第232話 見つけた
翌日。偶然部活が休みだった私は一度家に帰った後。
友達の梨奈と颯馬に簡単に訳を話して、3人で佑希とおおかみ座の堕ち星を探していた。
探してる場所は駅前と私の家がある方の住宅地の境目の辺り。
私はそんな住宅街の中を、辺りを見回しながら移動している。
多分今頃、他の人達も同じように街中を探し回ってると思う。
ただ、志郎は「今日は空手だから、それまでに家の周りを探すわ」と言っていた。
もちろん真聡には「探すなら全員で固まって探した方が良い」と言われた。
だけど、全員で固まって探していると見つかるものも見つからないと思う。
って反論したら、真聡は凄い嫌そうな顔をしてから「無茶だけはするな」って言った。
……真聡って、過保護みたいな感じあると私は思う。
そして、やっぱり佑希は見つからない。
あと堕ち星も。
そうこうしているうちに、別れた梨奈と颯馬との集合場所である信号が見えてきた。
梨奈と颯馬は既にいる。
梨奈は歩いてくる私に気が付いたみたいで、手を振ってくれている。
私は手を振り返しながら2人と合流する。
合流してすぐ「鈴保、そっちは?」と颯馬が聞いてきた。
「駄目。そっちは?」
「私も颯馬の方も駄目だった。
怪物も佑希君もいなかったよ」
2人しかいない時点で結果は分かっていた。
でもやっぱり、ため息が出る。
だけど、落ち込んでる場合じゃない。
私は気を取り直して「場所変えよう」と2人に言ってから移動を始める。
信号を渡って、駅前の方に向かう。
真聡達は「昨日、堕ち星と戦った場所を中心に探す」と言っていた。
だから場所的には被らないはず。
すると、颯馬が「なぁ鈴保」と話しかけてきた。
「何?」
「お前は怪物と児島、どっちを探してるんだ?」
「……佑希、かな。
本当は堕ち星の方を優先すべきだとは思うけど」
「怪我……してたんだよね」
梨奈の言葉に私は「そう」と返事をする。
あの怪我の手当ての量で堕ち星と戦うのは絶対無茶があると思う。
本調子にも見えなかったし。
だから私は「できるなら先に佑希が見つかってほしい」と思いながら探している。
「……ごめんね、せっかくのオフにこんなこと付き合わせて」
「別に。陰星達には迷惑をかけたから、これぐらい手伝う」
「そうそう。友達の友達は友達だしね」
隣にいる梨奈が歩きながら私の方を向いて、ニコッと笑った。
そのとき。
街中に、衝撃音が響いた。
多分堕ち星。誰かが戦ってる。
反射的にそう思った私は、音が聞こえた方向を考え始める。
そんな私の耳に、梨奈の「今の音……怪物?」という呟きが聞こえた。
「たぶん。
悪いけど、一応由衣達に連絡しておいてくれる?」
「途中まで着いて行く。本当に怪物かどうかもわからないだろ」
颯馬のその提案に、私は「……2人は途中で隠れてよ」と返す。
「もちろん!急ご!」
梨奈のその返事で、私達は衝撃音が聞こえた方向に向けて走り出した。
☆☆☆
場所はアウトレットモールだった。
そして既に警察の規制が始まっていた。
私は梨奈と颯馬と別れて、丸岡刑事に規制線の向こうに入れてもらった。
そして、戦場である1階部分に居たのはやっぱり二足歩行の犬の怪物。
佑希によると、おおかみ座の堕ち星。
戦っているのは、橙色の星鎧。
……佑希じゃなくて志郎じゃん。
そんなことを私は走りながら思った。
そして状況を理解するために戦場を見渡す。
志郎は武器のガントレットを付けて、おおかみ座に拳を打ち込んでいる。
だけどおおかみ座はその攻撃を避けながら反撃する。
志郎はそれを何とか避けている、という感じ。
……とにかく、早く助けに入らないと。
私は一旦足を止めて、左手でお腹を左から右へなぞってギアを呼び出す。
そして、ギアに生成したプレートを差し込んでいつもの手順を取る。
「星鎧生装」
その言葉と共に、私は右手でギア上部のボタンを押す。
ギアの中央から蠍座が飛び出して、紺色の光を放つ。
その光に呑み込まれた私の身体は、紺色のアンダースーツと紺色と深紅色の星鎧に包まれる。
そして、光が晴れる。
ちょうどその時。
おおかみ座の蹴りが志郎に決まった。
志郎はその一撃をクロスさせた両手で受ける。
だけど身体は後ろに吹き飛んでいる。
そして、おおかみ座は地面を踏み切る体勢。
……これ、ヤバい奴。
だけど私は自分の身の安全を考えて、少し離れた場所で星鎧を生成した。
今から走っても、私が志郎と合流するよりも先におおかみ座の攻撃が志郎に届く。
……だったら投げればいい。
私はすぐに右手を自分の前で左から右へと振って、自分の武器の槍を生成する。
そしてそのまま、志郎の前を目掛けて投げる。
私も続いて地面を蹴って、走り出す。
普段は斜め上に投げる。
でも、星鎧と星力を使ってる今ならまっすぐに投げるのも苦じゃない。
そして私の槍が飛んできていることに気が付いたおおかみ座は、志郎のよりも手前で前足を地面に引っ掛けて減速した。
槍は当たらなかった。
でもその代わりに、私の拳が減速したおおかみ座に命中する。
