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Constellation Knight 〜私達の星春〜  作者: Remi
15節 自分の力で

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第247話 もうできない

 永川の相談を受けてから、3日ほど経過した。


 そんな平日の放課後。

 俺は今日も入海いりうみ先輩の尾行をしていた。


 というかあの日以来、ずっと見張りを続けていた。

 今は学校から、恐らく市民プールに向かっている最中。


 俺は入海先輩をぎりぎり見失わないが、見られない距離を維持しながら後を追いかける。

 時には電柱などの障害物に身を隠しながら。



 尾行が褒められた方法ではないし、社会的には見つかれば終わるということもわかってる。


 しかし、今の俺にはこれぐらいしか方法が浮かばなかった。


 もちろん、バレないように対策は打ってある。


 まず、俺1人でしかしていない。

 そしてしっかりと詠唱して、今できる最大の出力の認識阻害魔術を自分に使っている。


 これなら魔力が使えない人間には見つからないし、魔力が使える人間も認識阻害に抵抗する魔術を使わないと認識されないはずだ。


 何故、俺がここまで追い詰められているか。



 それは、まったく手掛かりが得られていないからだ。



 入海先輩が外にいる間は、極力どこにいるかは把握するレベルで張り付いている。

 しかし、少しもボロを出さない。



 堕ち星ではないと判断を下せばいい。



 実際、由衣(ゆい)達にもそう言われた。



 だが俺は、その判断をできずにいた。


 その理由は、入海先輩の変化を水泳部以外の同学年の生徒も感じているようだったからだ。

 由衣と智陽ちはる見鏡みかがみ先輩から聞いてきた話によると。


「確かに年末から少しピリピリしていた。

 でも2月に入った頃から、入海先輩は性格が以前のように戻った。

 だけど、急に怒り出すこともあれば、少し苦しそうな顔で姿を消すこともある」


 そんな話があるとのこと。


 ……そんな話を聞いてしまえば、やはり簡単に堕ち星ではないと判断したくない。


 という訳で、俺は1人でバレたら終わりの尾行をしていた。



 周りの景色と歩いた時間的に、もう少しで住宅街を抜けて運動公園に入る。

 俺は路地の外壁に身を隠しながら、入海先輩が次の路地を曲がるのを待つ。



 そのとき。

 いきなり肩をつつかれた。



 誰かに見つかった。



 見つかった理由は分からないが、とにかくマズい。



 俺はそんな焦りと共に、反射的に振り返る。

 右手に魔力を集中させながら。


 すると。


「ちょ、ちょっと!私だって!」


 どう考えても聞き慣れた声。

 そして振り返って、ようやく肩をつついた本人の顔を俺は見た。


「なんだ……由衣か……」


 そう。

 肩をつついたのは由衣だった。

 その隣には少し気まずそうな顔をしている佑希ゆうき日和ひよりもいる。


 ひとまず、相手が他人じゃなくて幼馴染の3人でよかった。


 今の一瞬で凄く緊張したのか、全身の力が抜けていくのを感じる。


 とりあえず、深呼吸をする。


 そして「何でここにいる」と小声で質問を投げる。

 すると由衣は少し口を尖らせながら「だって……」と呟いた。


「何も言わずに消えちゃうから……」

「大勢だと困るんだよ」

「だって昨日から私何にもしてない」


 「することがないんだよ」と返そうとしたとき。


 今度は後ろから、「そこの3()()、何してるの?」と声が飛んできた。



 嫌な予感が再び全身をよぎり、嫌な汗まで出る感覚が全身を走る。

 それを抑えながらも、俺は後ろを振り返る。



 そこには。



 前を歩いていて、この先の路地を曲がったはずの入海先輩が立っていた。



 最悪だ。

 なぜバレた?



 ……いや、理由は明白だ。



 恐らく俺に気が付いたのではなく、由衣達3人に気が付いたんだ。


 だから俺1人でやってたのに……。


 焦りと怒りが湧き上がってくるのを必死に抑える。


 一方、肝心の見つかった3人は完全に慌てている。

 特に由衣は目が泳いでしまっている。


 だがこれは罪を擦り付けられた状態だ。

 焦って当たり前だ。


 入海先輩は、壁に張り付いている俺の前を通り過ぎる。

 そして「やっぱり、言えないようなことをしてたのね?」と言いながら、由衣達に詰め寄る。


 流石にマズい。

 魔術を解いて俺が出るべきか?


 だが今、ここで解くのはリスクしかない。


 悩んでいるその時。

 佑希が「実は……」と口を開いた。


「こいつが、入海先輩のファンで。

 偶然先輩の姿を見かけたんで、追いかけてしまったんです」


 その言葉と共に、佑希によって入海先輩の前に出された由衣。

 凄い困惑した表情をしている。


 流石にこれで由衣に投げるのはマズいだろ。

 だって由衣だぞ。


 だけど、由衣は途中で気合いを入れた表情に変わった。

 そして「そうなんです、ごめんなさい!」と頭を下げた。


「入海先輩。とても綺麗でスタイルもいいですし、水泳でも大活躍だから『普段、どれだけ努力をしてるんだろうな』って気になってて……それで……学校から……」


 頭を上げた後も、申し開きを続ける由衣。

 だが、語尾が消え入るような声だった。


 そして、入海先輩は口を開かない。


 ……どう考えてもこれ、怪しまれてるだろ。


 しかし、次に入海先輩から発された言葉は。


「……わかったわ。その憧れに免じて、今回だけは無かったことにしてあげる。

 でも、人の後ろを付けるなんてもう絶対にしないで。次同じようなことをしたら、流石に黙ってはいられないから。いい?」

「は、はい!すみませんでした!」


 その言葉の後、もう一度頭を下げる由衣。

 続いて佑希と日和も頭を下げる。


「じゃあ私は行くから」


 そう言い残して、入海先輩は去っていった。

 そして3人は頭を上げる。


 俺はあまりにも予想外過ぎる展開で、見ていることしかできなかった。


 とりあえず……何とかなったのか?



 そう思ったとき。

 入海先輩が立ち止まった。


 そして「そうね」という声が聞こえてきた。


「食べるものをしっかり選んで管理をして、運動もきちんとすれば、スタイルは良くなると思うわよ。頑張ってね」


 その言葉の後、入海先輩は再び歩き出した。


 由衣は「あ、ありがとうございます!」ともう一度頭を下げる。



 入海先輩の背中はそのまま路地を曲がり見えなくなった。

 確認した佑希が「由衣、もういいぞ」と言って頭を上げさせた。


「何とか……なったな。ナイスだったぞ由衣」

「ゆー君のお陰だよ。でも……」


 由衣はそう呟いた後、俺に視線を向けてきた。

 怯えている子犬のように。


 そんな由衣から俺に視線を向けた日和が、ため息交じりに口を開いた。


「……とりあえず、元に戻ったら?」


 日和の言うことはもっともだ。

 尾行はもうできない。


 俺は「持続、終了」と呟いて、詠唱認識阻害魔術の効果を止める。


「えっと……まー君……その……」

「……もう見張ることもできなくなった。

 どうするんだ、これ……」


 俺は、自分の中の怒りを抑えれずそんな言葉を吐いてしまった。

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