13.元神さまの集落にきた
「まずは、そうですね。一応、長老に挨拶に行きましょうか」
そう言って、まかみさんが視線を遠くにやった。
THE・田舎って感じのこぢんまりとまとまった集落だけど、その一番奥まった場所。
一軒だけ遠く離れて、厳かな建物があった。石造りなのが余計に貫禄があるように見える。
なんというか……ボス感がある。
「あそこが長老の家です。……すみません、遠いですよねぇ。でも、仕方ないんです~」
「何か理由があるんですね……」
すんごい怖い人だとか……?
いや、そもそも人じゃないのか。
「あの方、熱いんですよ。だから、集落のものも滅多にあの家には近づきません」
怖いとか畏れ多いとかならわかるけど、熱い長老って新しいな。
熱血系長老か。厳つそうだ。
案内される道すがら、集落の景色を眺める。
優しい風が吹いて、穀物だろうか、畑の作物がそよそよと揺れている。
「カカシもいっぱい立ってますね」
モルエが畑を見ながらつぶやく。
たしかに、一軒家ほどのスペースの中に、カカシがひぃ、ふぅ、みぃ……。
「……あれ、カカシ多すぎじゃない?」
軽く十を越えた。
また別の畑だと、作物よりもカカシの方が多いくらいだ。
「ああ、あの方たちは五穀豊穣の元神さまたちですよー。立っているだけで様々な作物を創ってくださるんです」
「えっ! あれも神さまなのっ?」
……いけね。つい、あれ呼ばわりしちゃったよ。
しかし、色んな作物を創るって……便利だな。
「でも、なんであんな……カカシに?」
「現世だと、ほら、五穀豊穣の神さまってたくさんおられたんですよ。それこそ無数に。なので、存在感を失った神さまから順にこちらへ来られて……なぜかまとめてあの姿になったそうですよー。本人たちが仰ってました」
し、仕組みがわからねえ……。
というか、喋るんだ……カカシさんたちって。
「あれ? ところで、話は変わるんですけど……神さまってどう呼べばいいんですか? 人間だと、『一人、二人……』っていうじゃないですか」
「数え方ですね。一般的には、神さまは『一柱、二柱……』と言いますよね」
さすがモルエ。物知りだ。
「ああ、別に好きなように言っていただけていいですよー。『人』でも『匹』でも」
いや、『匹』はさすがに畏れ多いけど……。
「なら、ぜひ『~人』と呼んでください。わたくしたち、人間の生活に憧れるものの集まりですから。そう呼んでもらえるとむしろテンション上がりますっ」
神さまたちって、人間生活に憧れを持ってるのか……。
あの某昔話の歌もあながちフィクションじゃないんだな。
「じゃ、じゃあお言葉に甘えて……。さっそく、カカシさんたちは何人くらいいらっしゃるんですか?」
「今は五百人くらいですねー」
「五百もっ!」
この集落の大きさからしたら超過密人口じゃないっ?
「最初は見分けがついたんですけどねぇ~。今じゃもう、どなたがどなただか全然ですよ~」
私はすでに皆さん同じに見えてます……。
その先にも、似たような田畑が多くあって、心地よさそうに揺れる人や"いらっしゃい"と挨拶してくれる人もいた。
やべぇ……。
なんだか、すっごくほのぼのした気持ちになれる。
「もしかして、この集落ってカカシさんがほとんど……?」
「まあ、八割はカカシさんですねー。でもわたくしや長老、他にもいろんな元神さまがいますけどね」
。
どうやら長老はカカシじゃないらしい。
「そろそろ着きますよ! ……ぅあ~、相変わらずこのあたりは暑いですねぇ……」
まかみさんがハァハァと、息を乱し始めた。
「だ、大丈夫ですか? 舌まで出して……」
「ハァ、ハァ……、あ、気にしないでいいですよ。ただの体温調節ですんで。……ハァ、ハァ」
あ、この人、ケモミミだもんな。
体温調節は犬と同じ要領なのか。
「人間みたいに汗をかくのと、どっちが便利なんでしょうね。……ハァ、ハァッ」
「う~ん、どっちなんでしょう」
便利さはわからないけど、ハァハァの方が確実にエロいけどね!
まかみさんは美人だから余計にそう感じる。さっきからフェロモンがすげえったらない。
と、ようやく石の建物前に到着した。
「あ、これは……たしかに」
暑いぞ……!
いや、熱いぞ!
ちょっと手前から感じてはいたんだけど、石の建物の前に着いた途端、ぶわっと汗が吹き出した。
隣でモルエもしきりに額の汗を拭っている。死神は人間と同じで"発汗型"らしい。
「長老さーん! お客さんが参られましたー!!」
…………。
返事がない。
「ああ……、どうりで熱いわけだ。お昼寝中ですね、これは」
昼寝してたら、熱い……?
よくわからないな。
てか、熱さで頭が回らなくなってきた。けして、シンプルだからって元々回ってないわけじゃない。
「長老ーっ!! 起きてくださーいっ! ヒノ長老ー!!」
まかみさんがゆっくりと入口に顔を近づけて叫ぶ。
私も倣ってその後ろから中を覗き込むと、
「!!」
「んああ……、んあ? ああ、まかみちゃん。どうしたんじゃい?」
……ゴロゴロゴロ。
と鈍い音を立てて奥から転がってきたのは…………生首だった!




