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22.ゆるキャラだった


 少し落ち着きを取り戻した頭で、改めて大蛇の眺める。


「さて、この蛇……どうしようか」


 このまま放置したら、また誰かに襲いかかりそうだし。

 かといって、殺しちゃうのもなんだか忍びない。


 あとは……食う? 蛇は栄養価が高いっていうけど……。


 じっと蛇を見てみる。

 ……ううん、黒くて蛇だけにちょっとヌルヌルしてそうで、食べる勇気が出ないなぁ。

 ウナギだとでも思い込んでみる? そういう問題じゃないか。


「ハルカ……。少し思ったんですが、この蛇が、いわゆる禍というやつなのではないでしょうか」


「え?」


 たしかに、いきなり襲いかかってきたし見た目も禍々しいけども。


「銀髪の姉さんの言うとおりです。禍化したのです」


 泣沢女ちゃんが言った。ほんとに禍だったらしい。


「でも、セオリちゃんのペットの白蛇ちゃんなのです」


「ちょ、ちょっと待って。そこがわからないの。この蛇、どう見ても黒いよね?」


「イメチェンしたのですよ」


 さらにわけわからんくなった。


「間違いなく、白蛇ちゃんは禍化しちまったのですよ。普通なら、さっきのお姉さんの攻撃で絶命しても不思議じゃねーですけど、禍化した動物はどうやっても死ぬことはないのです」


「まあ、あの蛇、今は気を失ってるだけのようだね……」


「それに、自分も元神の端くれなので感覚でわかるのです。白蛇ちゃんは禍に憑かれちまったって」


「禍に憑かれるって……?」


 そもそも禍って取り憑くものなの?

 禍について知ったらますます謎が深まった。

 いかんぞ、これはどツボにはまって煮詰まっていくパターンだ。


「とりあえず、あの蛇はどうすればいいのかな」


 こういう時は、現状の打破に徹するのが一番だ。他は落ち着いた時にでも整理する。

 これが二十一年で私が得た、なるべく一日トラブルなく過ごすための秘訣だ。


「あのですね。銀髪の姉さん……モルエさんでしたか」


「ぼ、ボクですか?」


「あい。モルエさんのその鎌って、浄化する力がありそうですよね?」


「はい……。死神なので」


「だったら話が早えーのです。その鎌で白蛇ちゃんに憑いた禍を浄化してやってくださいです」


 浄化。


 モルエが毎日夕方、ロストに対して行うあれだ。

 迷える魂を無事に正しい流れに戻してあげる行為。


「禍って、浄化できるもんなの?」


「ええ。禍は迷える魂とおんなじ、どこかの世界から流れてくるものでして。なので、禍も魂とおんなじで浄化できる……と思うのです」


「今、最後ちょっと自信なさげになったよね……」


「すみません……。実際に見たことはねーので。でも、自分も一応再生を司ってるので、知識はあるのですよ」


 なるほどね。

 どのみち、それができれば一気に解決だ。


「てことだけど……モルエ、頼める?」


「ええ。さっきはハルカが頑張ってくれたので、次はボクが頑張りますよ……!」


「気持ちは嬉しいけど、そんなに気負わなくていいんだよ?」


 モルエにはもうちょっと肩の力を抜いてほしいな。


「では、いきますね……」


「完全に気絶してるけど、十分気をつけてね」


 うなづいたモルエが倒れる蛇に近づき、恐る恐る鎌を持ち上げる。


「えいっ!」


 そして振り下ろすと、蛇の身体がぱっくり裂けてグロテスクな状況に……


 ……なんてことにはならず、なんと蛇から淡い光が溢れ出してきた。

 赤黒く光る無数のそれは、ゆらゆらと上空に昇っては消えていく。


 やがて全部の光が収まった時には、そこに蛇の姿はなかった。


「……あれ?」


 正確には、「黒い大蛇の姿」がなかった。

 その同じ場所には、小さな白い蛇が目を回して丸まっていた。


 ――きゅるるー……。


「白蛇ちゃん!」


 弱った声を出す蛇のところへ泣沢女ちゃんが駆け寄っていく。


「ほんとに白蛇だったんだ……」


「ということは、無事に浄化できたようですね」


 ホッとしたようにモルエは胸をなでおろす。

 よく頑張ったね、モルエ。

 そんな気持ちで肩を叩くと、今度こそ力を抜いたように微笑んだ。


「それにしても……あの白蛇」


 泣沢女ちゃんに抱き起こされた蛇。

 小さい泣沢女ちゃんと比べてもかなりサイズが小さい。

 小型犬よりも小さいぞ、あれ。


 さらには、


「元は、あんなに可愛かったんですね」


 モルエの言うように、その白蛇はとても可愛らしかった。

 目は今でこそバッテンだけど、白くてまんまるで、まるでどこぞのご当地ゆるキャラにでもいそうな雰囲気を醸し出している。


「ありゃあほんとに豹変だね……」


 さっきの怪物とはまるで別物だ。


「お二人さん、この度はどうもありがとーございましたです」


 蛇をその頭に乗せて、泣沢女ちゃんは軽くお辞儀をする。


「いやぁ、なんかごめんね? 蛇ちゃんあんな風に殴っちゃって」


「いえいえ。ああしないとこちらが危なかったのですから。でも、一時はどうなるかと思ったですけど、白蛇ちゃんも元に戻ってよかったのです」


 どうやらこれで泣沢女ちゃんの問題は解決したようだ。

 相変わらず滝涙を流してるけど。


「あ、でも。住んでるところ壊されたって言ってなかったっけ?」


「……今の騒動ですっかり忘れてましたです」


 常に泣いてるから表情は分かりづらいけど、今は明らかに困った感じだ。


「よかったら、とりあえず私たちがいるところに来る? 色々話も聞きたいしさ」





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