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元将軍のアンデッドナイト  作者: 猫子
第二章 都市バライラの英雄譚

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第十六話 死霊の群れ①

 ランベールがギルド『踊る剣』の面子とモンド伯爵を訪れた、その数日後の夜のことであった。

 足元を引き摺るほど長いローブを身に着けた十人の集団が、都市バライラの貧民街を歩いていた。

 人目を警戒しながらある廃墟へと入り、その地下へと足を運ぶ。

 彼らは長い階段を進み、鉄の扉を開ける。


 その先にある一室には、一人の老人が椅子に座っていた。

 生白い肌の、痩せ衰えた、酷く病的な様子の老人であった。

 目は常に三日月の様に細められており、禿げ上がった頭は長く、異様な容貌をしている。


 老人の横には、ローブを纏った巨体が立っていた。

 その背丈は、天井に届きそうなほどである。

 身動き一つせず、ただ老人の横にぼうっと立っている。

 ローブから覗く腕や顔は包帯に覆われており、どこからも一切皮膚を窺うことはできない。


 壁には、ずらりと死体が杭で打ち付けられいた。

 死体は腹を裂かれて臓器を抜き取られていたり、両腕を捥がれていたりと、様々である。

 老人が向かってる机の上にも、天部の皮を剥がして頭蓋骨を切断され、脳を露出させた人頭が置かれていた。

 脳にはいくつも針の様なものが刺されており、脳みそは毒々しい緑色へと変色していた。


「ヨホホホ、お使いは、終わったのかな?」


 不気味な声と共に老人が振り返る。

 ローブの集団の先頭に立つ背の高い男が頭を下げ、膝を突いた。

 続いて、後ろの連中も同様に頭を下げ、膝を突く。


「はっ、八賢者マンジー様! 都市バライラ西部における冒険者の戦力を調査しましたが、気に留めるべき点はありません」


「そぉーかい、そぉーかい。ホホ、ホホホ……」


 反国家魔術組織『笛吹き悪魔』には、八賢者と呼ばれる八人の最高幹部がいた。

 その一人が、死操術師マンジーである。

 八賢者の多くは目立った行動を避けるのだが、マンジーは何度も大事件を引き起こしており、レギオス王国内全土にその悪名を知られていた。


 死操術で同時に操れる死体の規模は、せいぜい五人が限度とされていた。

 だがマンジーはマナの総量が異常に多く、また死操術への入れ込みようも狂人の域であった。

 マンジーの死操術は、たった一人で最大五百人の死体を操り、使役することができる。

 もっともそれには厳しい条件があってのものであり、実戦的な数としてはそれより劣るものの、はっきりと桁外れであった。


 禁忌魔術の専門家である『笛吹き悪魔』といえども、八賢者の中でも死操術の規模、その執着心で、マンジーに並べるものはいない。

 レギオス王国においても、その被害と残虐性から、最悪最凶の魔術師と恐れられる怪人である。


 マンジーは元々はレギオス王国の貴族の生まれであった。

 しかし産まれたそのとき、既に彼の奇怪な容貌は現れていた。


 ぼこぼこと、腫瘍の様に膨れ上がった醜い頭部。

 居合わせたものはその場で卒倒したという。

 彼は産まれてすぐ、人目に付かない様に地下へと隠された。


 マンジーは地下に閉じ込められている間も、教育は施されていた。

 だが、それがむしろ災いとなった。


 マンジーは、幼少時に初めて使った魔術で、招かれていた若い魔術師を惨殺。

 しかしマンジーに魔術の取柄があったと気づいた母親は、それをむしろ喜んだ。

 産まれてからずっと地下で過ごしていた不幸なマンジーに取柄があったことが嬉しかったのだ。

 歪んだ愛情であった。


 マンジーの両親は地位を利用してこの事件を隠し、次々に魔術師の講師を招いた。

 そしてマンジーは、魔術の講師を、遊び相手として招かれた使用人や子供を、次々に殺していった。

 やがて関心は、魔術による暴力から、死体へと移る。

 殺した相手を解体する様になり、禁忌魔術に手を染める。


 そしてある日、両親、館の使用人、私兵を皆殺しにした。

 目についたものを殺してアンデッドへと変え、アンデッドがまた死体を作る。


 館にいた魔術師も、兵士も、マンジーに手も足も出なかった。

 マンジーはアンデッドに囲まれ、手を打って笑いながら、悠々と館を出て行ったという。


 それはマンジーがまだ、十五歳のときであった。

 現在七十歳を越えるマンジーは非道な研究により死操術への見識を深めており、魔術の腕もこの歳になっても日々熟練している。

 マナも、この歳に達してもなお衰えることを知らない。

 その実力、脅威は、当時の比ではない。

 


「これで後は、他の偵察から報告を受ければ、手はず通りに計画を進めることができますね。有力な冒険者ギルドの集まる都市バライラを落とし、レギオス王国の戦力の削ぐ……これでボスもお喜びに……」


「ヨホホホ……そんなことは、どうでもいいのだ」


 マンジーはそこまで言うと、長い舌を口回りに這わせ、興奮気味に笑う。


「はっ……?」


「ワシは、見たい。この都市が、アンデッド塗れになるところが……あぁ、あぁ、さぞ、さぞ、さぞさぞさぞ、壮観であろぉ……? ああ、早く、早く他の偵察も戻ってこないかなぁ……。ワシはの、この地がどうなろうと、『笛吹き悪魔』がどうなろうと、本当はどうでもいい。死体がいっぱい弄れるのなら。ヨホッ、ヨホホホ、ヨッホッホッホッ。楽しみだなぁ……ああ、楽しみだなぁ……」


 マンジーは息を荒げながら、手にした針で落ち着きなく、机の上の骸の脳を引っ掻き回した。

 ぐちゃり、ぐちゃりと、音が響く。


「…………っ」


 マンジーの部下であるローブ男も、その言葉に身震いし、自然と身体を後ろへ引いていた。


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