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第137話 『白黒つけましょう』

ワイデールの口にあてた棒から涼やかな音色が辺りに広がっていく。

これってまさか!

俺は、前に公園でアリサがフルートのような楽器を演奏したのを思い出した。


老人は、構わずに演奏を続ける。それはまるで荒れた心を優しく包み込むかの様な穏やかで心地よい音色を紡ぎ出していく。


って! 音楽の先生かよっ!


「どうじゃ!」


どうじゃじゃねえよ!

この時間のない時に訳わかんねえよ!


「もごもご、いい音だったよ!」


俺の仲間達は、ワイデールにイイねと親指を立てる。

食べるか喋るかどっちかにしろっ!


「先生どうしてここにいる?」


アリサが尋ねるとワイデールは、我が意を得たりと口元を緩める。


「それじゃ! 実はワシがまだ幼かった頃の話じゃ、当時5歳だったワシは、周りから神童と呼ばれそれはそれはたいそう期待されておったんじゃ……」


時間ないんだけどスイッチ入っちゃったな。

どうやらワシ物語が、始まってしまったようだ。


「ええっと、それは長くなりそうですか?」


「然るべき存在になるであろうと期待されて今に至るわけじゃ」


ちょっ、途中はしょりすぎじゃね!!

話終わっちゃったじゃん!


最初の前振り要らなかったよね!


「じゃ、そろそろ俺達は、急ぎますんで……」


「待つのじゃーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっつ!!!!」


「な、な、なんですか!? 急にでかい声出したんでビクッとしましたよ! ほら、俺の仲間達だって驚いて……ないっ!?」


予想に反してメルやらヒナやらリンカやらアリサやらとにかく俺以外の全員が、平然としていた。


「お兄ちゃん、コレだよっ!」


ヒナが差し出したのは、以前、ホサマンネンさんがウザいくらいに朝起こしに来た時に耳栓がわりにはめていたコルク栓だった。


「何でこんな物持ってるんだよ?」


「うん、シュベルトの音魔法対策に皆んな持って来たんだよ」


ええっ! 俺だけ知らなかったんですけど……マジかぁー。


「待てよ……だとしたらさっきの演奏も聴いてなかったんじゃん!」


「ああ、無論だ!」


無論だじゃねえよ、リンカさん!

聴いてあげようよ、そこは!


「先生は、演奏のあと何度も同じ話をするし、数十時間は、話し続ける事も珍しくない、お兄さま」


「数十時間って、話すのも大変だし聞いてる方も倒れるだろ!!」


「実際何人か倒れて暫く寝たきりになった。今も話を聞いてくれるターゲットが見付かって逃さぬようあらゆる奥義を放ってくるはず、お兄さま」


奥義って違うだろ!

一体何の武闘派なんだよ!


「ああ、タケルちゃんは、老い先短いこのワシの思い出話ひとつも聞けない程、冷たい人間に育ったんじゃな……ほろり」


ちゃん付けって急に距離感近いよ、じじい!

奥義は、ともかくあの手この手を使って来そうで厄介だよ。ここは、折り合いを付けた方が良さそうだ。


「ああ、分かりました。手短に願います。3分で」


「わ、分かったのじゃ、では……コホン」


ワイデール先生が咳払いをすると辺りはまるで凍結したように鎮まり返った。音だけでは無く周辺の動きが全て停止している。まるで時を止めたかのように……


「こ、これは、どうして!?」


「まあ気にするでない。お前とワシの時の流れを少し変えただけじゃ」


「あ、あなたは、一体何者何ですか?」


「わはは、ただの笛吹きじゃ、じゃがシュベルトについて良く知る者でもある。どうじゃ少しは興味が湧いてきたじゃろう」


ただの笛の先生にこんな魔法が使える訳がない。こんな事が出来るのは、俺が知る限りでは……


「何のイタズラですか? レイラさん!」


ワイデールは、ビクッと肩を震わせる。

マジギレのレイラ、史上最強とされる大魔女の名だ。


「な、な、な、な、何の事じゃ? 変な事をい、言うでない」


「そうですか、シラを切ると言うならこうしましょう。あなたがその腰の袋からはみ出させている四角い盤面で勝負して俺が勝ったならあなたの正体を明かし、シュベルトの情報を教えて下さい。もしあなたが勝ったならあなたの言う事を何でも聞きましょう」


