第221話 魔術と魔法
「え、世界神……なんて?」
「……話についていかに」
「……急に規模でかくないか?」
「本当にそれ。
……もしかして私達、とんでもないことに首突っ込んでる?」
由衣、日和、志郎、鈴保が口々にそんな言葉を投げてくる。
今まで伏せてきた事実だ。
いきなり言われて驚くのも無理はない。
だが「一緒に戦う」と決めたのはこいつらだ。
今さら話すのをやめるなんて選択肢はもうない。
とりあえず、理解しきれなかったらしい由衣のために、もう一度協会の日本語の正式名「世界神遺等保護管理協会」を復唱する。
「以降は長いから協会と省略する。
俺も焔さんも。あと日和と鈴保、それと矢持はあのときいなかったが、以前に俺の部屋に来ていたレヴィさんはその協会に所属している。あの人は技術系だが」
「え!?まー君も!?」
隣にいる由衣の、そんな驚く声が鼓膜に響く。
俺は反射的に「少し声を落としてくれ」と言葉を返す。
「ご、ごめん……。
じゃあ、まー君が中学校入学前に居なくなったのはその協会って言うのに所属したからなの?」
「半分正解で半分違う。
この街を出たのは、ギアを使えるようになるため。そして戦う力を得るために国立魔師学院中等部に入学したからだ」
「国立!?」
何人かの声が重なった。
誰かはわからんが……まぁ、由衣と志郎と鈴保あたりだろう。
そして「……え、魔師って何?」と由衣が続けて聞いてくる。
「魔師と言うのは……」
そこまで言葉にしたとき。
話が逸れてはいないが逸れ始めていることに気が付いた。
この流れはマズい。元に戻さないと。
そう思った俺は「それは後だ」と話の流れを戻す。
「話が本来の場所から離れている。
1つずつまとめて説明しないとお前ら混乱するだろ」
そう言うと、志郎の視線が露骨に俺から外れた。
視界に完全に入ってないからわからないが、隣の由衣も似たような反応をしてそうだ。
俺はそれを横目に見ながら、協会の説明を再開する。
「協会は簡単に言うと、協会は現代科学や今の人間で及ばない力。
それこそ神に分け与えられたような力が現代社会を崩壊させないように管理している」
「……あぁ。だから、澱みとか堕ち星みたいな怪物と戦ってるんだ」
智陽の呟きに「そういうことだ」と返す。
「……じゃあ、ネットとかのメディアにそういう事件の話が出ないのも?」
「あぁ。協会が抑えてるからだ。下手に情報を与えて、社会を混乱させないためにな。
だから協会は各国の政府にそういう力などによる事件を対処する代わりに、情報統制を依頼している」
すると智陽から今度は「そこまで影響力があるんだ……」という納得したような言葉が返ってきた。
さて、次に説明するべきことは……。
そう考えていると由衣から「……何でそんなことしてるの?」と質問が飛んできた。
「……人間社会を簡単に壊せる力。
それを本当に社会を壊すために使いたい、欲しいと思うやつはきっといる。だからそういう連中の手に渡らないように、存在事隠してるんだ」
「でも、正しく使いたいって思う人もきっといるよ?」
「だが実際、堕ち星のような連中もいる。争いが起こる可能性があるなら極力減らしたいんだよ。協会上層部は。日本に銃刀法があるのと似たようなものだろう」
「ふぅ~ん……」
納得したのかどうか、よくわからない返事が飛んできた。
由衣は、人の悪意とかに疎い。だから違う理由で危ない予感がする。
……口を滑らせないように気を付けないとな。
そう思いながら、俺は「で、次」と説明に戻る。
「国立魔師学院。魔師とは魔術師と魔法師という2種類の肩書きを纏めた名称だ」
「……そもそも、魔術師と魔法師って何?」
向かいのソファーに座っている鈴保がそう聞いてきた。
……そういえば、魔術師と魔法師の説明もまだだったな。
何と言えば伝わるか考えながら、俺は言葉を口にすると。
「簡単に言ってしまうと、魔術師とは魔術を使う者。魔法師は魔法を使う者だ」
「……魔術と魔法って何が違うの」
今度は由衣の向こうに座ってる日和が、こちらを覗きながらそう聞いてきた。
魔術と魔法の区分は結構難しい。
どう説明するかと考えていると、智陽が「もしかして」と呟いた。
「魔法って全部で5つだったりしない?」
「……何の話だ。普通に5つ以上あるぞ」
俺のその返事を最後に、部屋が静かになった。
「智陽は何で5つだと思ったんだ」と考えていると。
「……ごめん。忘れて」
智陽本人がそう呟いた。
……本当になんだったんだ?
