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Constellation Knight 〜私達の星春〜  作者: Remi
15節 自分の力で

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第252話 入れない

 顔面を狙う軌道の佑希ゆうきの左の拳が飛んでくる。


 俺はそれを避けた後、右手でその腕を掴む。

 そしてお返しに掴んだ右手を引き寄せてから、左肘をお見舞いする。


 しかし、その一撃は右手で受け止められてしまった。


 お互いがお互いの片腕を掴んだまま睨み合う。



 先に動いたのは俺。

 佑希の左腕を突き放し、右足でハイキックを狙う。


 しかし、佑希は突き放した勢いを利用して俺との距離を取っていた。

 そのため俺の右足は空を切る。


 だが佑希はまだやる気のようで、またすぐに突っ込んできた。

 俺はそんな佑希を正面から迎え撃つ。


 再び、制服姿の高校生が拳を交わす。



 ……いや、これは別に本気でやり合ってるわけじゃない。

 ただ時間を潰すのと特訓を兼ねているからだ。


 そしてなぜ今こうしているかは、昼休みにした話し合いの結果。


 夜の運動公園でのいるか座の堕ち星との戦闘の翌日、つまり今日の昼休み。

 俺は由衣ゆいに宣言した通り、メンバー7人を屋上に集めた。


 そして集まってさっそく、俺……と佑希は「何で呼ばなかったのか」と怒られた。

 主に由衣と鈴保すずほから。


 ……何で気遣ってるのに俺が怒られるんだ。


 そして一通り怒られた後、全員にいるか座のことを共有した。


 とはいえ、堕ち星の正体について何も手掛かりがない。

 メンバーと話し合っても、見落としている点も浮かばなかった。


 そのため「とりあえずは普通に過ごす。暇な時間があれば、警戒をしてもらう」という形をとることにした。


 そういう訳で。

 今日は予定がなかった俺、佑希、由衣、智陽ちはるの4人で放課後に、昨日現場となった運動公園にいることになった。

 そしてただ時間を潰すのももったいないので、俺は佑希と手合わせをしているという訳だ。


 あのいるか座が使ってきた打撃からワンテンポズレてくる衝撃。

 その答えを求めて。



 俺の拳が、佑希のクロスさせた腕に入った。


 佑希は少し後ろに吹き飛んだが、数歩ほどステップを踏みながら着地した。

 そこで俺は、何度目かの「どうだ」という言葉を投げる。


「いやぁ……普通だったな」

「そうか……」


 やはり戦いながら無意識では無理か。


 最初に「拳を打ち込むときに意図的に遅らせる」というのはできた。魔力操作や魔術を使って。

 だが戦闘中の咄嗟に出る一撃を遅らせるのは……。


 そこまで試行した時。

 運動公園に由衣の「あぁ~~!!」という癇癪じみた声が響いた。


「暇!!ねぇまー君ゆー君。私暇なんだけど。

 やっぱり私も入れてよ」


 由衣は不満そうにそう言いながら、座っていたベンチから立ち上がって俺達の方まで歩いてきた。


 ……2回はしたぞ。このやり取り。


 そう思いながらも俺は、何度か言った言葉を口にする。


「さっきも言ったよな。お前、自分の姿を見ろ」


 由衣は「えぇ~?」と言いながら自分の服装を改めて見る。


 そう。

 俺達は制服姿のままやっている。


 つまり、女子である由衣はもちろんスカートだ。


 ……やらせられるかよ。


「だから私は別にいいんだって」

「「よくない」」


 由衣の能天気そうな言葉に対して、俺と佑希の否定の声が重なった。

 一方由衣は不満そうに頬を膨らませて「じゃあさ」と呟いた


「ジャージ取りに帰らせてよ」

「駄目だ。お前、すぐ帰ってこないだろ」

「まっすぐ帰ってくるってば~!!」


 その由衣の言葉に、佑希は「いやぁ……」と呟きながら首を捻っている。


 由衣は俺だけではなく、佑希にすらそんな扱いをされて不満らしい。

 「ゆー君まで~~!!」と文句を言っている。


「私のこと、信用してくれたって良いじゃん!!」


 その由衣の言葉に、俺は佑希と顔を見合わせる。


 佑希は苦笑いのような微妙な表情。

 どうやら俺と考えは同じなようだ。


 そこに、由衣の「何とか言ってよ~~!!」という声が響いた。

 すると。


「由衣、今日の休み時間に『あのコーヒーショップの新しい期間限定が飲みたい!』って言ってたよね」


 ベンチに座り、静かにスマホを触っていた智陽が。そう呟いた

 思わぬ指摘を受けた由衣は「それはぁ……」と口籠っている。


 しかし、すぐに気を取り直したのか「って違う!」と口を開いた。


「『何とか言って』とは言ったけど、そういうことじゃないの!

