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41.集落へ帰ろう


 とりあえず、彼女の気持ちをちゃんと聞かないことには始まらない。


「今回の件で……セフィは今どう思ってるの? よかったらあなたの気持ちを聞かせてほしいな」


 しばらく黙りこくったあと、


「そ、その……、元神さまには、ひどいことをしたって……思ってる」


「うん。それで? どうしたい?」


「できるなら……、あの人に謝りたい。……謝って済むようなことじゃないと、思うけど……」


「……うん、よくわかったよ」


 自分の罪を実感してきたのか、最後の方はちょっと涙ぐんでたけど……よく言えたね。


 変に自分の内に閉じ込めておくより、言葉にしてしまう方が楽になることもある。


「ふぅ。ハルカはほんと、お人好しですね」


 モルエには半ば呆れられたようだ。


「いいじゃん。結局のところ、この件では心から悪いヤツってのはいなかったってことだし」


 てことで、次の行動は決まった。


「じゃ、さっそく謝りに行こう。私たち、その人の居場所も知ってるから。案内するよ」


 さっそく立ち上がるけど、セフィはまだ座り込んだままだった。

 見ると、まだ何か言いたげな表情だ。


「あれ? どしたの?」


「あの……。あ、あんたたちにしたことも……わ、悪かった……って」


 なるほど。

 意外と根は素直な子なんだな。


「うーん。お尻に矢を刺された時は死ぬほど痛かったけど、仕返しもしたしね。私としてはもうチャラだよ。謝るなら、あとはこの二人に謝ってよ」


 モルエと泣沢女ちゃんに目配せする。


「自分はとくに被害を被ってないので、謝られても困るのですよ」


 泣沢女ちゃんはほんとに困ったように手を振って、ついでに首を横に振ったので涙も飛んだ。


「ごめんなさいという言葉を土下座とともに要求します」


「ちょ! モルエそれ鬼畜すぎぃ!」


「なんだかわからないけど、お前にはどうしても謝りたくないなぁ……」


「どうしてですか。あれだけ好き放題ボクに矢を放っておいて。ボクが鎌で防がなければ、ここにいるみなタダじゃ済みませんでしたよ? ……なので土下座を」


「いやいや! 土下座はしないぞ! 謝るのは、謝るが……ご、ごめんなさい。……そ、それで終わりだ!」


「却下します! さあ、土下座です! 土下座するんです!」


 ……モルエって、そんなに土下座を強要するようなキャラだったっけ……?


「な、なんなんだお前は! ずっと思ってたが、その態度といい鎌といい……お前、死神だよなっ? 死神なんぞに誰が謝るか!」


「な、なんて無礼な天使ですか! ……いえ、天使はもともと無礼千万な種族でしたね!」


「やかまし! どこでもどでかい鎌を振り回す死神よりはマシだっ!」


 ……。

 これはもしかして……収拾つかないパターンか?



 この場をなんとか宥めて(主にモルエを)、セフィを含めた私たちは集落へ引き返すことになった。


「……あのう。その前に、自分の実家へ寄っていただけるですか?」


「ごめん……。泣沢女ちゃんはそれが主目的だったのにね」


 なんか色々とあって頭がこんがらがってるよ。


「歩いてすぐそこなんで、すぐ荷物取ってくるです」


 泣沢女ちゃんの言うように、井戸跡はすぐそこにあった。

 というか、見た目は瓦礫の山そのものだった。


「さて、たしかこのあたりに置いてあったはず……」


 泣沢女ちゃんは慣れた感じで瓦礫の隙間に潜っていくけど。

 ……こんな、ものの見事に破壊されてるとは。


「改めて、禍ってひどいね……」


「この周辺の禍はあらかた退治したんだ。つい前まではこのへんは禍でうじゃうじゃしてた」


 それを一人でやってたのか……。

 そういう経緯を思うと、セフィのしていたことはすごいことなんだなって思う。


「頑張ってたんだね、セフィ」


「へへ。……あ。て、天使として当たり前のことをしただけだ……」


「それで見境なくボクたちも襲ってきたわけですか。野蛮ですね」


「いちいち嫌味なやつだな死神!」


「ま、まあまあ落ち着いて。モルエも、その件はさっき終わったところでしょ?」


 セフィと絡むと、モルエはちょっと凶暴化するよな……。


「すみません……。この天使といるとどうも気が立ってしまって」


「まあ、見てる側としてはちょっと新鮮ではあるけどね」


 私も、妹の芽衣に対してはキィィってなりやすいし……。


 悪さでもしたらすぐに「がおー」とか言うしね。


 ……その理屈でいくと、モルエとセフィはけっこういいコンビなのかも?


