第153話 もっと強くなりたい
さっきまでプレートだったペルセウス座が、いきなり人間の姿に成った。
何がどうなってるかはわからねぇ。
でも1つわかったのは模擬戦が俺達同士ではなく、ペルセウス座が相手になるってこと。
目の前の出来事を頭の中を整理していると、ペルセウス座が俺達に「じゃあ模擬戦を始めよう。誰から来る?」と聞いてきた。
「俺からお願いします!」
俺は、反射的に手を挙げていた。
身体がなまりそうってのはある。
でも1番の理由は、もっと強くなりたい。
真聡はどれだけ言っても1人で突っ走る。
確かに、俺はあいつに比べると星座の力を使いこなせてない。
頼りないかもしれねぇ。
だけど、そんなことを言って全部あいつに任せたくなかった。
俺を前に進ませてくれた真聡を今度は俺が助けたい。
……本人には、そんなつもりなかったかもしれないけど。
それに、1人で突っ込んで無茶するあいつを見ていられないんだよな。
あいつが俺達がいるのに1人で傷つくのが嫌だし、役に立ってないって言われている気がして悔しかった。
だからもっと強くなって、真聡が1人で無茶しなくてもいいようにしてやりたい。
俺は強くなれる方法があるなら何でもやる。
もちろん、常識的な範囲に限るけどな。
……立候補してから気が付いたけど、俺以外にも最初に相手して欲しい奴いるんじゃね?
そう思って、俺は他の5人に「俺からでいいか」と聞いてみる。
だけど、別にそんなことはなかった。
話が終わったので、俺以外の5人は模擬戦の邪魔にならないように離れていく。
俺はそれを軽く体を動かしながら見送る。
そして5人が建物の壁際に座ったのを確認してから、ペルセウス座が「さて、ルールは」と口を開いた。
「君達は僕の身体に1回でも攻撃を当てれたら君達の勝ち。その他は君達が降参するか、僕がこれ以上の戦闘は無理だと判断したら終わり。
あ、もちろん星鎧ってのを使って本気で、殺す気でかかってきてね」
「……うっす。よろしくお願いします!」
俺はペルセウス座に一礼してから、距離を取るために歩き出す。
歩きながらギアを喚び出して、ある程度離れて後ろを向く。
そして、ペルセウス座と向かい合う。
いつもの手順でプレートを生成して、ギアに入れる。
さらにいつもの手順を取り、左手を上に向けて右手を突き出す。
「星鎧生装!」
その叫ぶと同時に右手でギア上側のボタンを押す。
するとギアの中心部から獅子座が飛び出して、紺色の光を放つ。
その紺色の光の中で、俺は紺色のアンダースーツとと紺色とオレンジ色の鎧を身に纏う。
そして、光は晴れる。
焔さんを入れて7人が見守る中、模擬戦が幕を開ける。
ペルセウス座は動かない。
きっと俺が動くのを待ってるんだと思う。
だったら、遠慮なく行かせてもらおう。
俺はとりあえずその場で両手にガントレットを生成して、振り下ろす。
すると爪から斬撃がペルセウス座に向かって飛んでいく。
しかし、ペルセウス座はその斬撃を持っていた盾と鎌のような剣で弾いた。
……やっぱり弾かれるよな。
そんな気はしてた。
だから俺は斬撃を飛ばしたあと、地面を踏み切ってペルセウス座との距離を詰めていた。
少し見えづらい気がするけど、間合いはわかる。
そして右手を振りかぶって、拳を叩き込む。
まずはシンプルな方法で攻めてみる。難しい方法はその次だ。
けど、拳は左手に持った盾で受けられた。
……やっぱそうなるよな。
反撃はもらいたくないので、俺はすぐに後ろに飛び下がって距離を取る。
さて……次はどうすっかな。
ペルセウス座から目を離さずに考える。
なんかヒントがあるはずなんだがな……。
考えているとペルセウス座が「じゃあこっちから行くよ」と言った。
「来る」と思ったその瞬間。
既に目の前にペルセウス座がいた。
いや、早すぎるだろ!?
堕ち星に成ってた勝二兄よりも早いんじゃねぇか!?
