第178話 開かない扉
俺、日和、志郎、智陽の4人は丸岡刑事が運転する車に乗せてもらって、「従業員と入館者が入って出てこず、扉が開かない」という通報があった彩光 風色美術館までやってきた。
その道中、丸岡刑事から美術館館長である彩光 風色から聞いた話を聞かせてもらった。
要約すると
「今日、彩光 風色はたまたま学芸員の一色 綾乃という女性の顔を見に来た。
すると美術館の扉は開いているのに中には一色 綾乃どころか誰もいない。
不審に思い、監視カメラを見たところ「一色 綾乃と女性2人と男性1人がこの部屋に入る姿」が映っていた」
とのことらしい。
そして、今日彩光 風色美術館に行った由衣、佑希、鈴保の3人には連絡が付いていない。
俺はその2つの事実に不安を覚えながらも、車を降りる。
丸岡刑事に続いて美術館の中へ入る。
すると1人の警察官と高齢の女性、彩光 風色本人が出迎えてくれた。
俺達と丸岡刑事は2人と挨拶を交わした後、美術館の中に入る。
するとすぐに別の警察官がやってきて日和、志郎、智陽の3人を、監視カメラの映像の確認に連れて行った。
一方俺は、丸岡刑事と彩光さん、そして案内の警察官と共に2回へと向かう。
そして、開かない扉の前にやってきた。
周囲には数人の警察官と他の学芸員らしき人がいる。
「これが開かない扉ねぇ……」
「この部屋は使ってないはずなんですけどねぇ。建付けが悪いはずでもないですし……」
現場を見た丸岡刑事の呟きにそう答える彩光さん。
すると、丸岡刑事は「陰星はどうだ?」と俺に聞いてきた。
しかし、残念ながら俺にも普通の扉に見える。
だが妙な気持ち悪さもある。
なので、「まだ何とも言えません」と口を開く。
「実際に調べてみてもいいですか?」
「あぁ。
超常事件捜査班の協力者が扉を調べたいそうだ。場所を開けてくれるか?」
丸岡刑事のその呼びかけで、扉の前に居た警察官が場所を開けてくれた。
そして俺は、扉に近づいていく。
木製の扉。
パッと見て違和感はない。
俺はドアノブに手をかけて、とりあえず開けようとする。
扉を引く。
だが、開かない。
というか、ドアノブが回らない。
しかし、これは物理的によるものじゃない。
魔術によって、開くことが阻害されている。
そんな風に感じた。
……色々と面倒なことになってきたかもしれない。
だが、今はこの扉を開くのが先だ。
俺はどうやって開けるかを考えながら、ドアノブから手を放す。
そこに「やっぱ開かねぇか?俺代わるぞ?」という声が飛んできた。
「力づくで開くわけないでしょ。だから真聡が呼ばれたんだから」
「も、もしかしたら開くかもしれないだろ」
智陽の言葉に、そう言い返す志郎。
その声で振り返ると、日和、志郎、智陽の3人後ろにいた。
どうやら確認が終わったらしい。
聞かなくてもわかっているが、答えは気になる。
だがその前に俺は、志郎へ「智陽の言う通りだ」と言葉を返す。
「これはただの力づくで開けれるものじゃない」
「え、じゃあマジで堕ち星が関わってるのか?」
「そこまでは分からない」
その返事に続き、「で、由衣達はこの中か?」と確認の言葉を投げる。
すると日和が「うん」と返してくれた。
「消えた3人は由衣達で間違いない。顔も、しっかり映ってた」
少し心配そうな声で、残念な結果を教えてくれた日和。
そうなると早くこの扉を開けないといけない。
……あまりやりたくないけど、強引に行くか。
ただそうすると、最低でも鍵部分が最悪の場合扉ごと駄目にする可能性がある。
なので俺は3人のさらに後ろにいる彩光さんの名前を呼ぶ。
そして彩光さんの「はい」という返事の後、「扉自体は開けれると思います」と推測と確認を口にする