おおかみ座は派手に吹き飛んで、少し遠くのモールの柱に激突した。
「助かったわ……ありがとな、鈴保」
志郎がそう言いながら、私の横に並んできた。
聞きたいことがある私は、そのまま「で」と言葉を投げる。
「何で1人で堕ち星と戦ってるわけ?」
「だってよ、見つけたからにはよ。足止めした方が良いだろ」
「……ここ、志郎の家から遠いと思うんだけど?」
「か、帰りながら探してたんだよ。それに」
志郎が続いて何かを言おうとしたとき。
「余裕がありそうだね」という声が後ろから聞こえた。
私は反射的に後ろを振り返りながら、その場から離れる。
すると、身体の近くをおおかみ座の爪が通り抜けた。
体勢を整えて、おおかみ座と向かい合う。
少し離れた場所に志郎が見える。
何とか2人とも避けれたみたい。
そして志郎と話してる間に視線がおおかみ座から逸れていらしい。
確かに、この堕ち星は今までの堕ち星よりも違う意味で強いかもしれない。
……気を抜いていたら私達がやられるかも。
そう考えていると、おおかみ座は「危機意識はあるんだね」と呟いた。
褒められてるのか、皮肉なのか。
どっちなのかわからない。
それより、私には聞きたいことがある。
とりあえず私は「それはどうも」と返す。
「それで、何で佑希と……佐希を手にかけた訳?」
「2人が俺から奪ったからだよ」
「それは聞いた。何を奪った訳?」
私の質問の後、返ってきたのは狼の唸り声。
襲ってくるかもと思って、私は身構える。
しかし、返ってきたのは言葉だった。
「いきなり生まれてきた下のせいで、『お兄ちゃんだから我慢してね』と言われる。
そして親から貰えるものも、才能も、全てあの2人が持っていった」
「……けどそれは、その2人を殺したって戻ってくるものじゃないだろ」
おおかみ座はいきなり話に入って来た志郎の方を向いた。
そして唸りながら、「君、下にいるの?」と質問を投げた。
「いや、いねぇけど……」
志郎の答えに、おおかみ座は興味を失ったかのように私の方を向いた。
「それで、君は?」と私に問いかけてきた。
私には弟がいる。
だけど、そんなことは一度も思ったことはない。
……うちの親は過保護すぎる。
でも少なくとも何かが不平等だと思ったことはないし、弟に対してそんなことを思ったこともない。
だから答えは、決まってる。
「弟がいる。でも、私はそんなことを思ったことはない。
というか普通、親が自分の子供に不平等に扱うことなんてないでしょ」
返ってきたのは、ため息だった。
続いて「君はどうやら、幸せな環境で育ってきたんだね」という言葉。
そして次の瞬間、視界からおおかみ座が消えた。
……怒らせたみたい。
私は急いで、もう一度槍を生成する。
そして、いつ来てもいいように構える。
真上に気配を感じた。
同時に「鈴保!上!」という志郎の声も聞こえた。
私は前に飛び込んで、その場から離脱する。
直後、衝撃波と土埃が襲ってくる。
私はその中心に向けて左手を伸ばし、魔術で生成した毒を飛ばす。
すると、左におおかみ座が飛び出してきた。
そして弧を描くように、私の方に向かってくる。
私はおおかみ座に毒を当てようと狙い続ける。
同じようにおおかみ座を狙って、斬撃も飛んできている。
志郎も同時に攻撃してくれているみたい。
だけど、毒も斬撃も当たらないしおおかみ座はどんどん近づいてくる。
別の方法を取った方が良いと感じた私は毒を飛ばすのを止めて、右手で持っていた槍を構える。
おおかみ座が飛びあがった。
そして、口を開いて飛び込んでくる。
真聡は左腕を噛ませた後、魔術で口の中を焼いたと言っていた。
……なら私は、口を狙って槍を突き刺せばいい?
でも、流石にそれは残酷すぎる気がする。
そんな悩みが頭の中に浮かんだとき、おおかみ座の側面に斬撃が命中した。
しかし、おおかみ座はそれに構わず、私に向かってくる。
次の瞬間、橙色の鎧がおおかみ座を吹き飛ばした。
「真聡も言ってたけど、本当に攻撃受けてるのかって思うよなこいつ」
志郎が着地をしてながら、そんな言葉を投げてきた。
どうやら飛びながらおおかみ座を殴り飛ばしたらしい。
返事をする前に、私はおおかみ座の方を見る。
しかし、おおかみ座は予想をした場所に居なかった。
おおかみ座はそれよりももっと手前で、右手を後ろに引いている。
既に、間合いに入られている。
もう避けれない。迎え撃つしかない。
私は言葉を志郎に返すよりも先に、槍を構えなおす。
視界の端に、志郎も構えなおしているのが見える。
その次の瞬間。
私と志郎の間から1枚のカードが飛び出してきた。
そのカードは、おおかみ座に向かって飛んでいく。
そして、目を開けてられないほどの光を放った。
私は反射的に目を閉じる。
次に、衝撃音が聞こえた。
眩しさが収まったのを感じる。
目がチカチカするのを堪えながら、目を開く。
そこには、紺色と左半分が黄色の鎧が。
私達が探していた、児島 佑希が立っていた。




