第195話 退けない
壁や手すりなど、あちこちに捕まりながら。
重い身体を引きずってなんとか稀平の後を追う。
だけど幸いなことに、稀平が通った思われる場所には人が倒れている。
そして今は異形の姿。
だから、見つけるのに時間はかからなかった。
後を追って、辿り着いたのは中等部寮棟。
あの日。
俺が氷上と揉めて、稀平が教師陣の追求から助けてくれた場所。
そこで、俺は稀平に追いついた。
ようやく見えた、黒い体色の金属質な異形の背中に俺は「稀平!!」と叫ぶ。
「真聡……?何で動けるんだ……?」
そう言いながら、稀平は振り返って俺の方を見た。
答えは決まってる。
「……稀平に、誰かを傷つけて欲しくないから」
「でも、誰かが罪を気が付かせないといけない」
サラッとそう言い返してきた稀平。
……でも。
「それは俺達の役目じゃない」
「でも神は去り、神遺は薄れた!」
「神様は彼方から見てる。
神遺は、ここにある」
俺は稀平の叫びにそう返しながら、右手で左手首を掴む。
そして、左手の甲の星座紋章を稀平へ向ける。
同時に星座紋章に星力を集めて、左手の中にプレートを生成する。
「稀平が、神遺の力で誰かを傷つけるなら。
俺が、神遺の力でお前を止める」
左手を返し、プレートを稀平の方へ向ける。
そして、お腹に巻いてあるギアにプレートを差し込む。
ギアを使って戦うのは、まだ怖い。
ちゃんと星鎧を生成できるかもわからない。
でも、俺が稀平を止めないと。
俺しか、止めれないんだから。
「星座の神遺を宿す鎧、生成」
その言葉と共に、左手でギア上部のボタンを押す。
その瞬間、全身を襲う身体中の星力、魔力がごっそり持っていかれる感覚。
そしてその直後、ギア中心部から山羊座が飛び出した。
「装着」
出現した山羊座は紺色の光を放ち、俺の全身を包み込む。
その光の中で、俺の身体は星力が結晶化した紺色のアンダースーツと紺色と黒色の鎧に纏われる。
そして、光は晴れる。
すると「戦うしか……ないんだね」という稀平の声が聞こえた。
「お前が止まれば、それで解決する」
「それはできない相談!」
その言葉と同時に、稀平は斜め下に両手を突き出した。
すると俺の目の前の寮棟の床が斜めに盛り上がって襲ってくる。
俺は後ろに飛び下がってその攻撃を避ける。
そして着地する前に無詠唱の魔力弾を飛ばして反撃する。
しかし、稀平は澱みを飛ばしてぶつけて、魔力弾を爆発させた。
「じっとしててくれよ!」
そう叫びながら稀平は何かを放った。
色はない。
だけど、少し景色が歪んで見えるから衝撃波か何かだろうか。
ただ、受けたらマズいことはわかる。
「土よ、壁と成り、我が身を守れ!」
言葉を紡ぎながら左足に星力を集中させて、踏み込む。
すると、目の前の床が盛り上がって壁ができた。
俺はその壁の後ろに隠れながら次の手を考える。
稀平は土魔術が得意だから中距離だと俺が不利だ。
だから距離を詰めないと。
方針を決めた俺は言葉を紡ぐ。
「我、神遺の力を与えられし者。
その与えられし神遺の星座の力を借り、我が身、人の限界を超える」
定義付けで効力を上げた身体強化魔術。
今は地脈から魔力が供給されている状態だから遠慮なく使える。
俺は土壁から飛び出して一気に距離を詰める。
そして、稀平を取り押さえようと掴みかかる。
しかし。
「よめてるよ!」
そう言いながら稀平は俺を蹴り上げた。
守りもなく、蹴りをお腹に受けた俺の身体はそのまま上に吹き飛ぶ。
そして、激しい音を立てながら天井に激突する。
寮棟内での戦闘は想定されていない。
ましてや、神遺の力同士などは。
そのため、俺の身体は簡単に天井を突き破った。
上の階である女子フロアに出ても勢いは止まらず、さらに女子フロアの天井を突き破る。
そして俺の身体は中等部寮棟の上空に到達した。
勢いに任せて、葉っぱのようにくるくると回る俺の身体。
……このままだと追撃を受ける。
そう考えた俺は両手を突き出して言葉を紡ぐ。
「風よ。我が両手を中心として吹き荒れよ!」
紡ぎ終えるのと同時に、両手から風が吹き荒れ始める。
その影響で宙に浮いている俺の身体は、勢いよく動き始めた。
