46.生死のはざまで姉妹対決?
「どどど、どうして芽衣が……? それに、なんで、蜘蛛……」
私は芽衣(蜘蛛ver.)を目の前に、口をパクパクさせるしかなかった。
あまりのショックに気を失ってしまいそうだ。
「ふむ……。これでハッキリしました。悠さんの足りなかった部分……それは、この蜘蛛……いえ、妹の芽衣さんの禍が連れてきていたんです!」
この神さま、動きこそ大げさだけど、こんな時でも冷静だな……。
「そ、そのへんもう少し詳しくお願いします」
「今回、悠さんの件で禍となっていたのは、妹さんの負の感情だったんですよ。状況から察するに、たぶん事故のショック、そして悲しみかと思われます」
「あ……」
ふと思い出した。
そういえば、私が車に轢かれた時、芽衣は間近でそれを見てしまっていたんだ。
そして、変わり果てた私の姿を見て泣いていた……。
「あの時の芽衣の感情が、禍に……」
「ええ。目の前で実の姉のあんな姿を見てしまえば、その時のショックは計り知れません。きっとその衝撃のぶんだけ、これだけ強大な禍になってしまったんでしょう……」
「う~ん。そのショックを与えた張本人が言うと、何だか腑に落ちないですけどね」
「……。返す言葉もございません」
粛々と土下座するククリさま。
おおぅ、神さまに土下座させちまったよ……。
ま、そこは言っても仕方ないか。
実際にはこうして事が起こっちゃってるんだしね。
「悠さんたちは姉妹ですが、強大……くく」
なんか一人で笑ってるけど、ククリさまの考察には納得がいった。
その通りだとすれば、目の前にいる蜘蛛は、芽衣の悲しみが具現化した怪物……。
ォォ……ォネェ……。
そう思ってしまうと、うめき声がなんとなく私を呼んでるように聞こえなくもないな。
困った。
負の感情だけとはいえ、妹が浄化対象だとはなんともやりづらいぞ……。
「周りの禍はあらかた浄化し終えたけど……あいつ、何もしてこないな」
セフィがいぶかしげに言う。
私がぼんやりしている間に、セフィとモルエはなんと禍を浄化し終えてしまっていた。
残るは、あの芽衣(蜘蛛ver.)だけらしい。
でも、セフィの言うように、現れてから今まで、蜘蛛は一向に動きを見せない。やはり、どこか苦しんでるようにすら見える。
「まさか……」
あっちも、私(姉)を認識してる?
だから、姉相手には襲いかかってこないんじゃ……?
「……芽衣」
そう思うと、少しじーんと来た。
あんな姿になったとしても本質は変わってないんだ。
たとえ形が蜘蛛になっても、やっぱりあれは芽衣なんだ……!
「みなさん、気をつけてくださいね! あの蜘蛛、何もしてこないように見えますが、実は禍を発生させるために力を溜めているだけです。じきに動き出しますよ……!」
「……」
どうやら、あの禍は攻撃する気満々だそうです……。
なんだよ、芽衣のやつ。
姉妹愛を感じたりしてた姉ちゃんとしては、ちょっとショックなんですけど?
「さ、来ますよ!」
ククリ様が叫ぶやいなや、芽衣(蜘蛛ver.)は前足四本を勢いよく空に突き上げた!
その指先から、無数の黒紫色の物体が吹き出す。……禍だ。
ひぃ……、凄い数だ……!
「じょ、浄化しましょう!」
モルエが鎌を大きく振るう。
すると、空から降りてきた禍が一斉に消え去った。
「モルエ、さすが……!」
流れる動きでリーチの長い鎌を操る姿はすごく格好いい……!
「くの……っ、このっ! ……ああ、外した!」
逆にセフィは、狙いを上手く定められないようだ。しかも、弓矢という武器の特徴的に、禍一つずつにしか対処できないのが辛いところ。
……ううん。見てるだけじゃダメだ。
私も頑張らないと!
バッサバッサと大麻を揺らすと、モルエほどじゃないけど一度に数体の禍が浄化されていく。
「みなさーん! いい調子! その調子ですよー!」
それぞれの得物を振るう音と、ククリさまの声援が広野に響く。
「……というか、ククリさま? 応援もありがたいんですけど、ククリさまも手伝ってくださいよ」
「すみません。わたしは、姿をこちらに映したうえに、悠さんお力を預けていますので、浄化する力まで残っていないんですよ」
マジか。
ということは……、最初っから私たちに解決させるつもりだった!?
「なので、わたしの力……悠さんに託します!!」
いや、格好いい風に言うのはいいけどもねっ?
やってることは普通に丸投げだからねっ?
……ォォ"…………、ォォオ"オ"オ"……!!
そうこするうちに、蜘蛛が動き出した。
と思ったら、元いた場所から姿を消した!
「えっ!」
……いや、消えたんじゃなく、消えると間違えるほどに素早く動いたんだ。
見かけからは想像もできないほどのスピードで、蜘蛛はモルエとセフィの方へ……。
て、まずい!
二人は禍の浄化にいっぱいで相手の接近に気づいてない!
「悠さんっ!」
「ええ、わかってます!!」
全速力で蜘蛛に向かって走る!
こんなに一生懸命走ったのは今までの人生一度もないってくらい。
…………ォォ……ネ"ェェ"エ"……!!
「……え?」
大きな気配にモルエが気づいた。
けど、ダメだ! 既に振り上げられた爪を避ける時間がない!
「芽衣!! 待ちなさーい!!」
「は、ハルカ!!」
毛むくじゃらの腕が二人に振り下ろされるその寸前で、私は身体ごとその腕にしがみついた!
よぉし! ギリセーフ……!
……ォォオオ……ッ!?
同時に視界がぐらぐら揺れる。
体当たりのようになり、蜘蛛の身体が傾いたのだ。
……が、それもつかの間。
「お? おおおっ?」
逆に押し返される。
そのまま揺すられた私は、腕からこぼれ落ちて地面にお尻を打ち付けた!
「痛てぇっ!?」
ううう……、セフィの時もそうだけど、なんで私、お尻ばっかり痛い目に合うんだろうか……。
ククリさまが向こうからぶんぶん手を振りながら近づいてくる。
「悠さーん! その禍は、負の感情以前に悠さんへの思いが強いんです! その分悠さんからの攻撃には相当な耐性がありそうです! 十分お気をつけて!」
「えええぇぇ~……」
たしかに、今も全力でしがみついてたのに、軽く振り落とされちゃった。
神さまの力を借りていても、この蜘蛛にはパワーじゃ勝てないようだ。
この蜘蛛の強さが、私への芽衣の思い。
そう思うと嬉しいけど、そのぶんだけ今の状況は全然嬉しくないな……。




