31.あんこ餅をつくろう!
さっそく、あんこ餅づくりの開始だ。
まずはなんといっても、お餅をつくらなければ話にならない。
「たしか、こちらでも精米されたお米はありましたよね? もち米もありますかね?」
「ええ、あるはずですよ~。まずは五穀豊穣の元神さまに分けてもらいに行きましょうか」
近くのカカシさんを訪ねて、もち米担当のカカシさんの元へ案内してもらう。
カカシさんの中でも、米の種類によって得手不得手があるらしい。
「おお。あんなうめぇもんが自分の米でつくれんなら、なんぼでも持ってってくんろー」
と快諾してもらい、もち米を確保。すでに精米済みだ!
どうやら、さっきの試食の場にもいたカカシさんらしい。早くもお餅の魅力が集落に浸透してくれたようだ。
「このお米はどうなさるんですか?」
「まずは、一日ほど水に浸けておくんです」
もち米をざるに入れ、それをそのまま水を貯めた器に浸す。
これでオッケー。あとは細かな準備をしながら明日を待とう。
神社では、催し物や行事などで餅をつくる時があるらしく、それ用のざるや臼、杵などは一通り揃っているようだ。
「明日が待ち遠しいですね~」
まかみさんは、旅行前日の子どものようにワクワクした様子だ。
「あ、それと、のちのちつくったお餅とかを保管するような場所ってありますか?」
「はい。地下の食料庫はどのお家にもありますので、わたくしの家で保管できますよ!」
見た目の長閑さからは想像しにくいけど、この集落はけっこう発展している。
建築の元神さまに、金属加工の元神さまであるイシコリばあさん。住まいや設備においては、このお二方がいればチョチョイのチョイなのだそうだ。
「なら、つくったあとのことは安心ですね。じゃあ、今日は一旦帰りますね」
「はい! おもち米の管理はお任せあれです!」
まかみさんに敬礼で見送ってもらい、私とモルエは一旦石室へ戻……
……る前に、少々寄り道をする。
「あれ? ハルカ? 帰らないんですか?」
「うん。その前に、明日の準備をしておこうかと思ってね」
お取寄せリストを見つつ、一つずつ必要な調理器具を取り寄せる。
もち米を蒸す時に使う、布巾やせいろ。
出したそれらを無限かばんにしまう。
そして、蒸したあとにつくための道具は……あえて出さないでおく。
それが、私がまだ集落に残る理由だ。
今回の裏テーマ……『集落で手に入るものは集落で』だ。
臼は、石や金属加工の元神さまであるイシコリばあさんに。
杵は、形だけ伝えて建築の元神さまにつくってもらえるよう、頼んでみようと思ったのだ。
お二方に快く引き受けてもらい、難なく道具が揃う。
もっとこう、せわしく動いて製作するのかと思いきや、一言唸るだけでパッと物が出てきた。ここはお取寄せに通じるものがあるな……。
ともあれ、これで準備は整った。
――翌日。
無限かばんに必要な道具を入れて、私たちは再びまかみさんの家前にやってきた。
「……昨晩は一睡もできませんでした」
まかみさんは、目の下に大きなクマをつくりながら出迎えてくれた。
「いやいや、楽しみにしすぎでしょ……」
どんだけだよ。
まあ、それだけ期待してくれてるのは素直に嬉しいけどもね。
「じゃあ、さっそくお餅づくりを始めましょうか。言っとくけど、けっこうあっさりできるから拍子抜けかもしれませんよ?」
「結果オーライなんでオールオッケイです!」
睡眠不足からハイになってるのか、やたら清々しい返事だった。
よし、じゃあパパっとやっちゃおう。
無限かばんからせいろを出して、その底に先に石室で蒸しておいた布を広げる。
「水切りはこんな具合でいいですか?」
「うん。上出来だよモルエ。そのまませいろに入れてくれる?」
モルエは、水切りを済ませたもち米を丁寧にせいろの中に流した。
続けて、もち米を包むようにして布巾を畳み、その上にフタをする。
さて……ここで、ゲスト、もといお手伝いさんに登場してもらおう。
「じゃあ、お願いします」
「うむ。お湯を沸かし続ければいいんじゃな?」
別に用意しておいた、水を張った釜。
その水を沸かすのは何を隠そう、集落の長であり火熾し担当である、ヒノ長老その人だ。
「頑張ってください長老! 長老の湯沸かし加減に全てがかかってるんですからね!」
「……そう言われると、ちとプレッシャーじゃのう」
「いやいや、全てはかかってないですからね!?」
長老も意外と弱気だね!?
「そんな気負わず、軽く沸かしちゃってください」
そして、あっという間に釜の水が沸いた。
その釜の上に、先程用意しておいたもち米入りのせいろを乗せ、そのまま強火ほどの火力で蒸す。
時間は30~40分ほど。それは私が持ってきた時計で計る。
その待ち時間の間に、もう一つを始めるとするか。
「モルエ、次は小豆を洗うのを手伝ってくれる? まかみさんもお願いします」
「わかりました」
「ガッテン承知です!」
三人揃って小豆を洗う。もちろん、あんこをつくるためだ。
小豆洗いもそれほど時間がかかることなく終わり、次はアク抜き。
ここで火を使うんだけど、あいにく長老はもち米蒸しに手いっぱい……いや、首いっぱい?
なので、以前長老から頂いた瓶入りの炎を使うことにする。
長時間の加熱は無理があっても、鍋の湯を沸騰させるくらいなら問題ない。
沸騰したお湯に洗った小豆を入れ、これも数十分放置。
これが終わる頃に、ちょうどもち米も蒸し上がるだろう。




