第154話 分身
「ヒリヒリするから嫌だ~~!!」
そう言いながら逃げようとする由衣に、焔さんが「ほっておくと大変なことになるぞ~?」と言葉を投げる。
流石に分かってるのか、由衣は「それはぁ……」と呟きながら動きを止めた。
そんな日和が「隙あり」と言いながら、後ろから由衣の手首を掴んだ。
するとその後。
「ナイス日和。じゃあ私が反対側を」
すぐに反対側の手首を智陽が掴んだ。
こうして2人に掴まった由衣は、諦めたのか焔さんに擦り傷の消毒をされる。
「うひ~~!!しみる~~~!!!」という叫び声と共に。
俺はそんな光景を座って眺めている。
……模擬戦した後なのに元気だな、由衣も日和も。
志郎の模擬戦から数十分後。
その後の模擬戦は鈴保、由衣の順番で行い、先程日和も終わった。
由衣は日和の模擬戦中、ずっと消毒から逃げ回っていた。
そのため日和の方が先に傷の消毒された。
だから日和と智陽に掴まったという訳だ。
そして結局。まだ誰もペルセウス座に一撃を入れれず、星力切れまで追い込まれた。
ちなみに今のところ志郎が一番いい戦いをしていた。
肝心の本人はよほど悔しかったのか、終わってからほとんど無言だが。
そう考えていると、休憩を取っていたペルセウス座が戻ってきた。
どうやら長時間概念体を維持するのはキツいようだ。
そうなると、今まで戦ってきた概念体はどうなんだという話になるが……それは俺が聞きたい。
そしてペルセウス座は、俺と近くに居る佑希の近くまでやってきて「さて」と口を開いた。
「真聡君と佑希君、どっちが先にするかい?」
別に順番などはどうでもいいんだが……。
ペルセウス座の問いに対してそう思いながら、俺は佑希の方を見る。
すると、佑希と目が合った。
……佑希はどう考えているんだろうか。
そう考えていると、佑希が立ち上がった。
そして「俺からお願いします」と言って歩いて行った。
……気を遣わせたな、たぶん。
佑希はそのまま、駐車場跡地中央。俺達側の定位置となりつつある位置まで歩いていく。
そしてペルセウス座と向かい合い、いつもの手順で紺色と黄色の星鎧を身に纏った。
そして、模擬戦5戦目が幕を開ける。
先に動いたのはやはり佑希。
素直に距離を詰めて剣を振るった。
ペルセウス座はその攻撃を盾で防ぐ。
金属音と共に弾かれる一撃。
しかし、佑希は怯まず剣を振るう。
角度や狙う位置を変えながら。
だがペルセウス座はどの剣撃も防いている。
剣と盾がぶつかる金属音が廃墟の駐車場に響く。
何度かその音が響いた後、佑希が後ろに下がって距離を取った。
やはりペルセウス座を正面から力比べで突破するのは無理そうだ。
そこに「じゃあ次はこっちから」と言った後、ペルセウス座が動いた。
もう既に佑希の目の前にいる。
神話にもあり、今も履いている羽の付いたサンダルの能力だろう。
能力は……素早く動けるとかだろうか。
いや、これだとシンプルすぎるか?
だが今まで戦ってきたどの相手よりも早い。
先に模擬戦を行った4人全員、これを突破できていない。
そして、佑希にその速さを生かしたペルセウス座のシールドバッシュが迫る。
しかし、佑希は自分に盾が当たる直前。
左手を下に振り、地面にカードを叩きつけた。
その瞬間、佑希とペルセウス座は煙に包まれる。
そして煙から佑希がバックステップで煙から飛び出してきた。
追撃は来ない。
どうやらあのサンダルによる初撃は対処できたらしい。
佑希はそのまま煙の中にカードを投げ込む。
すると、煙の中で爆発が起きた。
投げたのは爆発するカードのようだ。
それに続いて、佑希はカードを投げた場所から少し右側にずれた場所から煙の中に突入した。
再び響く金属音。
同時に煙が晴れる。
状況としては先程と同じようにペルセウス座が盾で佑希の攻撃を防いでいた。
佑希は再び後ろに下がって距離を取る。
やはり不意打ちはペルセウス座に通用しないらしい。
佑希はそのまま、ペルセウス座の様子を窺っている。
「なるほどね……。じゃあ次、行ってみようか」
その言葉と同時にペルセウス座の姿が消えた。
たぶん、姿が消える兜を使ったのだろう。
……容赦ないな。
どこから攻撃が来るかわからない状況。
佑希は剣を構えながら、辺りを見回している。
次の瞬間、鈍い音と共に佑希が左方向に吹き飛んだ。
ペルセウス座の攻撃を受けたのだろう。
だが吹き飛ぶ直前、佑希は右を向こうとしていた。
どうやら直前には気づけたらしいが、対応が間に合わなかったらしい。
佑希は既に立ち上がり、先程と同じように警戒している。
そして、今度は上にカードを投げた。
嫌な予感がした俺は座っているメンバーに「目を閉じろ」と声をかける。