だがまぁ、気にしてる場合ではないか。
そう思いながら、俺説明をしないといけないので俺は再び口を開く。
「魔術と魔法の違いは『原理が明確かどうか』らしい。
例えば……俺が普段戦闘で火を纏っているのは魔術だ。
身体を流れる魔力を使って、特別な火を起こしている。
それに対して魔法は……あぁ。俺達が普段ギアを喚び出しているのは魔法だ。
星座の力とギアを結び付けて、召喚魔法の応用で喚び出している」
「とりあえず、簡単な説明はこんなところだろうか」と思いながら、仲間たちの顔を見渡す。
すると、ほぼ全員難しそうな顔をしていた。
……やはり難しすぎたんだろうか。
だが、これ以上簡単な説明となると……。
そう思っていると、智陽が「つまり」と口を開いた。
「ギアを喚び出しているのは転送させてるって理解していいの?」
「……そうだな。ここに無いものをそれが有るところから空間を跳躍して呼び寄せているからな」
「なるほど。
……凄くファンタジー」
智陽はそう呟いた後、口を閉じた。
すると入れ替わるように、今度は「次、私も聞いていい?」と鈴保が聞いてきた。
「いいぞ」
「真聡が普段、戦闘中で使ってるのは全部魔術なの?」
「攻撃手段はほとんどそうだな」
「じゃあつまり、火を起こすのも、水を作るのも、風を起こすのも、原理がわかってるってこと?」
「いや、残念ながらそういうことではない」
すると、鈴保から「意味わかんない」と言わんばかりの「はぁ?」という声が飛んできた。
だが、残念ながら俺は嘘はついていない。
こういうのがあるから魔術と魔法の区別は面倒なんだ。
そんな誰が決めたかわからないものに心の中で文句を言いながら、俺は学院で学んだことを思い出して、説明の言葉を考える。
「まず『火、水、風、草木、土、氷、電流』の7つは現象魔術と分類されている。
で、この中には魔力を使って、一時的に物質そのものを再現しているものがある。水とか土、草木とかな。
つまり、『いきなり物質を無い場所に作り出す』と言う意味では魔法に分類される」
「やっぱり魔法じゃん」
「だが、この現象魔術は使える人が多すぎたんだ。
そのため希少性が下がり、魔術に格下げされた」
「何それ……」
「残念ながらそういうモノなんだ。そのまま理解してくれ」
鈴保の口から、何とも言えない声が漏れている。
だが俺も最初に聞いたときは同じ感想を抱いた。
我慢してもらうしかない。
そう考えていると、今度は志郎が「俺もいいか?」と聞いてきた。
「なんだ」
「あぁ~……そもそもなんだけどさ。魔力ってなんだ?」
「私もそれ思ってた!魔力って何?星力は聞いてたけど……」
志郎と由衣からそう言われて、俺の口から反射的に「あ」と言葉が零れた。
俺は、友人達には星力のことしか話していなかったことをすっかり忘れていた。
……1日で簡潔に説明するのは大変すぎる。
自分が原因ではあるが。
「そもそも、普通の魔師は魔力しか使えない。
魔力を生成できて、魔力回路が身体に備わっている人間のみが魔術や魔法を扱うことができる」
「魔力回路……?」
「あぁ~……。血管とはまた別の魔力を全身に巡らせる人間の生体器官だ」
「え……それ、レントゲンとかで見えないの?」
「見えないらしい。魔力が通ってないと、魔力回路の有無は確認できないらしい」
途中で質問してきた智陽が「ふぅ~ん」と呟いた後、また口を閉じた。
これ以上の質問はないようなので、俺は魔力の説明に戻る。
「で、俺達は星座に選ばれた特殊な人間。
星座から力を与えられているから、魔力よりも強い星力が使えるわけだ」
「なるほど……つまり、魔力が使えても星力が使えない人もいるってこと?」
「たぶんな。その辺りは俺にもわからない」
俺の答えを聞いた志郎と由衣が「なるほど…」と呟いた。
すると今度は日和が「私達は結局何になるの?魔法師?」と聞いてきた。
「いや、俺達は神遺保持者に当たる」
「神遺……」
「保持者?」
また志郎と由衣が首をかしげながら俺の言葉を復唱した。
俺はそんな2人を気にせず、説明を続ける。
「神遺とは『神が遺した力』の省略。
そのままの通り『神が与えた、遺した』としか思えないほどの強大な力のことだ。
そんな強大な力を手にして、使える人間が神遺保持者に指定される。
あとそもそもの話、魔術は魔法から格下げされたもの。そして魔法は神遺から格下げされたものだ。
だから神遺には魔術のようなものも魔法のようなものも含まれる」
説明を聞いた日和が「なる……ほど……」と呟いて口を閉じた。
「……じゃあその星座の力も、神様が遺した力なの?」
そう聞いてきたのはずっと静かに説明を聞いていた矢持だった。
俺は断言できず「それは……」と言葉に詰まる。
確かに、星座神遺は強大すぎる力故に神遺に指定されている。
しかし、実際に神様が遺した力かと聞かれると、断言ができない。
だが、今この部屋にはそれを知っている人がいる。
ちょうどいい。
他にも俺が聞いていないことがないかを確かめるついでに話してもらおう。
「焔さん。説明交代お願いします」