 ちゃんと真っすぐ行って帰ってくるから!」

「……やめとけ。行くな」

「うん。何だかんだ寄ってくると思う」


 俺と智陽の言葉を受けて、由衣が「何で私こんなに信用ないの……?」と悲しそうに呟いた。


 ……信用どうこうの問題じゃないんだよな。

 お前が居ない間に堕ち星が出たら、戻ってきてもらうのが大変だろ。


 そんなことを考えてると、由衣は「というか」と口を開いた。


「最初にも言ったけど、ちーちゃんが私と喋ってくれるなら私はそれでいいのに」

「私はゲームで忙しいから。今イベント期間だから周回しないといけないの」

「も~~~!!」


 ……智陽は智陽でブレないな。


 すると、そこに佑希が「だったら」と口を開いた。


「由衣もスマホ見とけばいいだろ。SNSで動画見るなりさ」

「そう思ったんだけど……通信量が……」


 由衣のその言葉に、俺達3人の口からほぼ同時に何とも言えない声が漏れる。


 通信量、由衣のような高校生には切実な問題だろうな。

 前に長沢ながさわが「まだ1週間あるのに低速になった……」とブツブツ言ってるのを聞いた気がする。


 仕方ない。

 ずっとこうしていられるのも困るし、由衣も暇が潰せるように何か考えるか。



 そう思ったときだった。



 ぞわっとする、澱みや堕ち星が出たときに感じる感覚を覚えた。


 そしてこれを感じるということは、かなり近い証拠だ。

 俺は思考をすぐに切り替える。


 ほぼ同時に、佑希が「今の……」と呟いた。


「あぁ。近いな」

「何?どうした……もしかして、堕ち星?」


 由衣の言葉に「多分な」と返しながら、俺は左手を目の前で右から左へと動かして無詠唱感知魔術を発動させる。


 この距離なら、感知魔術で視れるはず。



 そして澱みの反応が視えるのは……市民プールの方角だった。



 ……マズい。

 懸念が当たったか。


 俺は焦りながらも「市民プールに行くぞ」と3人に伝える。

 そして、鞄を取るために智陽が座っているベンチの方へ向かう。


「市民プールって……」

「じゃあ本当に入海先輩が堕ち星ってこと!?」


 智陽と由衣がそんな言葉を投げてくる。

 だが今は話をしている余裕はない。


「まだ何とも言えない。とりあえず行くぞ」


 俺はそんな最低限の返事をした後、鞄を手に取り走り出す。

 由衣と智陽が何か言っているが聞いてる余裕がない。


 だが走っていても声が追いかけてくるので、ちゃんと追いかけてきているのだろう。



 そして走り出して数分。

 市民プールの建物が見えてきた。


 建物の前は既に騒がしく、人が出たり入ったりしている。


 この感じだとやはり、堕ち星はこの建物の中にいるらしい。


 そして、その人混みの中に見覚えのある顔が見えた。

 その顔は俺達の方を見た後、「由衣ちゃん!みなさん!」と声をかけてきた。


 俺は永川えがわの前で足を止める。

 とりあえず事情を聞こうとしたその時。


佳奈かなちゃん!何があったの?」


 そんな声と共に、由衣が追いついてきた。

 そして少し息を切らしながら、俺の隣で足を止めた。


「それが、入海先輩が!怪物に!」

「うそ!?ば、場所は!?」


 その言葉に永川は「えっと、更衣室」とまで言ったそのとき。

 由衣が「わかった!」と言って再び走り出した。


 俺が止めようと「おい!」叫ぶが、聞く耳を持たないらしい。

 同じく追いついてきた佑希の言葉も。


 そんな由衣の背中は、人混みをすり抜けながら建物の中に入って見えなくなった。


「とりあえず行くぞ」

「だな。追いかけよう」


 佑希とそんな会話をしながら、俺達も走り出す。



 建物の中に入り、市民プールのホールを抜ける。

 そして無人となったプールの受付に辿り着いた。



 しかし、そこで大事なことに気が付いた。


「……俺達、入っていいのか?」

「……あ」


 そう。

 由衣の声が聞こえてくるのは女子更衣室に続く方から。


 だが、俺達は男だ。

 非常時と言えども入っていいものなのか……。


 悩んでいると後ろから荒い呼吸が聞こえてきた。

 振り返ると、智陽が息を切らしながら追いついてきたところだった。


 「やっと……追いついた……」と呟いていているが、今にも倒れそうだ。

 少し怯えている永川に心配されるほど。


 そもそも智陽は()()()高校生だ。

 身体能力を魔術などで盛れる俺達を追いかけるのは酷な話だ。


 ……だが、ここは頼るしかない。


 俺はそう思い、「智陽」と名前を呼ぶ。


「な……何?」

「悪いが、中に入って由衣に『こっち側に連れてこい』って伝えてくれるか」


 そう。

 入れないのならば、ここに連れてきたらいい。


 ここならホール状になっていて広さもある。

 ある程度の戦闘行為なら耐えられるだろう。



 そして肝心の智陽は深呼吸をした後、背筋を伸ばして「わかった」と言ってくれた。


「……だが、危ないと判断したら伝えられなくても出てこい」

「大丈夫。聞こえそうな位置から叫べばいいんだから。それぐらい任せて。

 あ、でも鞄よろしく」


 智陽はそう言った後、俺に自分の鞄を渡してきた。

 そして、かすかに声と金属音のような物が聞こえてくる女子更衣室に入って行った。


 その姿を見たからか、永川が「わ、私は……」と呟いた。


「永川はここに居ろ。というかここから出ていろ」


 そう返した後、俺は始まるであろう先頭に備えてギアを喚び出す。

 同時に、隣にいる佑希もレプリギアを喚び出した。


 そして佑希は何か永川に俺の言葉のフォローのような言葉をかけている。

 だが、今は気にしている場合ではないので聞こえなかったことにする。



 ……だとしても、待っているだけなのは不安だ。



 なので、俺はとりあえずスマホを取り出す。

 そして協力関係にある丸岡刑事に電話をかけることにした。

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