俺は両手から起こしている風の向きを調整しながら、自分の身体を地面へと向かわせる。
そうして着地した場所は屋外練習場。
建物などの障害物がないここなら、遠慮なく神遺の力を振るえる。
そして着地とほぼ同時に稀平が中等部寮棟の屋根上に出てきた。
俺の姿を確認したのか、そのまま跳んでこっちに向かってくる。
……今度はこっちの番だ。
俺は両手を身体の前に突き出して言葉を紡ぐ。
「神遺を宿す山羊座。その力の一端である武器よ、我が手の中に現れよ」
するとごつごつとした絵本やアニメで見るような魔法使いの杖が現れた。
初めて星鎧を生成して戦ったときに生成していた杖。
何故杖になったのか、なぜこの形になったのかはわからない。
あのときは必死だったから。
でも今日は詠唱もしたからか、スムーズに生成できてよかった。
だけど安心している暇はない。
俺は杖頭を跳んでくる稀平の方へ向けて、言葉を紡ぐ。
「水よ。生命の源たる水よ。今、その大いなる力を我に分け与え給え。
今、人に害を与えようとするモノを、押し流し給え」
杖頭に青い魔法陣が現れ、水が生成され始めた。
その水を、跳んでくる稀平に向けて放つ。
だけど、稀平は腕で守りながらも正面からその水を受けた。
そしてそのまま、屋外練習場に着地した。
着地と同時に地面が盛り上がり、いくつかの土の壁が生成された。
見えるだけでも5つの土壁がある。
どこを狙えばいいか。
どこから来るのか。
俺は一度水魔術を止めて、様子を窺う。
次の瞬間。
無数の岩が飛んで襲ってきた。
俺はもう一度同じ言葉を紡いで、水魔術を発動させて岩を撃ち落とす。
そのとき。
「隙あり!!」という叫び声が聞こえた。
その瞬間、俺の身体はまた吹き飛んだ。
どうやら稀平に死角から懐に入られていて、蹴り飛ばされたらしい。
だけど、このまま追撃はもらいたくない。
俺は吹き飛びながらも言葉を紡ぐ。
「草木よ。この星に循環をもたらす草木よ。今、その大いなる力を我に分け与え給え。今、人に害を与えようとするモノを縛る枷と成り給え」
そして地面にぶつかると同時に、左手で地面を触る。
俺はそのまま地面を転がりながらも、体勢を立て直す。
そして急いで起き上がると、稀平は立ったまま四肢を蔓で縛られていた。
俺は走り出しながらも言葉を紡ぐ。
「火よ。人類の文明の象徴たる火よ。今、その大いなる力を我に分け与え給え。
今、拳に宿りて、人に害を与えようとするモノを焼き尽くす炎と成れ!」
そして、縛られている稀平を思いっきり殴り飛ばす。
今度は、稀平が吹き飛んで地面を転がる。
俺はそのまま、言葉をぶつける。
「なぁ……俺達が戦う理由なんてないだろ」
すると、稀平は身体を起こしながら「うん、ないよ」と言葉を返してきた。
「真聡が賛成してくれたらいいんだ。
だから僕と一緒に、この学校を、魔師社会を変えようよ」
「それは……できない」
俺のその返事に、稀平は「何で?」と聞き返してきた。
「真聡であってあの仕打ち、嫌だっただろ?」
「……うん、嫌だった。でも、だからって仕返すのは違う。
稀平こそ、どうしてだよ。『力があるからこそ誰かを守るべき』って伯父さんに言われたんだろ?」
「だからだよ。僕は神遺の力を手にした。だから僕は弱い人を守る。
だから僕は弱い奴を見下してくる、ここにいるやつを皆にわからせる。
弱い奴が虐げられるのは、もう嫌なんだよ!」
稀平のその叫びが、静かな屋外練習場に反響する。
話が平行線だ。
氷上と違って何を考えているかはわかる。
でも、それは駄目だ。
いくら人を守るためとは言え、他の人を傷つけてはいけない。
……倒すしか、ないのか。
悩んでいると、稀平の「だからさ」という言葉が飛んできた。
「退いてよ。やりたくないって言うなら、僕1人でやる。
僕だって、真聡と戦いたくないんだ」
「……俺だって、戦いたくない」
こんな戦い、しなくていいならしたくない。
だけど、人が傷つけられるのは黙って見ているのは。
嫌だ。
「……でも、退けない」
「……残念だよ。真聡」
稀平がそう言うと同時に、稀平の周りの地面から土の塊が浮かび始めた。




