第222話 話をしよう
「焔さん。説明交代お願いします」
俺は言葉を投げながら、振り返る。
すると焔さんは俺が普段作業をするときに使っている椅子に座っていた。
そして「え、俺が説明するの?」と返してきた。
「俺よりも星座の力について詳しいですよね?」
「まぁ……そうだな……」
観念したのか、焔さんはそう呟きながら椅子ごとこちらに移動してきた。
「で、何から話せばいい?」
「まずは自己紹介してください。全部話して良いんで」
「え~~っと、名前は鳳凰 焔で通している。年齢は……わからないぐらい生きてる。不老不死だからな。
で、皆と同じように、星座に選ばれた神遺保持者。選ばれた星座は鳳凰座だ」
焔さんが不老不死と言った瞬間、仲間たち口からほぼ同時に驚きの声が聞こえた。
……まぁ、驚くよな。
俺も最初は驚いた。
しかし、佑希だけは驚いたそぶりを見せなかった。
恐らく先に聞いていたんだろう。
そして焔さんが口を閉じたが、仲間達は誰も口を開かない。
それから数十秒してからようやく、由衣が「え」と呟いた。
「じゃ、じゃあその名前は……」
「適当に付けた名前だ。現代社会に馴染む名前がないと不便だからな」
「適当……だからそんなに強そうな名前なんですね……」
「じゃあその赤い髪は……」
「何か気が付いたらなってたんだよな」
自分の髪の毛を触りながら、鈴保の言葉に声える焔さん。
まぁ名前も赤色の髪も気になるよな。
「で、なんだっけ?
星座の力の成り立ちを説明したらいいんだっけ?」
「そうです。ちゃんと全部話してください」
「わかったわかった。
じゃあ、話をしよう。あれは今から36億……いや、1億4000万年前だったか」
よくわからない前置きのような物を喋り出した焔さん。
たまにする悪ふざけだろう。
そう判断した俺は「いや、そういうのいいんで。真面目にやってください」と突っ込む。
「止めるなよ~~。せっかくやれる機会が来たってのに……」
「何意味わからないこと言ってるんですか。ふざけないで真面目にやってください」
俺の言葉に焔さんは不満そうな態度を取っている。
俺は追加で文句を言うために、仲間たちの様子を見る。
予想通り、よくわかってない反応をしている奴しかいない。
しかし、智陽だけは違った。
顔を背け、手で口を押えている。
これは……笑いを堪えているのか?
疑問を持った俺は「智陽……笑ってるのか?」と言葉を投げる。
すると「わ、私のことはいいから。話進めてよ」と返ってきた。
その声は、予想通り笑いを堪えている。
笑ってる理由は分からないが、これは教えてくれないやつだ。
そう感じた俺は追及を諦めて、焔さんに「とりあえず、余計なことは言わないで説明してください」と急かす。
「あ~はいはい。ノリが悪いのは相変わらずだな……。
え~~~っと。星座の力はな、今で言う……国の軍隊みたいなものだったんだ。
ある日突然、俺が住んでいた国に天に浮かぶ星を繋げて作り出した座と、同じ力を持つ人間が現れ始めたんだ。
そんな人たちを、俺が住んでた国の王が集めて、軍隊を作った。
俺はそんな軍隊の下の方の1人だった。
こんなところだな」
やはり焔さんは雑な説明しかしない。
以前に説明を求めたときから何も増えてない。
そんなことを考えていると、隣の由衣が「……へ?」と呟いた。
見てみると、完全に脳がパンクしているような顔をしている。
そして由衣以外のメンバーも「理解が追いついてない」という顔をしている。
……まぁ、この話は特にぶっ飛んでいるからな。
それに魔師社会の話から連続しているため尚更だろう。
だがこれは全員の予定を聞いたとき、佑希が「年末年始は星雲市《この街》にいない」と言ったからだ。
だから1日で全部を話すことになったんだ。
……俺だけのせいじゃない。
俺がそんな言い訳を心の中でしていると。
「いや、待ってください。色々聞きたいんですけど」
智陽のそんな言葉が飛んだ。
「もちろん何でも聞いてくれ」
「その国っていつの時代ですか」
