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Constellation Knight 〜私達の星春〜  作者: Remi
15節 自分の力で

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第249話 一瞬遅れて

 ビルの5階の扉の鍵を開けて、真っ暗で誰もいないフロアに入る。

 電気をつけて、部屋の中に明かりをもたらす。


 現在時刻21時前。少し遅めの帰宅だろうか。


 だが今日は夕方まで駐車場跡地で特訓した後。銭湯とコインランドリーに行って、コンビニに寄って帰ってきたところ。


 まぁこれならこんな時間になるだろう。


 とりあえず、コンビニで買って来たものをテーブルに置く。

 そして鞄に入っている洗濯したものを片付けに行く。



 入海いりうみ先輩の尾行に失敗してから、数日経った。

 だが、堕ち星も現れていない。


 一応市民プールがある運動公園周辺に足を運ぶ回数は増やしたままではある。

 しかし、本当に何も起きていない。


 そのため「やっぱり、入海先輩は普通の人間だった」という声がメンバー内でも主流になっている。

 流石に俺も、そろそろ警戒をやめてもいい気がしてきていた。



 それにしても……この部屋はトイレとキッチンはあるが、洗濯と風呂がないのが困る。


 もうすぐこの部屋に住み始めて1年になるが、いちいちどこかに行かないといけないのは本当に不便だ。

 ちゃんとしたアパートを選ぶべきだったか。


 ……いや、それだと色々と困っただろう。

 特にメンバーが増えた今、全員集まるとこの部屋でも少し狭いぐらいなんだ。


 まぁこれは結果論だが。


 だがこの話を由衣ゆいに聞かれると、高確率で「じゃあ毎日うちに来たら良いじゃん!」と言われるのが目に見えている。


 ……絶対この愚痴は口にしてはいけない。


 そんなことを考えている間に片づけが終わった。


 晩御飯を食べて、課題をして寝るか。


 そう思い、テーブルまで移動して袋の中のものを取り出す。


 今日の晩御飯は中華丼。

 年末年始前後から、食べれる量も少しづつ増え始めた。


 今では、()()()()()()なら1人でも平均的な量を食べれるようになっていた。


 キッチンスペースに移動し、電子レンジの扉を開ける。



 そのとき。

 部屋の中に突然、音楽が鳴り響いた。


 スマホの着信音だ。


 ……こんな時間に誰が何の用だ。


 そう思いながら、手に持っていた中華丼を電子レンジの中に入れる。

 そして温めずに扉を閉めて、スマホを探しに行く。


 スマホは中華丼を取った時にテーブルの上に置いていたらしい。

 画面には「智陽ちはる」と表示されている。


 その名前を見た瞬間、嫌な予感が頭をよぎった。


 とりあえず、応答ボタンを押す。

 するとすぐに『あ、真聡まさと』という智陽の声が聞こえてきた。


『今大丈夫?』

「なんだ」

『いやさ、ネットに「変な怪物みたいなのが居る」ってのを見つけて。ついさっき。

 もちろんもう消されたけど』


 このタイミングでか……。

 だがとりあえず、現場には行かないと何もわからない。


 俺は頭を切り替えて「場所は」と言葉を返す。


『星雲市運動公園。場所が場所だから私も気になって。今どこ?』

「自分の部屋だ。すぐに向かう」


 俺はそう言いながら、外に出る準備を始める。


『わかった。他の皆には私から連絡しておくから気にしないで』


 そんな智陽の言葉に、俺は反射的に「待て」と返した。


 もう21時を過ぎている。他のメンバーを呼び出すのは……心苦しい。

 今から出ると補導される可能性だってあるし、家族を心配させるだろう。


 そう判断した俺は「他の奴らは呼ばなくていい」と返す。


『またそうやって……』

「時間が時間だからだ。昼間だったら呼んでいた。

 とりあえず急ぐから切るぞ」

『あ、ちょっ』


 そこで俺は通話終了ボタンを押した。


 そして部屋の中から鍵を閉めて、上着を着なおす。

 部屋の鍵と使うかもしれないプレートは持つ。


 そして部屋の電気を消して、スマホの明かりを頼りにベランダへ向かう。


 運動公園はこの部屋からは星雲市《この街》のちょうど反対側になる。

 走っていくと時間がかかる。


 だから身体を魔術で補助して、ベランダからの高さを生かして跳んで行こうというわけだ。


 ベランダは外から鍵を掛けられないが……まぁ、この部屋には結界を張っているから大丈夫だろう。

 それに5階だからな。


 窓の鍵を開け、コートを着ていても寒風が染みるベランダへ出る。

 そして、言葉を紡ぐ。


「我が身、何人たりとも視ること、感じること、認識すること能わず。

 加えて我が動き、人の目で追うこと叶わぬ速さなり。その速さ、風の如く」


 魔術が発動し、身体が少しだけ軽くなる感覚がした。

 次に、手すりに飛び乗ると同時に足に星力を集中させる。


 そして俺は、夜の街へと跳び出した。


☆☆☆


 夜の街を跳んで駆け抜け、10分も経たずに俺は運動公園に辿り着いた。


 運動公園は夜の暗闇と静けさに包まれている。

 ただ、暗闇を外灯が照らしているだけ。


 今のところ異常はない。


 俺は魔術を一度全部止め、認識阻害魔術だけを無詠唱で再使用する。

