43.神さまが緊急連絡にきた
「お団子になりますー」
「ありがとう。……おや?」
着物幼女が出してくれたお皿には、お団子。
三つ連なって串に刺さったスタンダードな一品だ。
けど……。
「このお餅、緑色をしてますね」
「なんだこの色、草でも混じってるのか?」
セフィとモルエも、そのお団子を見て不思議そうにしている。
「これって……」
「はい。天使さんがおっしゃる通り、こちらはよもぎを使ったお団子なんですよ」
幼女が慣れた口調で答えてくれる。
もしかすると、この子も見た目以上に年齢が高いのかもしれない。
元神さまだもんね。
「へえ、よもぎの色だったんだ」
まさかこの世界でよもぎ団子を食べられるとは。
「そういえば、悠さんにはお伝えしてませんでしたっけ。この世界には、野の元神さまも数名いらっしゃるので、お野菜なども頑張れば調達できるんですよ」
「そうだったんですね。それは良い情報を聞いたな」
「またお時間ある時にでも散策なさってください。はざま世界はまだまだ広いですから」
「そうしてみます」
さっそくよもぎ団子を一口。
おおう、うまい。
よもぎ特有の香りが鼻から抜け、それからすぐにまったりしたお団子の食感が広がる。
「うまいな~。こんなのは宮殿でも食べたことない」
「よもぎという植物は、こんなに風味豊かなんですねぇ」
セフィとモルエもそれぞれ感嘆の声をあげていた。
「これは、ハルカの世界では多くあるものなんですか?」
「うん。このとおり香りがいいからさ、よく和菓子とかに使われるんだ」
「天使さんや死神さんなら、また日本に来られた際に探してみるといいですよ。社会勉強にもなりますよね」
「そうですね。ぜひそうさせてもらいます」
そう言って微笑み合うモルエと幼女ちゃんだったけど……、……あれ?
なんだか変だぞ。
このよもぎ、じゃなくて、もっと違うところに違和感を覚えた。
「森の向こうや川の向こうの世界も広いですよ。お取り寄せできない果物などもありますし」
「果物! それはぜひ行ってみたいもんだ!」
「天使さんにとっては果物は主食ですもんね。ぜひぜひ行ってみてください」
まただ。
この違和感はなんだろう。
幼女と二人の会話をもう少し注意して聞いてみることにする。
「もう結構な時間こちらにいますけど、川の向こう側へ渡るというのは頭にありませんでした」
「死神さんや悠さんのように、お魚を釣り上げるほどの腕があれば、果物や野菜はもっと簡単に手に入りますよ」
「へ~。それは楽しみが増えました。ですってハルカ。近く一度行ってみては……」
「て、あなたッ!!!!」
「わああっ!」
勢いよく立ち上がったせいか、モルエは驚いてひっくり返りそうになっていた。
セフィも、何事かと目を見開いてこっちを見ている。
ごめん二人とも……。
でも……。
どうりで、私の名前とか、モルエやセフィの素性を見抜いたりできてたわけだ。
「どうしてあなたがここにいるんですか! ……交通安全の神さま!!」
私は、目の前でお盆を抱える幼女に叫んだ。
「あ、さすがに気づかれましたか? どうも悠さん、お久しぶりです」
甘味処『はいいろ』のお手伝いさん改め、交通安全の神さま。
私がこの世界で暮らすようになった原因といえる神さまだ。
そうか、だから違和感があったのか……。
お目にかかったのは一度だけ。それももうだいぶ前。
顔を思い出すまでラグがあったのも、ほんとに久しぶりだったからだもんね、仕方ないね。
……、仕方ないよね?
「お久しぶりです……あ、いやいや! 神さま、どうしてあなたがこの世界に?」
まさか……何か不祥事で神さまを降ろされて、元神さまになった、とか?
「ち、違いますよー。悠さんを轢いて以来は大人しくしてます~」
どうやら、心を読めるのは相変わらずらしい。
……あ、そうか。
「私の身体の修復、終わったんですね? だから直接迎えに来てくれたってことですか?」
それはそれは嬉しいこと……なんだけど、こんな突然にこの時が訪れるとは。
こっちの世界にもずいぶん馴染んてきていただけに、どこか寂しさのような気持ちも……。
「それも違います。それどころか、現状だとちゃんと元に戻るのかもすら怪しい状況です」
「そ、そうですか。それは残念……って、ぅおい!」
残念どころかさらなる不安材料をばら撒かれたぞ!
「今回こうしてこちらに来たのは、どうも緊急事態が起きているようでして」
「緊急事態、ですかぁ」
……これはもう、嫌な予感どころか確実に嫌なことが起こりそうだ。




