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第110 『さあいくぞっ!』

結局、クラッカルは、転送魔法のマーキングの為という条件で魔王城へいく事を押し通した。到着した瞬間、直ちにバルセイムに戻るという約束でカヌレル国王も渋々認めざるを得なかった。


「国王よ! それはちとクラッカルが可愛そうではないかな? 国外に出る機会などあまりないのじゃから、もう少し余裕を持たせてもよいではないか」


「しかし、メジカル様……」


カヌレル国王は、大賢者メジカルの申し出に難色を示した。


短い時間とはいえ魔王城へ近づく事は、安全ではないのだ。魔王の判断次第では敵になる可能性も充分にあり得る。


「そうだ、魔王城の近くには俺の住んでいる街『カイザル』があります。あそこなら安全だしお土産なんかもありますよ」


「な、何をいってるんじゃ、タケル殿。ワシはその、お土産なぞ、どうでもよいのじゃ!! 王女が無事であればそれが何よりの土産なんじゃ!!」


大賢者メジカル様は、クラッカルの事を本当に心配しているようだ。少しいい加減な人だと思っていた事を反省しないとな……


「ああ〜っ、だったら久し振りにキューネルを食べられると思ったのになぁ」


ヒナが、俺達がよく集合場所にしていたカイザルのカフェ『パンデミック』の名物スイーツであるキューネルを思い出し残念そうな声をあげた。

前に魔王城に乗り込んだ時、手土産に持っていったお菓子でもある。


「な、なんじゃ、そのキューネルってやつは?」


「はい、キューネルは、弾力のある外側の生地とスフレ状の中身が舌の上でスッと溶けるような食感を持ったお菓子で後から遅れてやってくるフルーティな香りが、味覚と嗅覚を暴力的なまでに刺激する絶品スイーツなんですよ」


俺のざっくりとした説明だとあまり美味しさが伝わらないだろうけど……


「はっ、な、ち、ちくしょーーーーっ! けしからーーーーん! はぁはぁはぁ」


いや食いつきハンパ無いだろっ! メジカル様!

血管切れるよ!


「キュ、キュ〜ネル。死ぬ前に是非口にしたかった……。はぁぁぁ〜ん」


もはや大賢者のセリフとは思えないんだけど……


「失礼ながら大賢者殿!」


突然リンカがテーブルをバンと叩いて立ち上がった。もう嫌な予感しかしない。


「大変立派な志、感服致しました。同じスイーツ道を極めんとする者としてそのキューネルとやら私が捕獲して参ります」


捕獲って……。それとお前の極めるべきは騎士道だと思うぞ!


「な、なんと頼もしい! さすがはドラゴンスレーヤー、リンカ殿。この老体の為に骨を折ってくださるとは」


「いやいや、大賢者様のヒゲの長さには及びもつきません」


ヒゲの長さって一生追い付かないよ!!


「チョーーット待ってください! そのお役目ならミーの萌え兵にお任せください。ね、キュレリアさん」


既に眼鏡は頭の上にあったので仕方なくエアメガネをくいとあげるグラッサン。遂にミーかよ!


突然話を振られたキュレリアは、何故か俺の方をチラチラ見ている。


「う、うん、タ、タケル様がいいなら……」


先程までの毒舌は無く、アッサリと了承するキュレリア。


「断る理由は無いよ。一緒に行ってくれるなら嬉しいよ」


俺はキュレリアの問い掛けに言葉を返した。クラッカルが行く行かないは別としても強力な戦力が多いに越したことはない。


「はっ、『一緒』『嬉しい』……」


キュレリアのブツブツと呟く声。なんだか勝手な変換がなされている気がするが……



という訳で俺達は、クラッカルと共にお土産を買い……、いや、魔王城に向かって出発する事になったのだ。


移動手段はお馴染みヒナの飼っているワイバーンのガブちゃんとミハエルちゃんだ。これならひとっ飛びで魔王城に辿り着ける。同行メンバーは、ヒナを加えた俺の仲間達とクラッカル、そしてその護衛であるキュレリアだった。


「ガブリエルっ、いっけええええっ」


俺のゴーサインにガブリエルはピクリとも動かない。何故だっ、いや全員がガブリエルに乗ってるからじゃん! 正確にはグライドだけがミハエルに乗っていた。


毎回、本当にめんどくさいよ、お前ら!

