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37.森を抜ける


「さあ、願いを。どんな願いでも一つだけ聞いてやろう」


 ふむ。願いか。


「現世に戻して!」……は、さすがに無理だろうか。


 今はまかみさんのお使いの真っ只中だし、途中で投げ出すわけにはいかないし。

 てか、それ以前にこのおっちゃん、怪しいし……。


 でも、どこか物欲しそうにずっと見てくるんだよね……。仕方ない、何か願いを言ってみようか。


「……じゃあ、この森を抜けたいんです。できれば山のある方へ」


 すると、おっちゃんは納得したような表情でうんうん頷いた。


「ふむふむ。森をな」


「はい」


 ……。


 …………。


 それっきり、黙りこくるおっちゃん。


「えと、山麓の井戸への道を教えてほしいのです」


 続けて、泣沢女ちゃんが願いを言った。


 ぶっちゃけ、願いというか道を尋ねてるだけなんだけど、それが現状で一番の願いだもんね。仕方ないね。


「ふむ。井戸な」


 ……。


 …………。


 再び訪れる沈黙。

 木々の擦れる音が耳に心地よい。


 おっちゃんは目を閉じたまま、まるで森と同化するかのように動かない。


「……。これは、もしかして」


「あんまり面白くない感じがするんだけど……どしたの、モルエ?」


 少しアイコンタクトしたあと、今度はモルエが一歩おっちゃんの方へ歩み出た。


「あの。ボクは、この世界を征服したいのですが」


「な、なんだってーーっ!!」


 ちょ! いきなり何言い出すのモルエちゃん!?


 大人しいナリして実はそんな願望持ってたの!?

 お姉ちゃん、そんなの……ショックだわ!!


 ……と、思ったけど、モルエはいたって真面目な表情だった。


 本気で世界征服を企んでる顔…………じゃなく、何かを見定めるかのような。


「ふむ、世界征服をな」


 ……。


 …………。


 みたび、静寂。


「あら~?」


 遠くから、あまてらすさんの呑気な声が聞こえてきた。


「やっぱり、ですね……」


「その様子だと、何かわかったようだね?」


 正直、想像はつくけどさ。


「このおじさんですが……、ボクたちの願いを一つ聞いてくれる「だけ」なんですよ」


「な、なんだってーー」


「なんだってーー……なのですよ」


 あまりのモルエの名推理に、私と泣沢女ちゃんはつい棒読みになってしまった。


 なんてこった……。

 抗議の意も込めて、訝しげな目で改めておっちゃんを見ると、


「…………嘘は言ってないよ?」


 そう言い残し、そそくさと走り去っていってしまった。


 走っていくのかよ。

 さっきは今にも森に消えそうな雰囲気だったくせに。


「そういえば、さっきも「願いを叶える」とは一言も言ってなかったですね」


「たしかにそうだけど、すんげえ騙された気分だよ……」


 実際騙されたんだけどさ。

 ほんと、とんだ茶番だよ……。



 なんとか気を取り直して再び森を進む。


 と、数分くらいで視界が明るくなってきて、そのまま出口にたどり着いてしまった。


「……なんとあっけない」


 さっきまでは、永遠に森を彷徨うんじゃないかって思ってたほどなのに。


 もしかして、さっきの謎のおっちゃんが本当に願いを聞き入れてくれた……


 ……なんてことはないな、うん。


 物事が解決する時って、結構こんなもんなんだよ、うんうん。


「ちょうど、目指してた方角なのですよ」


「え、ほんと?」


 地図を見ながら周りの地形を照らし合わせると、本当にそうらしい。


 私たちのいる石室周辺と同様に、広い草原。

 なんだけど、全体的に斜面になっていて、その先に大きな山々が見える。


「若干散らかってるのは、白蛇ちゃんの暴れた時の名残なのです」


 ところどころ砕けたような岩が転がってるのはそのせいなのか……。


「まあ、ちゃんと目的地に着いてよかったよ。ここから、泣沢女ちゃんは井戸跡に向かうんだよね?」


「そのつもりなのです。ハルカさんとモルエさんは、山とは逆方向なのですね」


「地図の示す通りだと、そのようですね。あちらに動物がいるんでしょうか」


「かもしれないね。じゃあ、ここでひとまず別れようか。泣沢女ちゃんも用事終わったら、またこのへんで待ち合わせして帰ろうか?」


「なのですね。では、また後ほどなのです」


 てことで、ひとまず三人パーティは解散。

 それぞれに目的地へ足を進める。


 ……まさに、そう思ったところで。



 ヒュンッ――


 目の前を何かが通り過ぎていった。


 同時に、私の横に立っている木が「トンッ」と小気味よい音を鳴らし、空から木の葉がちらちらと舞い降りてくる。


「は、ハルカ! あれ!」


「あっ……!」


 モルエが叫びながら指差す方を見ると、その大きな木のど真ん中には、一本の矢が突き刺さっていた。


「てことは……。今目の前を通っていったのって、矢だったのか……」


 そう思ったとたん、嫌な汗が流れ出てくる。


 かなり危なかったんじゃないか……。


「お前たち……まだ生き残ってたのか」


 と、矢の刺さった木とちょうど反対の方向から声がする。


 振り返ると、少し小高い丘になったそのてっぺんに、誰かが立っていた。





またまた新キャラが登場します!

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