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第155話 『思ってもない凱旋』

ああああーっ、どうにも気が重い。

世界は、平和になり、天気も良いのに俺の気持ちはどんよりしたままだった。


「お兄ちゃん、お礼参りの準備は出来たのっ!?」


それを言うなら挨拶参りな、ヒナっ!


そう、魔王に頼めば俺達は、元の世界に帰ることが出来るのだ。シュベルトから渡された魔道具のログは、俺達の世界を記録している。つまりあの日のあの時間に俺達を転移することが可能なのだった。


本当は、シュベルトが愛する人をさらってでも行きたかった平和な世界、それがまさに俺のいた国、日本だった。


「ああ、バッチリだ! アレスサブレもたくさん持ったしな」


「どれどれ、ってああああっ、これアレンサブレだよ!? お兄ちゃん!!」


「ええっ!? マジでっ!」


俺は、間違えてパチモノを買ってしまったようだった。どうりで安いなと思ったんだよな……

しかしアレンサブレってアリサの親父さんだよな、この世界じゃ有名な作家だけどまさかサブレまで販売してやがったのかよ。


買い直す時間もないし、まあこれで済ますしかない。ちっくしょうめ!


パッケージを改めてよく見てみると『あやしいパウダー』付きとある。ちっともお得な感じがしねえ!


「と、とりあえず、こう言うのは気持ちが大事だから」


「だ、だね、お兄ちゃん」


とまあ、こんなやり取りの後、まず俺達が向かったのはレイラのところだった。場所は、もちろんアレスの塔だ。


「こんにちは、レイラさ~ん、おーーい」


塔の入り口から叫んだが、何の反応もない。


「マシュ! おいマシュ、出てきてくれ」


「余に何の用じゃ?」


姿を現した使い魔マシュは、何か変な影響を受けているようだった。と言うかグライドのやつだ。


「お前、何だよ余って? これからマシュイドって呼ぶぞ」


「そ、それは、嫌だよ、使い魔にだって尊厳はあるんだから……」


いや、ある人物の尊厳を踏みにじっているのお前だろ。


「なあ、レイラさん、反応無いんだけどどうしてだかわからないか?」


「ああ、これもう一回クリアしないと会えない奴だと思います」


「なあっ!? いちいちクリアしないとあの人に会えないのか、これ!?」


「はい、そう言う人だというか、レイラ様ですし」


マシュは、しょっぱい顔をして言った。

相変わらずの底意地の悪さ、まあそれがレイラだな。


「よし、ここに菓子折り置いて帰ろう。ども、お世話になりました」


俺達は、カバンから菓子折りを出しそそくさと帰ろうとした。


「こ、こらあああああああああっ!!!!」


声の主は、レイラだった……


「ななな、なんじゃ!? お主らは!? ここは、クリアして挨拶に来る場面じゃろう! マジ、鬼畜かよ!? 菓子折りだけ置いて帰るって無いわーーっ、こわ、怖いわ、本当、お主ら!!」


そこまであんたに言われる筋合いは無い……


「レイラさん、いたんなら、サッサと出てきて下さいよ。留守かと思ったじゃ無いですか」


「お主らの目は節穴か!? ここに営業中の札が掛けてあるじゃろう。これが見えんかったのか」


試練の塔に営業中って、一体どう言う感覚なんだよ?


ヒナは、レイラに挨拶をしようと前に出るが彼女の手に遮られる。


「必要はない。娘よ、お主のことはよく知っておる」


レイラは、ぺこりと頭を下げるヒナにウムとだけ反応を返した。


「そう言えばお主らの世界とやらに帰る魔道具は持っているか?」


「ええ、そんなにかさばる大きさではないので一応持ち歩いてますが」


「ふうん、ちと興味がある。見せてはくれんか」


大魔法使いレイラにとってもこの時空を記録(?)するログは珍しいらしい。

俺は、言われるがままに魔道具を手渡した。後で思うとこれが失敗だったに違いない。


「ほう、これは……そうか、なるほどな」


魔道具を繁々と眺めるレイラ。


「何かわかったんですか?」


「ああ、そうさな、お主らこれがなんだかわかるか?」


「何って、時空の時と場所を記録するものですよね」


「それはこいつの機能のひとつに過ぎん」


レイラは、真剣な眼差しを俺に向ける。


「これは、時のグリモアじゃ」


「時のグリモア!? それってメルの母親が受け継いだんじゃ……」


「ああ、今はこのグリモアの力は、ひ孫メルに宿っておる。シュベルトは、気付いてはおらんかったかも知れんが時を戻す能力を誰かに移し時空の記録だけが出来る機能だけ残ったのがこの魔道具なのじゃ」


「それなら、誰がこのグリモアを……そうか、魔王が……」


そう言いかけた、俺は気付いてしまった。元々、このグリモアを手に入れていたのが魔王だったとすれば、メルの母が、能力を手に入れたのも納得がいく。そして魔道具となったログをシュベルトが持っていたことも全てが繋がる。


これはあれほど必死にグリモアを追い求めたシュベルトすら知らなかった真実に違いない。すべては、時のグリモアの能力を悪用する誰かに渡さぬ為に魔王とメルの母アメリアとで封印に近い形を取ったのだろう。