そう思いながら両腕を身体の正面で揃えて守りに入る。
もちろん、星力を両腕に集中させながら。
ペルセウス座は俺の両腕を盾で突き飛ばすように殴ってきた。
シールドバッシュだ。
それを受けた俺の身体は後ろに吹き飛んで、地面を転がる。
ちゃんと構えたのにかなり痛い。
どうなってんだよ。
向こうは軽い感じだったのに堕ち星と本気で戦ってるとき並みだぞこれ。
それなのに俺の攻撃は止められる。
……どうすんだよこれ。
倒れたままそう考えていると、ペルセウス座が心配してくれたのか「大丈夫?まだやれる?」という声が飛んできた。
「もちろん、まだやれるっす」
「良かった。じゃあ続けようか」
そんなやり取りをしながら立ち上がり、もう一度構える。
考えてても仕方ねぇ。
とりあえずは動かねぇと。
実戦なら止まってる暇はねぇ。
模擬戦だろうが本気でやらねぇと。
とりあえず俺はもう一度斬撃を飛ばす。
さっきと同じだからペルセウス座も全部剣と盾で撃ち落としてくる。
このまま突っ込んでも一緒だ。
ここからどう動くかなんだよな……。
そう悩みながら間隔や方向を工夫しながら斬撃を飛ばしてみる。
3回ほど飛ばしたとき、少しずつペルセウス座が見えにくくなっていくことに気が付いた。
なんでそうなってるかは分かんねぇ。
でも確かにさっきも同じことを感じた。
なら、これに賭けてみるしかねぇ。
俺はまず、さっきまでと同じように正直に斬撃を飛ばす。
そして何発か飛ばした後、ペルセウス座の周りを時計回りに移動しながら斬撃を飛ばし続ける。
けどやっぱりどの斬撃も剣と盾を使って弾かれる。
……どんな角度でも弾いてくるのすげぇな。
だけど俺の狙いはそっちじゃねぇ。
何週か繰り返していると、だんだんペルセウス座の姿が見えづらくなってきた。
上手くいってよかった。
俺はこれを狙ってた。
まず俺は、さらに強く星力を込めた斬撃を飛ばす。
その斬撃が弾かれた音を聞きながら、俺は急いで今いる場所からペルセウス座を挟んだ反対側に移動する。
そして、背後から右の拳を振りぬく。
だが、これも読まれていたらしい。
一度目と同じように盾で受けられてしまった。
けど俺だってそれぐらい予想はしてた。
そこで空いている左手の爪を盾に引っ掛けながら、斜め右上に振り上げる。
流石のペルセウス座も勢いを抑えれずに、盾を持ってる左手ごと頭上にいった。
ようやく盾を突破した。
隙ができた。
俺はすかさず右足で蹴りを叩き込む。
決まった。
そう思った。
しかし、その蹴りは右手で止められていた。
……そうだったな!!
近づくと盾しか使われなかったから意識してなかったけど、右手があるのすっかり忘れてたわ!!
というかわざわざ剣をどこかにやって止められたし!
そんな俺の驚きとがっかり感を気にせず、ペルセウス座は俺の足を押し返してくる。
俺は今、片足で立っているからバランスを崩しそうになる。
とりあえず何とか抜け出さねぇと。
そう思った次の瞬間。
俺はまた盾での一撃を受けた。
再び吹き飛んで地面を転がる。
そのまま仰向けになる。
なんで右手が空いていることを忘れてたかな……。
悔しさのあまり「あぁ~~~…くそっ!!」と声が口から漏れる。
考えてやったことがどれもこれも防がれた。
さらに反撃はしっかりもらった。
マジで悔しい。自分の弱さを突きつけられてる気分だ。
だけど立ち止まってるわけにはいかねぇ。
でも。もうこれ以上何も思い浮かばねぇ。
……だったら、一か八かの奥の手をやるしかねぇ。
この力差だと止められる未来しか見えねぇけど。
でもやるとやらないでは違う。
命を懸けた一撃ってわけじゃねぇし。
俺はひとまず立ち上がる。
そしてガントレットに星力を集中させて、ペルセウス座に向けて思いっきり投げる。
ガントレットは一直線にペルセウス座に飛んでいく。
けどやっぱり、剣と盾で弾かれた。
弾かれたガントレットは宙を舞って消滅する。
だけど、もう何度も斬撃を弾かれたからな。わかってて投げた。
本命は俺自身。
俺はガントレットを投げて直ぐに、後を追うようにペルセウス座との距離を詰めていた。
右手にありったけの星力を込めながら。
そして、もう既に拳が届く間合いに入っている。
俺はその星力を込めた右腕を振りぬく。
ペルセウス座はやっぱり盾で防いできた。
そのとき。一瞬、青白い閃光が弾けた。
そして拳と盾がぶつかり、押し合いになる。
ガントレットは鋭いからひっかくと痛いはずだし、斬撃を飛ばしたりできる。
だけど硬いもので防がれるのに弱い。
鋭い爪が通らないんだよな。
地下貯水路の時の蟹座の甲羅とか、今の盾とか。
そういう時はいっそのこと、ガントレットを使わずに拳そのものに星力を集めて戦った方が良いと俺は思った。
拮抗する盾と拳の押し合いは長く感じた。
……多分一瞬だったけど。
俺は力ずくで盾ごとペルセウス座を吹っ飛ばすつもりだった。
けど、そう上手くいかなかった。
ペルセウス座は盾を上に逸らすことで俺の拳の勢いを逃がした。
そして体勢が崩され、がら空きになった俺にペルセウス座の右の拳が入る。
咄嗟に俺は全身に星力を集中する。
しかし、やっぱり吹き飛んで地面を転がる俺。
同時に星鎧も消滅した。
星鎧が消滅したってことは、模擬戦は終了だ。
……俺は、ペルセウス座に一撃も入れれなかった。




