市民プールから借りた毛布を引いた簡素なベッドに寝かされているわけだ。



 そしてここに来る前。

 丸岡刑事に今回の事情を説明する際に、由衣と永川の話も聞いた。


 まず永川の話。

 今日の水泳部は市民プールでの練習日で、永川は入海先輩より先に市民プールに着いていた。

 一方、入海先輩は少し遅れて到着した。


 そのときまでは入海先輩は普通に見え、会話も普通にできていたそうだ。


 そして練習は何事もなく始まった。

 しかし、入海先輩がなかなか更衣室から出てこない。


 入海先輩は部長になる前から真面目で、遅刻することなどなかったらしい。

 それなのに、出てこない。


 おかしいと思い、永川が代表して女子更衣室の中に先輩を探しに行った。


 更衣室の中に居たのは。

 着替えずに胸を押さえて苦しそうにしている入海先輩だった。


 そして永川を見た後、先輩は堕ち星に変わった。


 それを見た永川は「誰も更衣室に入らないで。鍵を閉めて」と他の部員に伝えた後、俺達を探しに外に出たらしい。


 ……それでも入海先輩を心配して入った人が居たが。


 次に由衣の話。

 「一度も攻撃していないのに、入海先輩は突然人間の姿に戻って倒れた」ということ。


 ……気になることは山ほどある。

 だが、本筋に関係なさそうな点は置いておこう。


 特におかしな点は2つ。

 「堕ち星に成る直前の入海先輩は苦しそうに胸を押さえていて、突然堕ち星に成った」、「一度も攻撃していないのに、入海先輩は突然人間の姿に戻って倒れた」だろう。


 今まで見てきた堕ち星は、「感情の暴走した結果」という雰囲気が多かった。 

 そして人間の姿に戻るときは大抵が、「俺達の戦闘の末に」という状況が多かった。


 だが入海先輩は苦しそうにしていて、突然堕ち星に成った。

 そして突然、人間の姿に戻った。


 ……どういうことだ?


 悩んでいると、「ねぇ、まー君?」という声が耳に入った。

 俺はその声で、目の前の状況に意識を戻す。


 すると、永川の隣にいたはずの由衣が目の前にいた。


「何だ」

「入海先輩……今のうちに元に戻せないの?」


 それは……どうなんだろうか。


 相手が普通の堕ち星なら、俺も頼んでいただろう。



 だが、入海先輩はおかしなところが多すぎる。



 ……今のまま元に戻して、何か取り返しのつかないことにならないだろうか。


 そんな懸念と戦っていると。

 「その方が良いんじゃない?」という智陽の声が聞こえてきた。


「その方が戦わなくて済むでしょ」

「……由衣は、戦いたくないんだよな」


 智陽の言葉の後、佑希が由衣を見ながらそう呟いた。


 ……由衣は優しいからな。

 戦いたくないのもあるが、入海先輩にできるだけ苦しんで欲しくもないんだろう。


 そんな由衣の口から「……うん。ごめん」と声が聞こえた。



 ……いや、謝らないといけないのは俺だ。



 未知数のリスクは、取れない。



 俺は心を鬼にして「……由衣の頼みは、叶えられない」と返す。

 すると予想通り、由衣は信じられないと言わんばかりに「何で……!?」と言って来た。


「入海先輩は、おかしな点が多すぎる。

 だから今の状態でプレートと分離させたとき、さらなるイレギュラーが発生する可能性だってある。

 それが、取り返しのつかないイレギュラーの可能性だってあるんだ。

 そうなった場合の責任を、俺はみんなに背負わせたくない」


 その言葉で、休憩所の空気が凍り付いた。



 だが、嘘でも脅しでもない。



 そもそも神遺の力は、現代人には重すぎるものだ。

 俺達のように選ばれた上で、日々を普通に過ごしているのは珍しいことだ。



 協会の記録に神遺保持者の記録が少ないのは、現代での神遺の貴重性と強すぎる上の異質さからだろう。



 それなのに、澱みの力を間に挟んで神遺の力を使っている不安定な存在である堕ち星の危険性は……完全に未知数だ。



 ただでさえ、澱みに蝕まれた人間は正気じゃいられなくなるというのに。



 だけど、由衣の言葉だって一理ある。


 そんな危険な状態にある人間を、早く、できるだけ苦しまずに助けたい。

 俺だってそう思ってる。


 これが戦えるのが俺1人だけで、俺だけが責任を負うのなら。

 実行していただろう。



 でも、今はそうじゃない。



 その責任が他のやつも背負ってしまうかもしれないと考えると。



 俺は決断ができなかった。



 そのとき。

 冬の空気よりも凍てついた休憩所の中に突然。


「先輩!?先輩!?」


 そんな永川の声が響いた。

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