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元将軍のアンデッドナイト  作者: 猫子
最終章 王都ヘイレスクの決戦

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第一話 二百年前の一幕

 二百年前、長きに渡った八国統一戦争の終わりが近づいていた頃。

 レギオス王国の王オーレリアへと、四魔将の一人であるグリフが面会を行っていた。


「陛下よ、お疲れのご様子ですね。既にこの戦争は、消化試合へと変わりつつあります。我らレギオス王国がこの大陸西部を統べるのも、最早時間の問題でしょう。もう少し、お喜びになられては?」


 グリフがオーレリアへと心配げに声を掛ける。

 自身が生まれる前よりの悲願の達成を前に、オーレリアの表情は暗かった。

 ここ最近、彼女は食事が喉を通らない日も多いことをグリフは知っていた。


「……お前達に心配を掛けてすまないな。そうだな、私がこんな調子では、皆の不安を煽るだけだ」


 表面上の戦争が終わったとして、それで万事が上手くいくわけではない。

 問題事や悩みが山積みなのは理解していた。

 しかし、今は戦果を気丈に喜んでいてもらいたかった。

 それがグリフや他の騎士達の士気に繋がることは無論、オーレリアの精神にも良いはずであった。


 グリフが周囲の兵達へと目を向ける。


「陛下に話しておかねばならない、大事な話がある。お前達は下がってくれ」


 その場に居合わせた兵達は、オーレリアとグリフに頭を下げた後、王の間から退出していった。


「お話というのは、レイダン公爵のことです。彼は不穏な動きを続けている様子です。他の貴族にも、随分と根回しを行っています」


「……奴が腹黒いなど、とうにわかっていたことだ。だが、処分はできん。奴の王国内での影響力は大き過ぎる。レイダン公爵を、行動させないようにするしかあるまい」


 オーレリアの夢は、統一により平和な大国を築くことにあった。

 そのため、敗戦国からの過剰な搾取は行っていない。

 また、それが他国との和睦の条件であったこともあるし、不穏分子を抱え込んで裏切られないためにも必要なことであった。


 ただ、それが弱点にも繋がっていた。

 戦争が終わってからも、数年はレギオス王国がやや不安定な状態になる。

 他の国々も支配下においたばかりであるし、戦争で疲弊した国の資産の回復にも時間が掛かる。


 そして戦争が終わり、共通の敵がいなくなれば、王国が不安定な間を突こうと動き出す者も現れる。

 仮にレイダン公爵が動き出せば、処分に成功しても王国が大きく揺らぐことになる。

 レイダン公爵を行動させてはならない。

 それがオーレリアの考えであった。


「……レイダン公爵は、オーレリア陛下に後ろ暗い秘密があることを察しているようです」

 

 オーレリアは、女であることをごく一部の側近を除いて隠している。

 王国の決まりでは、女は王にはなれないのだ。

 戦争が落ち着き、国が安定すればそのときに公表するつもりではあった。

 だが、国が不安定な間にそれを他者によって公にされれば、それは大きな失点になる。


「レイダン公爵とて、無為に国を荒らすような真似はしない。アレは慎重な男だ」


「……しかし、実際に何かを企てているのは間違いありません。何かの勝算があるに違いないのです。それを挫きさえすれば、レイダン公爵の行動自体を阻止できるのでは?」


「レイダン公爵は、何を考えているのかわからん男だ。奴の切り札がわかっているのであれば、私とてそうするが……」


「それが、ランベールです。これまでは俺も、ランベールが裏切るなど、彼の出自と功績を妬んだ者の流したデマであると、そう考えていました。しかし、ここ最近は奴と接触する度、どうにも嫌な予感が拭えないのです。アイツは少し、変わりましたよ。陛下はお気づきではありませんか?」


 オーレリアは黙ったまま、グリフを悲しげに見つめる。

 少し間をおいて、オーレリアは口を開いた。


「……お前の言いたいことはわかった。今日はもう、下がってくれ」


「戦争が終わってからでは遅いのです。ランベールがたとえ裏切らなかったとして、戦争の大英雄であるランベールを祭り上げて、陛下の不穏な噂を撒いて対立を煽り、生じた綻びを突いて旨い汁を啜る。如何にも、レイダン公爵がやりそうなことです」


 話すほどに、グリフの声は大きく、語調は荒々しくなっていく。


「血統主義の貴族共は、未だにランベールが英雄と称えられていることに不満を覚えています。しかし、彼が生きている限り、最大の功労者として相応しい要職につけねばなりますまい。どの点をとっても、ランベールは新たな戦いの火種にしかならないのです。戦争がもう終わる以上、レギオス王国に、ランベールは不要なのです!」


「……下がってくれと、そう言ったはずだ」


「陛下の目は濁っておいでです! 理想のために、多くの血を流す覚悟があると、かつて陛下は俺へとそう仰られました! 今になって、ランベールだけは別だと言うのですか! 近日参っていらっしゃるのも、王国のためにはランベールを殺すしかないと、そう頭ではわかっているからこそなのではないのですか!」


「…………」


「仮にレイダン公爵が動けば、また何万人もが血を流すことになる。俺とてランベールは、互いに親友であると、今でもそう信じております。ですが、私情と政治は切り離さねばなりません! 一声いただければ、俺がランベールを斬ります! どうか、ここでご決断を!」


 オーレリアが目を閉じる。

 長い、沈黙があった。


「……最近は、私がランベールと顔を合わせられる機会もあまりなかった。ランベールの親友であるお前がそこまで言うのであれば……きっと、そうするのが正しいのであろうな」


 オーレリアはそこまで言うと薄く目を開け、グリフの顔を見つめる。

元将軍のアンデッドナイト第四巻、本日発売となっております!

活動報告にて表紙やカラーページを公開しております!(2019/12/19)

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― 新着の感想 ―
[一言] 女王酷すぎ、人の上に立つ資格が無い。
[良い点] いつもながらランベールさんが素敵です。 [気になる点] レイダン氏は公爵・侯爵どちらなのだろうか。 多いのは公爵なので、公爵が合っているのだと思いますが、ちょいちょい混同してます
[気になる点] そういえば、第一話の内容からして、アンデット化したランベールが使ってる剣はグリフの剣だよね? では、アンデット?のグリフ?の今の剣は誰のなんだろ。 もしや、ランベールの愛剣か?
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