44.色々とかえしてほしい
まかみさんに事情を話して、一番奥まった席を借りる。そこで神さまから詳しい内容をきくことに。
「ククリちゃん……! か、かかか、神さま、だったんですか……っ!!」
と、まかみさんは卒倒しそうになっていた。
……神さまだって知らずに手伝ってもらってたんだね。
「ところで、ククリとは?」
「こちらではそう呼んでもらっていたんですよ。悠さんたちもぜひそうお呼びください」
「じゃあ……ククリさま? さっき、私の身体の修復が怪しいようなことを言ってましたけど……」
さっそく本題に入る。
「……それがですね。悠さんのお身体を直す途中、どうやら足りない要素があることに気がついたんです。本来なら悠さんのお身体を成すもの、です」
「それって……、怪我した時にどこかへいってしまった、てことですか?」
いや……。そんなことなら神さまだって、わざわざはざま世界まで足を運んだりしないよね。
「ええ、肉体としては問題ないんです。人のお身体というのは、器である「肉体」、それと、その人が生まれてから今まで形成してきた「内面」で構成されるのですが……、今回はその内面の方に、何かしら影響があるようなんです」
「なるほど……」
さっぱりわからん。
「えっとですねぇ。人は、様々なことを主に脳で記憶するのですが、お身体でも多少なり記憶するんですよ。手で触れたもの、肌で感じたこと、など。それも、その人を成す重要な要素なんです。もちろん、感情や感性といったものも然り。さらには、他者との結びつきなんかも、その人を成すには欠かせません」
私の心を読んで、ククリさまはよりわかりやすく説明してくれた。
「つまり、その身体を作るうちのどこかに、よくないことが起こってる、と?」
「その通りです!」
「仰ることはなんとかわかりました。……で、それで、ククリさまがこっちに直接出向くことはどう関係が?」
そこがどうしても結びつかないんだよね。
「それが、今回一番の問題なんです。……悠さん? ここ最近、こちらの世界で禍を多く見かけませんか?」
「禍、ですか? ……たしかに、何度かは遭遇しましたけど、そんなには……」
そこで、セフィが話に入り込んできた。
「禍なら、森の向こうではうじゃうじゃ湧いてたぞ! ハルカたちと出会った時には、もうほとんど浄化したあとだったけどさ」
「そうだった。セフィは禍を浄化し続けてたんだもんね」
「うん。それに、あたしが初めて森の向こう側に来た頃はそんなに多くなくて。でも、数日してから急に増えだしたんだ」
「え……、そうなの……?」
「だからかなり焦っちゃって……、もう必死に矢を放ってた」
セフィの話だと、禍が多くいるのは事実らしい。
「森の向こうですかあ……。天使さん。禍の正体は何かご存知ですか?」
「あ、うん。図書館で読んだ限りだと、たしか禍は人間や生き物の負の面、その集合体だって……」
「ええ、正解です。その禍がここ最近、こちらの世界で急増してるんですよ。……それがちょうど、悠さんが来られた頃からなんです」
「え……っ! そ、それって、どういう……」
私と禍の増殖が、関係ありってこと?
「どうやら、悠さんのお身体が損傷した際に、現世のどこからか強い負の感情が発生したようなんです。必然、禍はそのままはざま世界に流れ込む。その時に、悠さんの要素も巻き添えに連れてこられた可能性が高いんです」
「な、なんてこった……」
それって、つまり。
私が間接的に、この世界に禍を連れてきたってこと?
そう考えるとめちゃ後ろめたいんですけど……。
でも、私が車で轢かれた時は痛みなんて感じる間もなかったし……。
それでも負の感情って生まれるもんなの?
「は、ハルカ……。あなたが悪いんじゃないです。どうか気を落とさないでください」
いつになく考え込む私に、モルエが優しく寄り添ってくれる。
「モルエ……。ありがとう。私は平気だよ」
話をきいてちょっとショックだけどさ。
モルエの優しさがあるおかげで、私はなんとか冷静でいられるよ……。
「モルエさんの仰る通りです。悠さんが禍を生み出したわけではないんですよ。ただ、無関係ではない……。逆を言えば、その禍のいるところに、悠さんのお身体を戻すための糸口があると、わたしは踏んでるんです!」
そういうことか……。
なるほど、話が見えてきた。
でも、てことは……、つまり……。
「てことで、わたしはこれから禍の調査に向かう予定なんです。もちろん、悠さんもご一緒に!」
「やっぱりそうなるのかぁぁ~……!!」
私は完全に膝から崩れ落ちた。
……いや、元々座ってるんだけどさ。
精神的にって意味で。
いやぁ、でも。
そんなことだろうと思ったんだよねぇ。
しかも、今回はなまじ私が関係してるだけに退路を完全に断たれた状態だ……。
嫌なことどころか、禍ってことで危険なのは確実だし……。
「そ、そういうことなら、ボクも行きます! ハルカだけを危険な目に合わせるのは嫌です!」
「あたしもだ! 浄化する相手がいるってことは、あたしの出番だからな!」
ああ、モルエもセフィもやる気満々だ……。
これは、「じゃ、私は留守番担当で!」とか冗談でも言える雰囲気じゃない。
くぅぅ……っ。
ほんと、私の平穏なスロー自堕落ライフを返してっ!!
それか早く私を現世に帰してっ!!
「では、猶予はほとんどありません。さっそく森の向こうへ参りましょう!」
そうククリさまが叫ぶと同時に。
……私たちは、広い大地の上に立っていた。
「…………えっ!」
外にいるっ!?
どこだここ!
あ。
周りを見渡すと、いつぞや見た瓦礫の山があった。
あれは……泣沢女ちゃんの実家、井戸の跡だ。
「すみません。ほんとに急ぎだったので、神ワープしました」
「なんと、ワープ!」
神さまって、ワープまでできるのか!
というか、ワープにも神とか普通とかの区別なんてあるのか……。
いったいどういう違いなんだろう。
「悠さん、大麻はお持ちですか?」
「おおぬ……あ、ああ。ありますあります」
よく神職さんがお祓いなどで使う、木の棒に切った和紙をつけた道具だ。
無限かばんは常に持ち歩いてるからね。
その中にちゃんと入れてある。
それをさっそく取り出す。
「これですね?」
「ええ、それで悠さんも浄化を行えます。ではさっそく、練習も含めてやってみましょうか」
「え? 何を?」
「大麻とくれば、お祓い。今回は浄化です! ほら、悠さん! 来ましたよ!」
ククリさまが指さした方からは、黒色の禍々しい、綿毛のような物体がこちらに向かって飛んできていた。
「禍です! さあ、頑張って悠さん!」
「ええええっ!?」
いきなり実践ですか!