同時に自分も目を閉じ、手で目を覆う。
次の瞬間。目を閉じていても眩しいと思うほどの光を感じた。
同時に金属と何かがぶつかったような鈍い音が響いた。
光が収まったので目を開けると、佑希の蹴りをペルセウス座が受け止めていた。
透明になっているペルセウス座の居場所を閃光のカードで特定したんだろう。
……強い光だと透明になっていても影ができるんだろうか。
俺がそう考えているうちに佑希はまた距離を取った。
この不意打ちもどうやら失敗したようだ。
……マジでどうやって突破するんだよ。
「なるほどね……佑希君は実力はあるみたいだね。
だったら……これはどう対処する?」
様子を窺っている佑希にペルセウス座はそう言い放った。
そして剣と盾を消滅させて、袋を生成した。
その中から出てきたのは、髪の毛が蛇の女性の生首。
それを見た瞬間、智陽が「メデゥーサの首!?」と驚きの声を上げた。
その言葉を聞いて、鈴保が「それって……」と呟いた。
「さっき言ってた、ペルセウスが倒した見た物を石にするってやつ?」
「そう。……本当にペルセウスじゃん」
……神話とかは普通の人間には馴染みがないよな。
そう考えていると、「……ゆー君大丈夫だよね?」といつの間にか近くに座っている由衣の不安そうな呟きが聞こえてきた。
俺はその言葉に「……加減はしてくれるだろ」と返す。
だが、内心俺も不安だった。
神話から推測すると、メデゥーサの首は受けるだけで石化するはずだ。
俺達がそんな会話をしている間にも、メデゥーサの石化光線が佑希を襲う。
襲い来る透明の光線を佑希は走り、カードを投げて何とか直撃を避けている。
今は何とかなっているが……これは攻撃する暇がないだろ。
しかし、数十秒続いた後。
いきなり石化光線が止まった。
そしてペルセウス座が再び口を開いた。
「佑希君、まだ奥の手を隠してるよね?
使ったら?それ」
その発言に俺達高校生6人の口から、それぞれ驚きの声が飛び出した。
佑希の戦闘スタイルは武器による剣の近接戦、あと飛び道具として星力で作ったカード。光、煙、爆破の3種類。
俺は、ここまでに出た物しか知らない。
だがよく考えると、双子座らしい能力は1つもない。
……何を隠してるんだ、佑希は。
そう思いながら、疲れが見え始めてる佑希を見る。
そんな佑希は数秒の沈黙の後、言葉を発した。
「……あまり出したくないですけど、確かに出さないとダメそうですね」
佑希は左手を右から左に振り、ペルセウス座に向けて数枚のカードを投げた。
しかし、メデゥーサの石化光線に撃ち落とされて1枚残らず爆発した。
佑希は今度は左手を上から振り下ろしてカードを投げる。
だがまたしてもカードは石化光線を受けて、大半がペルセウス座に命中する前に爆発した。
さっきから2回の爆破カードを投げた。
しかし、何も変化がないように見える。
……佑希の奥の手とはなんだ?
そう思ったとき、ペルセウス座を通り越して背後に着弾していたカードが膨らんだのが視界の隅に入った。
そのカードは見る見るうちに紺色の光を放ちながら大きくなり、人型と成った。
その人型は紺色と黄色の鎧を纏い、手には剣を持っている。
地面に刺さっていたカードは、星鎧を纏った佑希と同じ姿に成った。
その星鎧を纏った何かはペルセウス座の背後から斬りかかる。
しかし、ペルセウス座は右に動いてその一撃を避けた。
そこに移動地点を読んでいたかのように佑希が斬りかかる。
だがペルセウス座はメデゥーサの首を消滅させて、再び盾を生成してその一撃を防いだ。
そこから佑希ともう1人の星鎧の連撃がペルセウス座を襲う。
だがペルセウス座は剣と盾を駆使して、その連撃を受け続ける。
佑希のカードが変化した星鎧を纏った何か……推定「分身」との連携は隙がないように見える。
俺があれをやられたら受けきれない自身しかない。
それをペルセウス座は志郎の時から同じ様子で対処している。
……神遺そのもの、どれだけ強いんだよ。
そう思いながら、佑希とのペルセウス座の攻防を見守る。
その硬直した状況は、ペルセウス座の一手によって突然に終わりを迎えた。
ペルセウス座が佑希と分身の攻撃を同時に剣と盾で受けて、払い上げた。
佑希達の重心が後ろに傾く。
その一瞬の隙に、ペルセウス座が回転切りを佑希達の胴体に叩き込んだ。
その一撃を受けた分身は消滅し、佑希は吹き飛ぶ。
そして地面を転がる。
佑希の星鎧は消滅し、元のジャージ姿にも戻った。
佑希対ペルセウス座の模擬戦が、幕を下ろした。
ここまでの模擬戦の戦績。
星座に選ばれし高校生5人、誰1人としてペルセウス座本体に攻撃を当てれず終了。




