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第106話 『お熱いのはお嫌いですか?』

魔王軍候補生のニャルロッテは、なぜかバルセイム城のメイドとしてふつーに働いていた。仕事は主に兵士のサポートなのだが……


「はい、ホサマンネン様、熱いのでふうふうしますね」


そう言ってスプーンですくったスープをふうふうと冷まそうとするニャルロッテ。この偏ったサポートは、どう考えてもおかしいだろう!


いったい何がどうなってやがる!


疑問を通り越してもはや憤りすら感じる。


「これはどういうことなんですか! ホサマンネンさん!」


「はい、これはスープで舌を火傷しない為にふうふうと冷ますサポートのようです! タケル殿」


ちげーーっ!! そんな事聞いてねえから!


だが苛立っては負けだ、なんだか俺のセンサーがそう告げている。



「いやいや、そうじゃないんですよ。 俺が聞きたいのは何故ここに敵であるニャルロッテがいやがるのかと言う事なんですよ」


なるべく上品に答えたつもりだが、いかんせん若さゆえに感情がちょっぴり溢れたかもしれない。


「はい、実は先日……」


ホサマンネンさんは、意味ありげに遠い目をした。魔王軍の情報だとか、色々な取引があったのだろうか? そういえば、任務に失敗すれば命にかかわるとか言ってたような……

だとすれば亡命か!?


「……と言う訳なんです」


そうだったのか、って何も言ってないじゃん、あんた!



結局、ホサマンネンさんの話によると俺の考えはほぼ当たっていたようでニャルロッテは、魔王軍の情報提供と交換に保身を申し出たそうなのだ。とは言え劣勢に立たされているバルセイムに寝返るのはどうにも得策とは思えない。何か魂胆があっての潜入かもしれないのだ。


「ホサマンネンさん、本当にニャルロッテは、信用できるんですか?」


「はい、クラッカル様にもお伺いを立てたのですが了承との事で。その代わりこの娘の首に『呪いの首輪』を付ける条件でとのご命令でした」


「えっ、呪いの首輪?」


「はい、もしバルセイムに仇なすような事があれば首輪は、締まり頭と胴体は切り離される事になります」


えっ! それって怖いんですけど……

クラッカルならやり兼ねないが……


「そ、それくらいは、ひ、必要だな」


「はい、しかしこのニャルロッテは、即座に条件を受け入れ何事も無いように呪いのアイテムを首に付けたのです。それにはクラッカル様も少々驚かれた様子でした」


ふむ、何がニャルロッテにそこまでの覚悟をさせたんだろう?


「それは愛だね!」


背後から聞こえた声は、メルだった。

メルは、ふうふうと冷ましたスープをホサマンネンさんに飲ませるニャルロッテの姿を指差した。


「えっ、そうなの!」


もしかしたらニャルロッテが、この城に来た本当の理由って……

いや、そんな事があるんだろうか!?


「そうだよ! だからタケルは、この熱々のおでんを食べる義務があるんだよ」


いつのまにか煮えたぎるおでんの鍋を持ったリンカとアリサもメルの側に立っていた。


おでんとかこの世界に無いはずだが、きっとアリサの入れ知恵に違いない。


「ふうふう、するから大丈夫だよ、タケル」


満面の笑みを浮かべる三人の目は、どこか狂気の色を含んでいる。


「まさかニャルロッテが……」


目線を移すとニャルロッテの冷ましたスープをあーんと口を開けて食べようとするホサマンネンさんの不快な姿が映り、目を逸らす。どうやらアレじゃなさそうだ。不快だけど!


だったら、どうして? その疑問は、すぐに解けた、というか見えた。


鍋の中身をあらためて確認した俺は、そこにピンクと水色のまだら模様のカラフルなキノコが煮込まれているのに気が付いたのだ。

毒性のあるキノコにしか見えねえーーーーっ!



「味見しやがったな……こいつら」


これはやばい! やばい! 逃げるしかねえ!


そう思った瞬間、俺の体は何か強い力で拘束された。強大な魔力による締め付けをなんと言うか、ぎゅいぎゅい感じる。


「タケル様、動くと火傷なさいますよ」


「ひっ! ク、クラッカルっ!」


思わず呼び捨てになる俺。


フワフワとした足取りでやって来たのは同じく目の色を狂気に染めたクラッカルだった。おそらくあのカラフルなキノコを食べたのだろう。


ふうふうしたキノコを全員が口にくわえ俺を見つめている。口移しといえばラブコメ展開なのかもしれないが、リア充感はゼロどころかマイナスですらある。暗殺部隊にしか見えないじゃんコレ!



短い人生だった……そう思った……



「だめーーーーっ!」


突然の叫び声と共に場の仲間達は、凍り付いた。文字通り魔法で凍らされたのだ。


「氷の魔法……!?」


俺の窮地を救ってくれたのは、ひとりの黒髪の美少女だった……と言うかヒナなんだけどね。



「うあぁぁぁぁぁぁーーーん、助かったよ、ヒナーっ!」


「もう大丈夫だよ、お兄ちゃん! さあ後は、トドメを!」


いや、それはダメだから!




しばらくしてクラッカルと仲間達は、正常な意識を取り戻した。


「い、いったいどうしたのかしら? 記憶がないのだけれど……」


俺は、怪訝な顔つきのクラッカルにさっきの状況を説明した。


「まさかビビットキノコじゃないのかしら、それ」


クラッカルが、思い出したようにつぶやいた。


図鑑を調べていたアリサは、該当のページを見つけたようで、かいつまんで説明をしてくれた。



「ビビットキノコは、熱を加える事により毒性を増し、その症状は、一時的な幻覚や理性の欠落を引き起こす事がある。そして美味しい」



美味しいのかよ!! イメージとしてはチョコミントにピンクのシミを付けた感じなんだけど。


いつ魔王軍が攻めて来てもおかしくない状況で随分と酷い目にあったものだが、キノコ自体に命に関わるような毒性が無かったのがせめてもの救いだと思う。


「クラッカル様っ、直近でこの国に魔族が入り込んだ様子はありますか?」


「そうですね。ニャルロッテを除けば他にはないみたいだけど……」



この国の外壁に描いた魔法陣は、魔族を感知するセンサーの役割も兼ねていた。そこにも反応がないとすれば魔王軍の偵察部隊も来ていないという事になるが……



早まる事はあっても遅くなる事はないと予想していたんだけど本当に予定通りに攻めてくるのだろうか、それとも何か他の理由があるのだろうか?


俺は、ビビットキノコを見つめながら嫌な予感に襲われていたのだった……


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