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午前零時におはシャッスです!!

難産でしたが何とか出来ました。

なぜかミステリーに傾いている気がする今日この頃

秘密主義を貫く設定の為に、ファンタジーなのに未だ魔法を殆ど使わない主人公って……

 天統総一郎と結城康秀のミスは星野浩明の言葉を信じなかった事だろう。

 星野浩明が「天統家に対してなんの恨みも抱いていない」というのは紛れもない本心である。むしろ、外の世界を知る事が出来た事には感謝している位だ。

 しかし、昨日再会したばかりの二人にはその言葉が信用する事が出来なかった。その直後に起こった今回の事件、目撃証言以上に、「自分達を恨んでいた浩明が復讐のために襲った」という先入観が働いてもおかしくはない。

「お…おま、何って事を!」

 浩明の出した結論に二人は言葉が言葉にならなかった。孔明としては身に覚えのないのだから当然だ。

「襲われたのは事実でしょう。近隣の病院に問い合わせればすぐにでもバレるような嘘はついても無駄でしょうからねえ。それに結城のご令嬢がここにいないという事を考えれば病院で付き添っているのでしょう。つまり、目撃者はここにいる貴方方の二人を含めた顔見知りの三人。犯行自体には他に目撃者はおらず、いくらでも捏造し放題ってわけだ」

「なんだと!?」

 浩明の言葉に康秀が掴みかかろうとするのを総一郎が制した。

「それならば、お前も同じだろ?」

 友人と食事をしていた、という浩明の主張も口裏を合わせたかと聞かれれば否定しきれない筈だ。

「それは違うわよ」

 総一郎の言葉を否定する声がそこに響いた。

 声の主は三人のもとに出ると浩明の横に立った。

「コイツの無実なら、一緒にいた私が証明するわよ」

 総一郎と康秀に対して毅然とした態度で声の主、灯明寺凪は答えた。



 凪の行動に、周りから「誰よ?」とか「あの子、何考えてんの?」とささやく声が聞こえてくる。

 魔術専攻科の学生が普通科の学生をかばったのが、ギャラリーの学生達には信じられない光景だったようだ。まぁ、魔術専攻科の中で、人気、実力とともに上位に位置する二人に対して真っ向した立場に立つ人間が現れたのだから当然だろう。

 そんな好奇の視線を一瞥するように見渡してから、凪は口を開いた。

「お二人がどんな考えでコイツを疑ったのか、何となく分かりますけど、コイツはあなたの妹なんか襲っていませんよ。だってその時間、私と一緒にいましたから」

「君は……」

「灯明寺凪、近所付き合いしている友人ですよ」

 二人に対して、凪は自分の事をそう説明した。

「さてと、これで私の無実は証明されたわけだ。これで満足ですか?」

「待て。お前達が一緒にいたという話も口裏を合わせたって……」

「あぁ、それは無理ですよ。だって……」

 康秀の言葉を遮るように凪が携帯端末を取り出した。

「食事風景、お店のブログで紹介されて話題になってますよ」

 凪が二人に見せたページには「天敵現る! 恐怖の大食いカップル襲来!!」という見出しと共に浩明と凪の写真(浩明の許可有り)が掲載されていた。

「これってアリバイの証明になりますよね」

 総一郎と康秀の取った行動は完全に裏目にでた。

「じゃあ、雅を襲った浩明は誰なんだよ!?」

「証拠が出てるのだから別人という事になるでしょう。可能性はふたつ

ひとつ目は単純な見間違い、ふたつ目は私に化けた別人、もしくは幻覚による催眠でしょうね。あぁ……」

 浩明は二人を見据えた。

「若しくは、ただの事故を事件にでっち上げたうえで、私を犯人に仕立て上げ、『もみ消してやる』と恩を売ろうとした、というのも加えればみっつ……おっと、これは失言だったかな?」

