第225話 これからどうする
友人達に魔師について説明している一環で、国立魔師学院の説明をしていたとき。
日和が「それで、何でこっちに戻ってきたの?」と聞いてきた。
「この街の地下で、魔力の異常が検知されたらしいんだ。それが中等部3年の学期末。
だから俺は、その原因を調べるために戻ってきた」
「そ、それが理由だったの!?」
また由衣の驚いた声が飛んだ。
今日一番の大きさの声。
そういえばこのことも……。
「言ってなかったか」
「「聞いてない!」」
由衣の言葉に日和も声を重ねてきた。
そして由衣は「ねぇ~!!聞いてないんだけど~!」と言いながら俺を揺さぶってくる。
「やめろ」と言うが、止まるそぶりはない。
それどころか、隣にいる日和は「もっとやって」と言ってる。
恐らく2人とも怒っている。
そして、他のやつらは止めに入らない。
……というか、何人か笑ってないか?
自業自得と言えばそうなのは間違いない。
だが笑ってないで助けて欲しい。
そう思っていると、智陽から「何で真聡が来たの?」という質問が飛んできた。
「組織があるならそう言う調べる部署とかないの?」
「自分で立候補したのはあるが。結局、何で俺が選ばれたのは分からん。
ただ、神遺の力には同じような神遺の力しか太刀打ちできないから行かせようと考えたんだろう」
俺は揺さぶられながらも智陽の質問に答える。
すると、由衣は俺が答えている途中で揺さぶるのを止めた。
そして智陽は「ふぅ~ん」と納得しているのかよくわからない反応だ。
すると今度は矢持が「じゃあ」と口を開いた。
「他の魔力の……異常?が見つかった時って、どうしてるの?」
「それは俺も知らない。
そもそも現代では魔力の異常はあまりないらしいが……」
俺はそこで、「魔力の異常の話」を俺に持ってきたのは焔さんだったことを思い出した。
……これもこの際聞いてみるか。
そう思いながら、俺は焔さんの方を向く。
「焔さん。あのとき、どこから話を聞いてきたんですか」
「今の協会にいる知り合いに聞いたんだ。
それで、星雲市の地下って聞いたから『何かある』って思って真聡に話したんだ。
当たりだっただろ?」
「まぁ……そうですね」
俺がそう返事した時。
志郎が「ちょっと待ってくれよ」と口を挟んできた。
「何だ」
「その魔力の異常ってどうなったんだよ?」
「解決した」
「え……いつの間に?」
また由衣の驚いた声が飛ぶ。
だが、もう慣れてきたので俺は気にせず質問の答えを考える。
魔力の異常が解決されたって聞いたのは……そうだ。
「2学期の初めに地下水路でへび座とからす座と戦っただろ。
あれ以降、観測されなくなったらしい」
「そういう大事なことは先に言ってくれよ!」
「あのとき何も言わなかったじゃん!」
「何もないって顔してたよね」
志郎の言葉に由衣と日和、そして鈴保も「私達に隠しすぎじゃない?」と文句を言ってる。
今日はこの流ればっかりだ。
言い飽きないのか、こいつらは。
「それで、これからどうするんだ」
そんな言葉で、文句を遮って来たのは佑希だった。
俺はその言葉に「確実な手がかりがない」と返す。
「手がかりがないって……どういうこと?」
「俺は当初、魔力の異常を解決したら澱みや堕ち星との戦いが終わると考えていた。
そして魔力の異常を解決してへび座も倒した。
結果、確かに人型の澱みが出現する回数は減った。だが、堕ち星は引き続き現れている。
……どうすればいいのか全く分からないんだ」
俺の返答に、質問者の由衣は「なるほど……」と呟いている。
すると代わりに鈴保が「そんなの簡単でしょ」と言い放った。
「現れる堕ち星と澱みを倒し続けるだけでしょ。
そうしたら、いつかは黒幕が出てくるでしょ」
「だよな!俺も同じ意見だわ!」
そう言った後、志郎は鈴保に「気が合うな」と同調している。
鈴保には嫌がられているが。
だが、それしか手段はない。
……戦っているうちに、一連の事件の背後にいる魔師に行き当たるだろか。
「ってことは、今までと同じように『何もないときは特訓。堕ち星が出てきたら倒す!』ってことだよね!」
俺の心配をよそに、元気にそう言った由衣。
俺は思わず「あのなぁ」と返す。
「簡単に言ったが。お前ら、終わりが来るかもわからない戦いに巻き込まれるってことだぞ。
……それでもいいのか」
「良いに決まってるじゃん。まー君を1人になんてさせないよ」
由衣の言葉に次々と同意の言葉を口にする友人達。
ありがたいが、心配になってくる。
……だが、言っても仕方ないな。
俺はため息をついてから口を開く。
「だったら。ちゃんと強くなってもらわないと困る。
全員、1人で堕ち星と遭遇しても抑えれるようにな」
「いきなりハードル高くない!?」
「でもできねぇと困るよなぁ……」
俺の言葉にそんな返事をする由衣と志郎。
無茶かもしれないが、できるようになってもらわないと困る。
堕ち星はいつどこで現れるかわからないのだから。
そう考えていると、矢持が「それってさ。聖也も……だよね」と呟いた。
射守 聖也。
射手座に選ばれながらも、何故か俺達と距離を取っている男。
そのためギアを使わず、生身で超遠距離からの狙撃という戦闘スタイル。
だが俺達現代人類の身体でその戦い方は無茶がある。
現代人類の身体は弱い。
己が放った魔術でも負傷するぐらいには。
だからせめて、ギアは受け取って欲しいのだが。
そう思いながら、俺は「そうだな」と口を開く。
「せめて、ギアだけでも渡したいんだが」
「それって、仲間にするってことか?」
俺は志郎の疑問に「あぁ」と肯定の返事をする。
「できるかぁ……?」
「さぁな」
そんなやり取りをしていると、由衣が矢持に「みっちゃん。今日の話、全部覚えて帰るの?」と話しかけた。
そんな言葉に、矢持は首を振りながら「ううん」と返した。
「実は、聖也と通話を繋いでるの。
もちろん、今もね」
その言葉と同時に、矢持はずっと自分の膝の上に置いていたスマホをテーブルの上に置いた。
その画面には確かに「通話中 射守 聖也」と表示されている。
「射守……ちゃんと聞いてるの?」
「切られてないから聞いてるとは思うんだけど……。
さっき、お昼前に『一旦切るよ』って言ったときは返事がなかったんだよね……」
鈴保の質問にそう返す矢持。
そして、俺の方を向いて口を開いた。
「でも、もう1回私からも聞いてみる。やっぱり心配だから」
「あぁ。頼む」
これで大体話すことをは終わっただろうか。
そう考えていると、日和が「他にまだある?」と呟いた。
「たぶんない。あったらまた話す」
「じゃあ改めて、これからみんなで頑張っていこ!」
由衣がそう言いながら左の拳を付き上げた。
友人達から肯定の声が飛んでくる。
志郎に至っては真似してか、軽く左手を上げている。
その光景に「何で由衣が締めてるんだ」と突っ込みたくなった。
だがまぁ、これも言っても仕方のないことだ。
頼りたくはなかったが、頼りにはならないわけではない。
強さに関しては、強くなってもらうしかない。
俺も、もっと強くならないといけないしな。
しかし、そんな俺の想いは、仲間たちの賑やかな声に埋もれていった。