「お待たせしましたなのです。これで荷物は最後なのです」


 瓦礫の山から小石が転がり落ちてきて、そこからにょこっと泣沢女ちゃんが這い出てきた。


「おかえり。……あれ、荷物って、それ?」


 泣沢女ちゃんが手に持っていたのは、先がいくつかに分かれた不思議な形の枝、それ一本。


「あい。これはお友だちの水神の大事なものなのですよ」


「そうなんだね」


 その神さまとの思い出の品、って感じなのかもね。


「じゃ、みんな用事も済んだことだし、集落へ帰ろう!」


「はい!」


「あいあいさーなのです!」


「お、おぉー……」



 ◇



 そうして再び森を抜けて、石室近くの草原まで戻ってきた。


 行きの迷子トラブルが相当悔しかったのか、帰りの泣沢女ちゃんの森ガイドは完璧そのものだった。


 途中で変なおっちゃんも出てこなかったし、何の問題もなく集落前まで帰ってこれた。


「あっ、おかえりなさい! みなさん!」


「まかみさんだ」


 道祖神のすぐ側で、まかみさんが出迎えてくれた。


「ただいまです。まかみさん、歩いて平気なんですか?」


「ええ。泣沢女さまの涙のおかげもあって、傷もだいぶマシになりましたので!」


 それはよかった。


「……おや? ところで、そちらさまは?」


 いつのまにか私の背後に身を潜めていたセフィを見て、まかみさんは不思議そうに尋ねてきた。


 そうか。

 まかみさんは矢を受けはしたけど、セフィの姿は見てないのか。


「ほら、セフィ? 隠れてないで。この人に言いたいことあるんでしょ?」


「う、うん……」


 おずおずとまかみさんの前まで出てきて、


「あ、あの……。あたし、セフィっていいます」


「……。はい。はじめまして~。わたくしは大口真神……まかみ、とお呼びくださいね~」


 初対面、そして突然の出会いなのに、まかみさんは温かく微笑む。

 ……これはむしろ言い出しづらいだろうな。


 でも、ここがセフィの頑張りどころだ。


「もしかして、集落へ入居をご希望ですか?」


 何その不動産屋みたいなセリフ……。


「あ、いえ……。実は、あたし……あの、あなたに、矢を」


「矢?」


「こ、このあいだ……あなたに矢を放ったのは、あたしなんです……!」


 最初は尻込みしてたセフィだったけど、意を決したのか、勢いよく罪を告白しはじめた。


「あなたのことを禍だと勘違いして、弓矢で……。ひどい怪我をさせてしまって、ほんっとうに……ごめんなさい……っ!」


 膝にぶつからんばかりに深々と頭を下げる。


 それに対しては、さすがのまかみさんもしばらくポカンと口を開けるばかりだ。


 私とモルエが間に入って、簡単にこれまでの事情を説明する。


 その間、セフィは頭を下げたまま固まっていた。

 まるで裁きを待つ罪人のような気持ちなんだろうな。


 話を聞いたまかみさんは、ようやく理解した様子で頷き、


「そうだったんですね~。……セフィさん?」


「は、はい……」


「矢はたしかに痛かったですけど、お話を聞けば今回は事故ってことですし……。わたくしは、あなたさまに何も怒っていませんよ?」


「え……?」


「むしろ、禍を浄化してまわってくださっていたなんて、感激です! なので、改めて言わせてください。……はじめまして、セフィさん! これからどうぞよろしくお願いしますね!」


「あ……」


 その後。


 泣き出したセフィをなだめるのは大変だったけど、これで矢まかみさん事件は終結した。


 セフィ自身、勘違い癖はあれど根っからの悪じゃなかったし、何と言ってもまかみさんがすごく大らかな人でよかった。


 まさに神さま級だね。


 幸い傷も完治しかけてるらしいし、また近々おいしいお茶菓子をいただきにいこうかな。


 その時は、モルエと、それとセフィとも一緒に行けたらいいな。


 ……。



 ◇



 ……。


「ところで、ハルカさん? 獲物の方は無事ゲットできましたか?」


「え?」


 獲物、とな?


「ほら、森も抜けられたことですし。きっと、すごく大きな動物を捕まえになられてるだろうな~って。もしくは、日を跨がれてたので、それはそれは大量にゲットされてるんだろうな~って、集落のみなさんとワクワクしてお待ちしていたんですよ~」


「…………」


 ……。


 あ……。





次回から新しい展開に入っていきます!


そして、今年はこれで最後の投稿……2018年も私の作品をお読みくださり、感想や評価も頂きありがとうございました!


また来年もハルカたちとまったりやっていきますので、どうぞよろしくお願いいたします( ・ㅂ・)ノ

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