「ただ、この扉を壊してしまうことになるかもしれません。それでもいいですか?」
「えぇ、ここは作品が入ってない倉庫ですので。でも……本当に開くんですか?」
心配そうな声で聞き返してきた彩光さん。
……正直、できるかはわからない。
だが、やらないといけないんだ。
「……何とかします。みなさん、ちゃんと離れていてください」
そう言った後、俺は再び扉と向き合う。
そして今度は、ドアそのものに手を当てて軽く星力を流してみる。
すると、痛みと共に「バチッ」という反応を感じた。
弾かれたのだろう。
やはり扉そのものに防御魔術の類が張られている。
通りで傷1つもつかないわけだ。
これだと、扉そのものを攻撃したって仕方がない。
そうなると……。
俺はもう一度ドアノブを握る。
そしてドアノブから星力を流してみる。
するとまた手に静電気のような軽い痛みを感じた。
どうやらまた弾かれたらしい。
だが、やはりこれは拒否されて弾かれた感覚だ。
そして今回は弾かれるまでに一瞬だが、間があった。
これならいける。
そんな確信を持ちながら俺は左手でドアノブを握り、回そうと力をかける。
同時に星力を流し始めて言葉を紡ぐ。
「我、星の力を分け与えられし者也。故に我、神遺を宿す者也。
その神遺において命じる。汝が閉ざせしものを解放せよ」
手に伝わってくる傷みが激しくなってくる。
だが俺は気にせず、星力を流し続ける。
すると、少しずつドアノブが回り始めた。
俺は右手も加えて、両手でドアノブを回す。
もちろん星力を流し込みながら。
そしてドアノブと格闘し始めて、数十秒ほど経っただろうか。
遂にドアノブが回り切った手ごたえを感じた。
俺は扉を少しだけ押してみる。
すると扉は何事もなく開いた。
今なら開けれる。
だが、何かトラップなどがあるかもしれない。
そう考えた俺は、ドアを蹴り飛ばす。
扉は勢いよく開いた。
「バンッ!」と音を立てながら。
そして、開いた後に反動でこちらにゆっくりと戻ってくる。
だが、勝手に締まる気配はない。
どうやら開かないようにされていただけのようだ。
後ろから称賛の声や拍手が聞こえる。
だが、俺は気にせず次の指示を口にする。
「智陽はそのまま警察の方たちと待機、日和と志郎は来てくれ」
「ようやく出番か!」
やる気満々の志郎。
しかし、そう単純にはいかないらしい。
「……どうやって開けたの?」
「そうそう。話す前に次行こうとするのやめて」
日和と智陽がそんな言葉を投げてきた。
どうやら開けれた原理の方が気になるらしい。
話してる暇も惜しいが……口うるさく言われる方が厄介だ。
なので俺は後ろを向いて、口を開く。
「扉が開かないように仕掛けがされていた。だが、どうやら特定の人間は開けれるようにもされていたらしい。
俺はその仕掛けの隙に星力を流し込んで仕掛けを無理やり突破した。これでいいか?」
ドアノブに星力を流したときに一瞬感じた間。
そして、既に学芸員と由衣達3人は中に入っている。
その2つから俺は「扉は特定の人間に開けることができる」と考え、その隙間に星力を流し込み、仕掛けを壊した。
上手くいってよかった。
そこに、志郎が「……やっぱ力づくじゃね?」と呟いた。
「……お前らにはその仕掛けがわからないだろ」
魔術の話はしてないからな。
だが、言わない方が良い。
こんな扉の仕掛けを作れるのは、ただの堕ち星じゃない。
確実に、魔師が関わっている。
そしてもし、本当に魔師と戦うなら。
友人達は巻き込めない。
これは、魔師同士の戦いだ。
そう思いながら俺は日和と志郎に向けて、細かい指示を飛ばす。
「俺が先に入る。安全が確認できたら指示を出すから入ってきてくれ」
そう言い残して、俺は部屋に足を踏み入れる。