「ん~~……。数億年前?」
「数億年前!?」
俺と佑希以外のメンバーが間髪入れずににそう叫んだ。
そして由衣が「え、数億年前って人間生まれてるんですか!?」と言葉を投げた。
その由衣の言葉に、由衣の隣に座る日和が「生まれてないよ」と返した。
「カンブリア爆発がだいたい5億年前。だからそれよりは……後ですよね?」
「あぁ~……多分、もっと前だと思うんだけどな~」
「……はい?」
日和はそう呟いた後、ソファーの背もたれに沈んでいった。
由衣が心配そうに「ひーちゃん!?ひ~ちゃ~ん!?」と身体を揺すっている。
だが目は開いているし、「それよりも前に、生物が……」と呟いているので大丈夫ではあるだろう。
そして日和の代わりに智陽が「じゃあどういうことですか?」と言葉を発した。
「それよりも前に人間がいたとなると、化石とか出てこないのおかしいですよね?」
「それはまぁ……戦争で痕跡を全部吹き飛ばしたんだろうなぁ。
何しろ、今でいう神が遺した力を使って、全面戦争をしたからなぁ」
「は!?」
またもや全員の声が重なった。
流石に衝撃に慣れてきたのか、仲間達が「どういうこと?」とざわつき始める。
そんな中、向かいの鈴保が「真聡、あんたこれ知ってたの!?」と言葉を投げてきた。
俺が「あぁ」と返事を投げ返したとき、また智陽が「じゃあ」と言葉を発した。
「大不整合って、そういうことなんですか?」
「大不整合……あぁ、地層が消し飛んでるってやつだよな。多分あってると思うぞ」
「何でそんな曖昧なんですか……」
「俺もずっと地球の変化を見てたわけじゃないんだよ。
数千年単位で寝てたこともあるからな」
「規模が違う……」
智陽はその呟きを最後に口を閉じた。
すると今度は入れ替わるように志郎が「つまり……」と口を開いた。
「つまりどういうことなんだ?」
「わかる!まー君、つまりどういうことなの?」
「私達を騙す嘘でしょ、流石に。趣味悪いわよ真聡」
志郎と由衣は呑み込めていないようだ。
そして、鈴保に至っては何故か嘘だと決めつけている。
だが、これは嘘なんかではない。
全部真実だ。
協会も、超古代文明の存在は認めている。
それは、存在しないと説明が付かないからだ。
なので俺は「嘘なんて言ってない」と言葉を返す。
「纏めると、星座の力は数億年前に存在したほぼ全てが戦争の影響で消失した超古代文明時代の遺物。焔さんはその時代からの生き残りだ」
3人は「やっぱり信じられない」ってリアクションをしている。
そこにまた智陽が「まって?」と口を開いた。
「星座の力ってことは星が関係してますよね?」
「それはそうだな。星座なんだからな」
「だったら、その焔さんが生きていた時代と現代では星の位置とか有無と関わってますよね?」
まさか俺も聞けていなかった疑問を口にするとは。
少し驚きながらも「それは俺も気になっていた。どうなんですか焔さん」と同調の言葉を投げる。
「あ~~……いやぁ……それが、あの頃の星図を覚えてないんだよなぁ……。
でも俺がこうやって生きてるってことは、鳳凰座は変わってないと思うぞ?」
そんな焔さんの返事に、「適当……」と呟く智陽。
俺は続いて「今日ぐらいはもっとまじめに答えてもらっていいですか?」と追撃する。
「いやいや、これでも真面目だから!本当に覚えてないんだよ!
それに俺は軍隊の下の方だったし!」
自分の目の前で手を振りながらそう答えた焔さん。
焔さんは普段から少しへらへらとしていて、真面目にやっているのかわからない人だ。
だが、これは本当に覚えていないということぐらいわかる。
……どうしたものか。
とりあえず、念のため他にいた星座について聞いてみるか。
そう思ったとき。
「じゃあ僕が代わりに答えようかな」
そんな少し優しい男の人の声が、部屋の中に響いた。
そして全員がほぼ同時に、その声がした方を振り向く。
すると、プレートやギアを補完している棚の前で。
ケースに入っていたはずのペルセウス座が浮いていた。