もう面倒なので俺は、じゃんけんで組み分けをする提案をした。


「お兄さま、それは公正な勝負ではない。何故なら後出しでもわからぬ程の超速を持つ者がこの中にいるからだ」


アリサは、冷静にもっともな意見を述べた。というか別の話だがアリサに聞かなきゃいけない大事なことがあったような気がするのだが……


「ふっ、まあ常人が俺の速さを妬むのは仕方がない。他の方法を考えてくれ、タケル」


いや、誰一人お前とは思ってないけどなグライド! 皆は一斉にキュレリアに視線を送っていたのだ。


「ふむ、ならアミダくじならどうだ!? 」


「タケル様、それなら問題なさそうだわ」


クラッカルは、快く了承し、皆も同様にうなずいた。


サラサラとアミダくじを作った俺は、一人ずつくじを選ばせた。そして最後に残った線に自分の名前を書き込んだ。


「さあ組み合わせは……ってなんでこれ恒例行事みたいになってんだよ!!」


まあ時間が無いんでアレコレ言ってもしょうがないんだけど……

俺がアミダくじの紙を広げると一瞬でみんなが覗き込んだ。少しは落ち着けっつーの。


「ええっと、メルはガブリエルだな。ヒナもガブリエル、クラッカルはミハエルでキュレリアもミハエルだな……それから……」


「ち、ちょっと待ってくりゃはい……」


キュレリアは、慌てたのか話の語尾を噛んだ。


「どうしたんだい、キュレリア?」


「いえ、あ、なんでもありません……」


キュレリアは、不思議そうにアミダくじを見つめている。少し考え込んでいたが何か思い当たることがあったのか意を決して俺に問いかけた。


「に、にに虹の勇者様は、き、気付いていたんですか?」


キュレリアは、アミダくじを開けた瞬間、誰にもわからぬ速さで線を書き足したのだ。俺はその下にもう一本の線を引いた。キュレリアにもわからない程の速さで……


「ズルは、ダメだからな」


そう小声でささやいた俺はキュレリアの頭をポンと叩いた。


「あ、わわわわわっ……」


真っ赤な顔をしたキュレリアは、力を失ったかのように、そのままへたり込んでしまった。

えええっ、そんなに強く叩いたのか俺っ!


「ご、ごめん、そんなに強く叩いたつもりはなかったんだけど……」


涙目になり俺を上目遣いで見るキュレリア。


「ち、違うんです! キュレリアは、嬉しかったんです。ずっとずっと待っていたんです。そしてその人は遥かに期待を超えた存在として、あたしの前に現れた……」


「おいっ、その先は覚悟して喋るんだな、きくらげ!」


きくらげってこの世界にもあるのかよ!

相変わらず口が悪いなメル!


「世の中には言っていい事とそうでない事があることを知れ」


リンカも剣をスラリと抜いた。燃えてるよ剣……


「今の言葉は命取りになる。今日がお前の命日だと思いなさい」


物騒だよアリサ! 言っちゃいけない事ってこれじゃん。


「ミンチに……」


俺は慌ててクラッカルの口元を指で抑えた。危うく王女として取り返しの付かないセリフが飛び出すところだった……


「みんなっ、そんなこと言っても意味がないよ」


おおっ、さすがヒナ! みんなをいさめようと……って攻撃の魔法陣でてるじゃん!


「まてーーーーっ!」


俺は久し振りに大声をあげた。ヒナの動きは止まり魔法陣は消えた。


「待てよ、お前ら、今からどこに行くのかわかっているのか? これは遊びじゃないんだじょ」


か、噛んだよ俺っ、めっちゃいい場面だったのに。


「ふふっ、さすがはタケル様、皆の心を鎮めるためにわざと、ふふふっ」


いや、完全に誤解だけどね、クラッカルさん。


「タケルには、敵わないな、ふふふふ」


リンカが笑うと他のみんなもつられて笑う。

穏やかな空気が殺気だっていたはずの場を優しく包んだ。


ええと……


「出発しようか……な」


「「「「「「はいっ!」」」」」」


ようやく俺達は、長い(無駄な)時間を消費して魔王城へ乗り込む事になったのだ。恥ずかしさで赤くなった耳元に当たる風は少しばかり心地よかった。





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