 二人の取り巻きからの殺気と、凪の引きつった顔を見て、言いかけていた言葉を訂正した。

「まぁ、誰が襲ったかは知りませんけど、ひとつだけはっきりしているのは、あなた方が公衆の面前で人を犯人扱いした最低の人間だと言う事ですよ」

 恥を知れ、と言わんばかりの言葉に総一郎と康秀は完全に沈黙した。

「行くぞ灯明寺、この二人にこれ以上、何を言っても無駄だ」

 凪を促すと、周囲の視線を無視して歩き出した。



「ありがとう、灯明寺。助かったぞ」

 人だかりから離れたところで、横に並んだ凪に礼を言う。

「礼はいいけど、あれは言い過ぎなんじゃない?」

「あの程度で凹むわけないだろ。取り巻きに懐のでかさ見せつけ損ねたのを逆手にとって悲劇のヒロインぶって、周りの取り巻きに慰めてもらってるはずだぜ。『あんな落ちこぼれの言う事なんか気にする事ないですよ』ってな」

「いや、それはそうだけどさ」

「それよりも問題は……あの二人が言っていた事だ」

 歩くのを止めて、凪の方を向いた。

「犯人はどうして私に変装したんだろうね」

「どういう事?」

「闇討ちするなら正体を隠すのは当然、それなら覆面で顔を隠せば事足りるはなしだよ。

それなのに何故、あの連中に姿を晒して逃げるという失態を犯したんだろうね」

「犯人が慌ててたんじゃないの?」

「確かにその考えも否定出来ないけど、それならば私の姿である必要がないでしょ。つまり」

「犯人は星野じゃなきゃいけなかったって事?」

「そういう事。そして、犯人は私の姿で逃げる事で『星野浩明による犯行』だと印象付けたかったって事だ」

 浩明の言葉を引き継ぐように凪が答えると、更に補足を加えた。

「何のためにそんな手の込んだ事を?」

「さぁ……、それはこの記事を書いた人間に話を聞いてから考える事だ」

「話してくれるの?」

「そこで…だ、灯明寺、ちょっと協力してくれ」

「協力って……私で大丈夫なの?」

 心配そうに聞き返してくる。総一郎達に対して浩明の弁護をした凪の評判は魔術専攻科で急降下中だ。協力しても戦力として応えられるか分からないからだろう。

「頼む。この高校で信頼出来るのは君しかいないんだよ」

「ちょ!?」

 手を合わせて頼むと、凪は顔を真っ赤にしてたじろいだ。

「アンタ、助走なしにそんな事言わないでよ」

「? なんかおかしかったか」

「べ、別になんでもないわよ」

 平静を装うように浩明から顔を背けて答えた。

「で、返事は」

「そうねぇ……、私じゃなきゃ駄目なのよね?」

 腕を組んで、もじもじと左右に軽く動かし始めた。

「いや、迷惑だと思うなら一人で……」

「私じゃなきゃ駄目なのよね?」

 言いかけた浩明の言葉を、同じ台詞で遮った。

「だから、迷惑なら一人で……」

 言いかけてる最中に、、凪にブレザーを掴まれて引き寄せられた。彼女の整った顔が至近距離に迫ると、

「わ、た、し、じゃなきゃ駄目なのよね?」

 最初の部分を強調した強い口調に、浩明は呆気に取られながら無言で頷く。

 ―何の確認だよ

 浩明には凪の意図が分からなかった。

「そうか、そうか、星野は私に手伝ってほしいんだ」

 頷いたのを見て、凪は口元を僅かに綻ばせて掴んでいたブレザーから手を離した。

「手伝ってあげてもいいんだけど、どうしよっかなぁ~」

 そして顎に左手の人差し指を当てて浩明を見た。。

 ―見返りを求めているな

 浩明は察した。

「……駅前の今川焼き二個でどうだ」

「クリームに粒餡とチョコの三個ね」

「太るぞ」

「甘いものは別腹よ」

 皮肉を軽く受け流して交渉は成立した。

「で、どうすればいいの?」

「そうだな……。まずは情報収集からだ。

灯明寺、この高校で流れている噂、学生の評判、知っている範囲で全部教えてくれ」

「了解。それじゃ図書室で話しましょう」

 二人は歩き出した。

浩明君が人前で魔法をあまり使わない理由は、「魔法を使う時は最終手段」という考えでやっているのですが、ファンタジーらしくないでしょうか?

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