第49話 『恋する魔王様』
魔王城の最上階に向かうまでには、かなりの階段を登らなければならない。途中の階まではエレベーターがわりのゴンドラがあるのだがそれもある一定の階で終り、そこからは、徒歩で階段を地道に登っていかなければならない。
見上げても長々と続く螺旋階段を俺とヒナは、登山でもする様な感覚でひたすら登っていた。
緊張している為かあまり疲れは、感じなかったのだが、押し潰されそうになる威圧感に耐えきれず、どうしてもおしゃべりになる。
「あの~っ、ベルナルドさんは、もうここ長いんですか?」
俺は、前を歩いているフクロウタイプの魔族に話しかけた。話題は、なんでもよかったのだ。
「そうですね、私は、まだ200年ぐらいですから、ついこの間来たばかりですね」
200年は、魔族にとってほんの数ヶ月程度の感覚らしい。一体どれだけ生きるんだよ、あんたら
「はぁ、そうですか、じゃあそれまでは何処にいたんですか」
前から疑問に思っていたが、魔族が野良モンスターの様にウロウロしているなんて聞いた事が無い。魔王城に全ての魔族が、住んでますなんてのもあまりに現実味がなさすぎる。
「魔界ですよ。私はそこで生まれましたから」
フクロウの魔族は、さも誇らしげに語った。生まれつき戦闘力の高い魔族には、選民意識があるらしい。人間であるヒナが受け入れられているのは特別な事なのかも知れない。
「へえーっ、とするとベルナルドさんは、別の世界から来たってことですよね。次元を移動したみたいな」
魔界の事は、おおよそ想像通りなのだが移動手段が自由であれば、魔族は無尽蔵にこの世界にやって来れる事になる。いや、この世界だけでなく他の世界にも……
「空間転移魔法を使うんですよ。魔族で今この魔法を使えるのは、魔王様と側近のシュベルト様だけなんですよ。この世界に来れる魔族は、いわばエリートなんです。向こうには、言葉も理解出来ないような奴もゴロゴロしてますし」
なんだか海外赴任を任命された商社マンの様だ。この話し方だとベルナルドは、インテリ魔族なのかも知れないな。
しかし、この世界で現在の俺達の世界に近い社会を作り上げているのが魔族だなんて皮肉な話だと思う。そうか、だからこそシュベルトは……
「お兄ちゃん、そろそろ到着しそうだよ」
ヒナが、疲れた様子もなく明るい声で言った。
お兄ちゃんは、結構へんな汗がでてきて大変なんだよ。
「しかし、魔王さんは、なんで俺まで呼んだのかなぁ」
未だ魔王の意図は、ハッキリしなかった。
「多分、話し相手だと思う、わたしはこの前、大好きな魔女の話をずっと聞かされたから」
さすがに、ミレシアが魔王をウザがるはずだよ、いまだに大好きなんだろうなハーフエルフの事。
「なんだか不可侵条約を結ぶくらい仲が良かったみたいだけどお互いの立場があるから結ばれなかったみたいな事を言ってたよ。そんな恋もあるんだね、お兄ちゃんっ」
ヒナは、キラキラした笑顔を俺に見せた。
俺は、グライドから本当の事情を聞いて知っているのだが、魔王と言えどもあまりに不憫なので内緒にしておいてやろうっと。
そういえばミレシアには、最低でも娘がふたりいるよな、ひとりはケインズの奥さんで、もうひとりがメルのお母さんだ、とすればミレシアの旦那さんは、一体誰なんだ。
「ベルナルドさん、魔王さんには、お子さんは、いないんですか?」
俺は、まさかと思って一応ベルナルドに聞いてみたのだが……
「そうですな、魔王様には、ふたりの娘様がいらっしゃったようですが実際には、私はお会いした事がありませんな」
ふたりの娘って……まさかがあるのかよ!
今はまだ確かめようが無いけど、これってメルが魔王の孫の可能性があるっていう事だよな!
考えてみると時を戻すなんてとんでもない魔法が誰でも使える訳ないよな。
つまりこれが本当ならメルは、人間とエルフと魔族の血を引き、なおかつ勇者と魔王と大魔法使いの遺伝子も引き継いでいる事になる。
すげーよ、メルっ、やっぱ連れて来れば良かった。
「世界征服なんてダメだぞ、お爺ちゃんっ」なんてメルが言えば終わるんじゃないのこの戦い。
もしくは「世界征服より、あたしを選んでお爺ちゃん……だめ……かなっ」というパターンもありかも知れない。
勝った……勝ったよ俺、もう魔王に勝ったも同然だよ、イエーィ
「お兄ちゃん、ここが魔王様の部屋だよ」
ふっ、魔王かっ、もう俺には勝利の方程式は、出来ているんだよ。貴様のベクトルは、敗北という極限値に向かって収束しているのだよ。この勇者 タケルによってな……
魔王の部屋の扉が重々しく開いて…………なかった。
ガラガラガラ、引戸だった。
魔王の部屋の戸が完全に開いて中央の玉座に鎮座している人物が、こちらをジロリと一瞥した。
「あの、これつまらないものですが」
俺は、速攻で手土産のキューネルを差し出した。本能で危険を察知したからとしか言えない。
だって、さっきの甘い考えが何処かに吹き飛んでしまう程、魔王は、恐ろしい形相をしていたのだから……
シリアスな展開に手に汗を握ります。