 そして感知魔術も使用してみる。


 しかし、特に何も視えない。

 だが、「怪物みたいなのが居る」と言われた以上は調査する必要がある。


 俺は夜の運動公園の中に足を踏み入れる。


 しかしこの移動方法を使うと、戦闘前に魔力を使ってしまうのがやはり問題だ。


 ……相手がカメレオン座やおおかみ座と言った、強敵でなければいいのだが。



 そして少し歩いて思ったが……人気ひとけがない。

 いくら21時を過ぎているとはいえ、人が1人もいないのはおかしい。



 そのとき。

 ガサガサと物音が耳に入った。



 反射的に音がした方を向きながら構える。


 その方向は、遊歩道脇の暗闇。

 同時に「あ……あぁ……」という呻き声が聞こえてきた。



 姿を現したのは、腕と足にヒレがある黒い体色の異形。

 ふらふらとこちらに向かって歩いてくる。


 そして異形からは僅かだが澱みと星力を感じる。


 ……堕ち星だ。


 俺はすぐに左手でお腹を右から左になぞって、ギアを喚び出す。

 次にいつものようにプレートを生成して、ギアに挿し込む。


 そして肩の高さから左手を一周させた後、左手を左に伸ばして目元に隠す。


「星鎧 生装」


 そう発すると同時に、左手でギア上部のボタンを押す。


 すると、ギアから山羊座が深い青の光を放ちながら飛び出した。

 月明かりがうっすらと照らすのみの暗闇を、神遺の光が照らす。


 俺の身体はその光に包まれる。


 その光の中で俺は紺色のアンダースーツと紺色と黒色の鎧を身に纏う。



 そして、光が晴れる。



 堕ち星はまだフラフラとしている。


 だったら、こちらから行かせてもらう。


 俺は地面を踏み切って、堕ち星を目掛けて跳ぶ。

 そして、堕ち星の右肩を狙って踵を振り下ろす。


 しかし、堕ち星は横に転がった。

 目標物が移動したので、とりあえず俺は体勢を整えながら着地する。


 いくら感じる澱みや星力が弱いとはいえ、これぐらいは避けられるか。


 そう考えながら、俺は視線を堕ち星に向ける。

 相変わらず感じる澱みや星力は少ない。


 これなら、先に無力化してから考える方が早そうだ。

 プレートを元の人間の体外に出すためには由衣を呼び出す必要もある。


 俺はすぐにまた地面蹴って、堕ち星との距離を詰める。

 そして今度は的確に、人間でいう頬の辺りに拳を叩き込む。


 拳を受けた堕ち星は吹き飛んで、遊歩道を転がる。


 吹き飛ばされた堕ち星を追いかけながら、その正体を考える。



 あの細長い顔に、腕や足、背中にあるヒレのような物。 

 水生生物であることは確かだろう。


 その中から、まだ回収も確認もできていない星座となると……。



 そこまで考察したとき、堕ち星との間合いに入った。

 そして堕ち星はふらふらと立ち上がったところだ。


 魔術で一気に決めるか。


 そう考え、杖を生成しようとしたとき。

 堕ち星が少し背中を逸らした。



 次の瞬間。

 堕ち星の口から水のリングが吐き出された。


 俺は慌てて杖の生成を止めて、左手を前に突き出す。


「風よ、吹き荒れよ!」


 言葉を紡ぐと同時に、突き出した腕を起点に風が吹き荒れる。


 その吹き荒れる風は迫りくる水のリングが激突して、瞬間的に霧が発生した。


 ……なるほど。ヒレに水のリング。

 つまりはいるか座か。


 そのとき、左側から嫌な気配を感じた。

 俺は反射的に攻撃を受ける構えを取る。


 そこにいるか座の拳が飛んできた。


 俺は両腕でその一撃を受ける。


 だが、大して痛くない。

 やはりこの堕ち星、そこまで強くないのか?



 そう思った瞬間。

 打撃から一瞬遅れて、衝撃が腕に伝わって来た。



 威力は並みだった。

 だが、初めて受けた攻撃に頭が混乱している。



 とりあえず俺は、吹き飛ばされる勢いと共にバックステップで距離を開ける。



 一方いるか座は、相変わらず言葉にならない呻き声を上げている。


 ……どうなってるんだ?


 いるか座は確かにトレミー48星座の1つ。

 星座自体の地力が高くてもおかしくない。警戒するべき相手だ。


 それにさっきまで気が付かないぐらいだった澱みの気配が、今は他の堕ち星と同じぐらいになっている。

 なのに言葉は発さず呻いてばかりで、意思が読めない。



 そして、今の攻撃は一体なんだ?



 混乱する頭で状況整理をしていると、いるか座が右足を前に出して地面を踏み込んだ。


 次の瞬間、遊歩道の乾いた地面から水柱が上がる。

 いるか座はそのまま走り出し、俺を囲むように水柱が立ち始める。



 そしているか座の姿は、水柱によって見えなくなった。


 こいつ。こんなことまでできるのか。


 だが、水柱の先端にいるか座の姿はない。

 

 逃げるため……ではないよな。

 どこから来る?



 その瞬間。

 俺の背後から水から出るような音が聞こえた。


 恐らく、後ろを取られた。

 対応が間に合わない。


 ここからできるのは……。


 俺はそう考えながら、全力で氷魔術を発動させようとする。



 そのとき。

 「耳塞げ!!」という声が聞こえた。



 そして、夜の公園に甲高い「キンッ!」という嫌な音が響いた。

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