第65話 『妹は心配性だよっ』
「お、お兄ちゃん……だ、大丈夫かな……」
「このダンジョンは、お腹が空く事もなければノドが渇くこともないんだ。その点は、心配ないだろう」
「いえ、私は、そんな事の心配をしてる訳じゃないんですよ、アレスさん」
「ヒナちゃんは、タケルの事が大好きなんだね」
「な、なんですか、わ、私にとっては『お兄ちゃん』だから、い、いちおう言ってみただけですよ、そんなんじゃありません」
「ははっ、そうか、わかったよ」
「じじいっ、あたしはタケルの事が心配なんだけど、中には強いモンスターがいるんでしょ」
「メル、このダンジョンは、レイラが作ったものだ。そう甘いものでは、ないだろう。わたしにもどうなるかはわからないんだよ」
「そ、それじゃあ、タケルに万が一の事があるかもしれないのですか? アレスさん」
「わたしも、リンカが言ったようにお兄さまの身が心配なのですが……わたしの召喚獣を送り込めればなどと考えている」
「みんなの気持ちは、よくわかった。だけどこれはタケルが、ひとりで成し遂げなければならないんだ。今私達に出来ることは、タケルを信じて待つ事、それだけだよ」
「「「アレスさん……」」」「じじい……」
" おーーい、みんな俺の声が聞こえているかな "
「「タ、タケルっ!」」「お兄ちゃん!」「お兄さま!」
" なんだか、もう10階層まで来ちゃったんでテレパシーで話し掛けてみたんだけど、まあ楽勝だよね。でも時間掛かりそうだから、みんな一度家に帰って待っててよ。いま可愛い妖精みたいなのと一緒にいるからさ、じゃあ、ヨロシク "
「「「はああぁっ!? ぶっ殺っ」」」
「私達が、どんだけ心配してると思ってるんだ、タケルの奴! 妖精なんて呑気なことを言っちゃって、もう帰っちゃう? ヒナちゃん」
「うううん、私は待ってるよ、リンカちゃん」
「ふふっ、やっぱりそうだよね。タケルは、嘘つきだね、私も残るよ」
「みんなが帰ったとしてもあたしは、最初から残るつもりだったんだけど、ヒナとリンカがいるなら益々帰るわけにはいかないよ」
「メル、私の事を忘れている。お兄さまの帰りは私が迎い入れる」
「お兄ちゃんの為にありがとう、みんな」
「タケルは、良い仲間をもったな。じゃあ、待っている間、私の昔話でもしよう、題して『アレス武勇伝〜いじめられっ子から勇者になった漢〜』だ!」
「「「「…………………………」」」」
◆◇◆◇
正直しんどい! 俺は10階層に辿り着いた時、悪魔に似たモンスターと戦っていた。
確かに9階層まで、わりと楽に進んで来れたのは自分のレベルが、上がったおかげでもあるのだろうが10階層に来て敵の強さが、跳ね上がったのだ。
「物理攻撃では、限界かも知れないな……」
さっきから何度もこいつを切り裂いているのだが、傷口がすぐに再生してしまうのだ。 このままでは体力だけが、奪われていずれは奴の爪の餌食になるだけだ。
「使えるのか? 魔法」
このダンジョンには、レイラの魔力が込められている。その魔力を利用出来れば魔法を放つ事が出来るはずだ。俺は、右手に魔力を溜めるよう集中した。不発に終わればそれまでだ、嫌な汗が頬を伝い床にシミを作った。
広いダンジョンの中、高速で飛び交う奴が爪を光らせこちらに向かって来る。
" 速いっ ! "
かろうじて攻撃を避けた俺だが、肩口を浅く切り裂かれて血が滲む。体力の消耗で動きにキレが無くなってきているのだ。ここで勝負をつけるしかない!
俺は、振り返りざま魔法を放った。
「ファイヤー・インパクト!」
以前ケインズに見せて貰った炎の魔法だ。
炎は、大きな球体となり、モンスターを包み込み、そして塵も残さず消し去った。
「ははっ、や、やった」
ふらふらになりながら、俺は、上で待っているヒナ達の事を考えた。指輪を外してみんなにテレパシーを送り、大げさに無事を伝えた。
「うまく伝わったかな。ヒナは、心配性だから放っておくとずっと待っているかもしれないからな……」
テレパシーを送った後、くらくらとして俺は、意識を失ったのだった。