しかし、こんな事を知ってしまっても今更何も出来ない。全ては過去に流されてしまったのだから。


レイラは、複雑な顔をする俺とヒナに一向に構うこともなく話を続ける。相変わらずのレイラっぷりだ。


「コレの仕組みは大体理解した。多分ワシにも使えるぞ、転移魔法」


「えっ!?」


いや、驚く事では無い。世界を滅ばせるほどの力を持った大魔女だ、不可能なんてないのだろう。


だがさっきの話で俺とヒナを落ち込ませたレイラに対して少し意地悪をしたくなった。


「ハイハイ、わかりました、わかりました、そういう事にしておきましょう」


「なっ!? 全然信じとらんじゃろ、お主!! ほ、本当に出来るんじゃからな」


「わかったわ、レイラさん。あなたならきっと出来なくもないのかもしれないのかもしれない」


「それはどっちなんじゃ!!」


ヒナの煽りにレイラは、マジギレする。


「いや、大丈夫ですから」


「なんじゃ! 大丈夫って! バカにするな! よおし、見ておくがいい」


レイラは、聞いたこともないような詠唱をし始めた。


「お、おい、ヒナ、コレやばいんじゃ無いのか!?」


「レレレレ、レ、レイラさん、落ち着いて!」


ヒナの顔色も青ざめて、大魔女をからかいすぎたことにエマージェンシーを隠しきれない。


「多分、今日死ぬな」


「うわーん、諦めないでお兄ちゃん」


ヒナは、泣きながら俺に抱きついてくる。コレなら最後でも悪く無いか。


レイラの空中に描いた魔法陣は、光の柱となり俺とヒナを包んだそれがこの世界で見た最後の景色だった……


そして気がつくと俺達はあの日の海岸にいた。

格好は、向こうの世界そのままだから軽めの防具を付けた腰に剣を差したかなり危ない人だった。

帰りの職質を免れる気が全くしない。ヒナの格好はといえば、漆黒のドレスだ、萌兵のアイツから譲り受けたとの事だった。まあ有り体に言えばガチゴスロリだ……人の事は言えんがすごく痛々しい。


記憶を辿るに俺達は、ヒナの自由研究の為にこの海岸まで電車に乗ってやってきたのだ。どうやって帰る?刀は海に捨てる? いやそんなこと出来るわけねえーっ!


もう元の世界に帰れた喜びとかどこかに吹き飛んでしまったのだった。


「あっ!?」


「どうしたの? お兄ちゃん」


「ああ、そう言えばいろんな人にお別れ出来なかったな」


「ふうーっ、そだね。皆んなに何も言えなかったよね」


途端に寂しさや後悔の念が押し寄せる。もう、二度と会えない人達の顔や声が浮かぶ。


別の世界に転移する魔法なんて使えないし、使えたとしても……


「あれ? ところで魔法ってこの世界で使えるのかな?」


魔力のない俺は、ともかくヒナは、向こうでは相当な魔力を持っていた。


「試してみようか、お兄ちゃん」


ヒナの言葉に頷く俺。色々な邪な想いが頭をよぎる。

ち、ちがう、単なる興味だ。強いて言えば、そう研究、じ、自由研究の一環だと思う。


「ぶっ放すよ! お兄ちゃん」


今日は、ヒナがたくさんお兄ちゃんと呼んでくれて正直嬉しい。


「おう、ぶっ放せ! アイツらの世界に届くようにな!」


海岸めがけて撃ち込まれたヒナの魔法は、海水を凍らせ形を作り始めた。


「あれ? ヒナ、これって!?」


「そうだよ、ホサマンネンさんだよ」


精巧に形作られたホサマンネンさんの像、いったい何故そうなった。不思議そうな顔の俺にヒナが、答えをくれた。


「ぶっ壊す前提だからね!」


おい、それならせめて敵方の人にして欲しい!


どーーーーーーーーーん!!


ガラガラと崩れ去るホサマンネン像。


「また、つまらぬものを壊してしまった」


捨てゼリフ!! もうやめたげて!


「あれ? もう魔法でなくなったよ……」


その後は、幾ら挑戦してもうんともすんとも魔法の出る気配は無かった。


「マジかよ、貴重な力をこんな事に……」


ガックリと肩を落とす俺にヒナは、晴れやかな顔を見せる。


「お兄ちゃん、これで良かったんだよ。この世界に魔法なんて必要ないし、第一最後にスッキリしたしさ」


そうか、あの世界で妹は、たくさんの経験を積んで成長したんだな。あとホサマンネンさんでスッキリしてすいません。


「ああ、そうだな、ヒナの言うとおりだ」


あの世界で俺達が、得たものは魔法だけじゃ無い、知恵や精神的な強さ、そしてレベルアップで得られた身体能力…………。


身体能力!?


そうだよ、これがあった。拾って握りしめた小石が、砕ける。遥か常人を超える身体能力は、失っていなかったのだ。これなら……


「よし、ヒナ! 家まで走るぞ!」


「ええっ、マジなのお兄ちゃん?」


「ああ、ダッシュだ」


「ちょっ、待ってよ! お兄ちゃん!!」


ヒナの返事も待たずに走り出した俺。

この世界でもきっと俺にしか出来ない何かが、待っているはず。


いつか探しに行こう俺のかわいい魔王様ヒナと一緒に!


















おわり……?


あと一話ありますのでよろしくお願いします

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