第251話 連絡して!
夜の運動公園に現れた堕ち星に逃げられてしまった。
佑希にまで来てもらったのにも関わらず。
……駄目だな、俺は。
そんな自責の念が自分の中に湧いているそのとき。
静かな公園に、うるさく音楽が流れ始めた。
だがこれは……。
聞きなれた音楽だと思いながら、俺はズボンのポケットに手を入れる。
その推測は正しく、音の発生源は自分のスマホだった。
……このタイミングで誰だ?
そう思いながら相手を確認する。
画面には『由衣』と表示されていた。
その瞬間、嫌な予感が全身を走る。
だが、出ない方が余計に文句を言われるのは分かってる。
俺は応答ボタンを押して、「なんだ」と言葉を発する。
『まー君!!??大丈夫なの!!??』
いきなりの大音声に、俺は思わずスマホを耳から離す。
そしてすぐに通話音量を下げるボタンとスピーカーボタンを押す。
「何だこんな時間に」と誤魔化す言葉を口にしながら。
『あ、誤魔化すつもり!?
ちーちゃんから聞いてるんだからね!?』
智陽のやつ……佑希だけじゃなく由衣にまで連絡してたのか……。
だが、由衣は俺が少しイライラし始めているのを気にせず……いや、気が付いていないらしい。
相変わらず『ねぇちょっと!!聞いてる!!??』という声がスマホから響いてくる。
俺は渋々「聞いてる」と返事をする。
『大丈夫なの!?終わったの!?』
「あぁ。逃げられた」
『逃げられた……ってじゃあ、堕ち星だったの!?』
「あぁ」
『それなら最初から呼んでくれたらよかったのに~~!!!』
そんな駄々をこねるような声がスマホから聞こえてくる。
足をバタバタさせる由衣の姿が容易に浮かぶ。
というか実際にしているのかもしれない。
本当に小さくだが、何かが軋んでる音が聞こえる。
……まったく。人の気遣いも知らずに。
俺は「こんな時間に呼び出せるわけないだろ」と吐き捨てるように言い返す。
『それは……。
あ、ゆー君は?ちゃんといる?』
口籠った挙句、話を逸らしやがった。
だが俺だって言い合いをしたいわけではない。
そのため俺は「いるが」と返す。
『ゆー君もゆー君だよ!!様子見に行って、ちーちゃんに連絡するって話だったでしょ!?
ちーちゃん、「待ってもゆー君からの連絡がこない」って私に連絡くれたんだから!』
その言葉を聞いた瞬間、俺は「おい佑希」と言いながら佑希に視線を向ける。
すると当の本人は「いやぁ……」と言いながら目を逸らした。
こいつ……さっきから黙ってたのは気まずいからか。
俺のそんなこと考えながら佑希を見続ける。
すると佑希は「でも」と口を開いた。
「真聡の手助けをするって目的は果たしたから……な?」
その佑希の声が聞こえたようだ。
由衣の『も~~……』と何とも言えない声が聞こえてくる。
『……それで、何があったの?』
まぁ気になるよな。
さて……どう説明したら短くすむか。
そう考えたが、そもそも今はそれ以前なことに気が付いた。
なので俺は「明日説明する。まだ外にいるからな」と言葉を返す。
「それにこんな時間だ。
警察に見つかって、もし補導されたら面倒なことになる」
『そっ……か。わかった。
じゃあ、ちーちゃんには「まー君もゆー君も無事、でも堕ち星には逃げられた」って伝えておくね』
さっきとは違って、聞き訳が良い返事をした由衣。
少し不服そうな声だったが。
とりあえず、俺は「あぁ、頼む」と返事をする。
『でもちゃんと明日、説明してね?』
「わかってる。
明日……の昼休み、全員集めて学校の屋上で説明する。
それについてはまた後で、グループに俺から送る」
『うん。わかった。
じゃあ気を付けて帰ってね。おやすみ!』
「あぁ。おやすみ」
その会話の後、俺は通話終了ボタンを押す。
そしてスマホをポケットに戻す。
そのまま俺は「佑希、お前な」と言葉を投げる。
「いやそれは本当に悪かった。
でも、俺が来てよかっただろ?
まぁ……逃げられたけど」
確かに佑希の言葉の通りだ。
佑希が音爆弾を投げてくれなかったら、俺はあの蹴りを受けていたかもしれない。
……責めれない。
それに、佑希だけが来たのは智陽なりの譲歩だろう。
「他のメンバーはさておき、同じように1人暮らしの佑希なら俺も責めれない」とでも考えたのだろう。
俺は行き場のない感情をため息として吐く。
すると佑希が「まぁ」と口を開いた。
「とりあえず今日は帰ろう。
あの堕ち星のことは明日皆で話せばいい、だろ?」
「……あぁ。そうだな」
その会話の後、俺達は運動公園の出口に向かって歩き出す。
そして公園から出ようとしたとき。
佑希が「なぁ」と口を開いた。
「真聡、無理はするなよ」
俺はその言葉に「別に」と返す。
……別に、無理なんて。
いや。
「してるな。
お腹空いた」
「真聡……お前……」
「食べる直前で呼ばれたんだ。
俺の晩御飯は部屋の電子レンジの中で、温められず放置されている」
その言葉を聞いて佑希の口から、「あ~……」という声が漏れる。
同情だろうな、これ。
「じゃあ、なおさら早く帰らないとな。
明日は学校だし」
「あぁ。だな」
そんな会話をしながら、俺達は運動公園から夜の住宅街へと足を踏み入れた。