袋からはみ出ていたのはオセロ盤だった。きっと以前俺に負けたリベンジをする気満々だったんだろうな、もう正体は、聞く必要もないよ。


「はあ!? 我にオセロで勝てると思っておるのか、脆弱な人間如きが。良いだろう、その安い挑発に乗ってやろうじゃないか」


もう、話し方が、素に戻ってるし、顔がニヤケ過ぎだよ。

早速、オセロ盤を取り出しコマを準備するワイデールの手は、微かに震えている。どんだけ再戦楽しみにしてたんだよ!!


「よし、勝負じゃ!」


ーーおよそ5分後ーー



「あれっ!? おかしいのじゃ? 我の色が見えないのじゃ?」


涙を潤ませながら眼をゴシゴシ擦る、ワイデール。


既に盤面は、俺の黒いコマ一色に塗り潰されていた。今回は、角を取られない様に気を使っていたのだろうが、それ以前に全てのコマがひっくり返されては本末転倒だ。


「か、角さえ取られなければ勝てるんじゃ……勝て……るん……」


「お、惜しかったですね。マジ危なかったですよ。ギリ勝てました、ほんとギリで」


「ぎいゃあああああああああーーーーーーっ!!!!」


オセロ盤をひっくり返すワイデール。もろもろ特訓してきたのかもしれないが、洞窟のボッチでは強くなるはずもない。


ゴロゴロと寝転がってバタバタ悔しがるワイデールの姿は、とても老人とは思えない。いやそもそもレイラであっても見た目が幼女なだけで相当な年齢だ。全く大人気ない。


「ふっ、ワザとじゃ。ワザと負けてやったのじゃ」


立ち上がり服の埃を払うワイデールは、何事もなかった様に笑みを浮かべる。


「ああ、ありがとうございます」


棒読みで礼を述べる俺。


「な、な、なんじゃ。その死んだ様な眼は! そんな顔で我を見るのではない! と言うかその薄らとした笑みは、なんじゃ!」


「それより俺に、話したい事があったんじゃないですか?」


「あっ! そうじゃ、お主にワザとワザと負けたのは、シュベルトの事を伝える為じゃ。ワザと負けたのはな!」


完全に本来の目的を忘れていたらしい。そして負け惜しみが、半端ないなこの人……


「まず一つ目じゃ!」


ワイデールの姿は、光に包まれやがてレイラへと変わる。


「やっぱりレイラさんだったんですね」


「ふむ、久しぶりじゃなタケル、しかしお主にいつから気が付いておったのじゃ?」


「ああ、それならオセロ盤がはみ出しているのを見た時かな。それとその右手中指にあるオセロダコですかね」


「はわわっ、お、お主観察し過ぎじゃ。変態かっ! 変態なのか!?」


ああ……変人に変態呼ばわりされてしまった……


「ま、まあ良い、それでなければ話にならん。良いか、彼奴シュベルトは、幻術の魔法に長けておる。その身をお前の近しい者に変えるやもしれん。じゃからこの話は、我とお前だけでする必要があったのじゃ」


仲間達にも悟られぬようレイラは、空間を分離する必要があったのだ。決してオセロに負けた時の恥を見せたくない為ではないと信じたい。


「シュベルトが、仲間になりすましている可能性があるって事ですか!?」


「まだそうとは、言っておらん。ただ全てを疑って掛かるが良い。そして判断を誤るなよ」


レイラの言葉に頷く俺だったが、この時は、まだ彼女の真意を理解していなかったのだった。






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