第51話 『魔界一の頭脳』
魔王の部屋を出てから俺とヒナは、廊下をテコテコ歩いていた。
広い魔王城の中では、小さい俺達は、テコテコという表現がふさわしい。
すれ違う魔族は、ヒナを見ると礼をしてくるか挨拶をしてきた。実に気分がいい。
その中には、なんだか怯えたような奴もいた。
「なあ、あの背の高いトンがった魔族は、お前を見て怯えた感じだったけど……」
「ふふっ、ちょっとイタズラが過ぎたからキュッとした事が、あるんだよ」
おいっ! いったいキュッて何なんだ、ヒナ! あいつがトンがったのはそのせいなのか⁉︎
「図書室は、1階だからもうすぐだよ」
魔族も怯える妹が楽しそうに言った。
「お前、随分楽しそうだな、何かいい事でもあったのか」
「だ、だってお兄ちゃんと魔王城でこうして歩いているなんて、なんだか嬉しいよ、いつも私が出かけていたからね」
デレた時のヒナは、とてつもなく可愛い、本人は自覚していないんだけど。
「俺は、ヒナとだったらどこでも楽しいけどな」
「も、もう、そんなことを言ったら……」
妹は、赤くなって声が小さくなった。
「……キュッとしちゃうから……」
ち、ちょっとイタズラが過ぎたかな、お兄ちゃんとしては。
ヒナは、しばらくはしゃいだようにクルクル回りながら歩いていた。こんなテンションの高いヒナは、珍しい。メルがいたら間違いなく飛び付いて抱きしめていただろうな。
「ふんふふっ、ふんふんふふっ、ヘイッ」
図書室のある廊下に来るととても残念な鼻歌を歌いながら歩いて来る奴がいた。
本来ならガン無視するところだが今日は、役に立つかも知れない。
「よう、グライド、ずいぶん素敵な曲じゃないか」 ヘイッて言ってたし。
俺に気付いたグライドはギョッとした顔をして駆け寄ってきた。
「おいっ! な、なんでタケルがここにいるんだよ」
そう言って俺の肩をぐらぐら揺さぶった。
まあ、お、落ち着付け、グラグラしてしやべ、しゃべれないだろ、だろう。
あとタタケルだけどな、ここでは。
「魔王さんに呼ばれて、どーんとなったから一緒にひざまくらしてもらった」
俺は、今までの経緯を端的に述べた。
詳しく説明するつもりも無い!
「はしょりすぎで意味わかんねーよ! 魔王城に遊びに来る勇者なんて聞いたことないぞ。しかし、まあそれならいい、僕はまた連れ戻しに来たのかと思ったぞ」
もし、ヒナの事を言っているのなら魔王候補生が減って喜ぶとこだろ、グライドよ
あれっ、そうか! 魔王に俺が呼ばれた理由ってこれなんじゃね、俺がヒナを連れ戻しに来たんじゃないかって思われたのかもな……
ヒナは、俺とグライドのやり取りが良く分からず不思議そうな顔をしている。
「なあ、グライド頼みがあるんだけど」
「断わる! カネは、貸さない」
いや、そこまで落ちてないよ、俺!
「そうじゃなくて本を探しているんだ、いや、もしかしたら文献みたいなものかも知れないんだ。博識のグライドがいれば探すのも容易いだろうと思ってさ」
下手からの誉め殺しでようすを伺う、俺
「そうだなあ、ここは検索用の水晶がないからな……」
グライドは、懐から時計を取り出しチラチラと見だした。
さっきまでのんびりと鼻歌を歌っていた奴が忙しいわけがないだろうが!
「ああ、あ〜っ、グライドだったら頼りになるし快く協力してくれると思ったのにな、ヒナっ」
「優しいグラくんが、ダメなんだから、よっぽどの理由があるんだよ、お兄ちゃん」
「あっ、そうだドルフィーナさんに相談してみようか」
「ドルちゃんなら、ありかも……」
「まてやーーーーーーーーーっ!」
グライドは、俺とヒナのコンビネーションに掛かったらしい。
「タケルっ! いつ僕が、いつ僕が、あっ、いつ僕が断わったんだあーーーーっ」
お前は、梨園か!
あとタタケルな。
と言うわけで、只今3名が確保出来ました。
グライドは、ヒナにありがとうと言われてご機嫌だ。
図書室の扉は、ごてごてとした装飾や魔法陣などが描かれていたがプレートが貼り付けてあり『アストライス』と文字が刻まれていた。
「『アストライス』って言うのが図書室という意味なのかな、ヒナ」
「アストライスは、魔族の名前で、ここはもともとその人の書斎だったみたいだよ」
「だったら、ここの本は、その人の蔵書ってことになるのか」
「うん、そうみたい。魔界一の頭脳らしいわ、それに魔族なのに紳士的な人らしいよ」
「すごいじゃん、その人は中にいるのか」
「いると思うよ、ここから出たことないんじゃ無いかな」
扉を開けて図書室に入った俺達は、信じられない光景を目撃した。
「な、なんだよ、コレ!」
後ろからメルに首を絞められているアストライスの姿がそこにはあった……




