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31,荒野の塔 10

 ダンジョンから出てきた私たちは先輩が宿泊している宿に戻ってきた。


 先輩とあの殿下の様子を見るに二人は知り合いなんだろうけどその話を聞いていいものか。「スカアハ」っていう先輩の使っている名前も出てきちゃったし、何となく私からは話題にしずらかった。



「シャルロッテは良かったのー?あのままダンジョンから出てきちゃったけどー、あの最下層に用があったんじゃないのー?」



 外では誰かに聞かれてもかまわない他愛のない話をしていたが、部屋に着くと先輩はダンジョンの話を切り出してきた。

 先輩の表情に変化はなくあの話題に触れていいのかはわからずじまいだ。



「そうですね…獣王国の殿下があのまま門の先まで行ってくれれば私も明日当たりにチャレンジできたんですけど…話を聞く限りじゃ明日の書簡?が届くまで待機みたいですし。まぁ、あの王子が書簡が来るまでじっとしているのかは知りませんけど。」


「まぁねー。というかーシャルロッテはあの場所で何がしたいのー?」



 以前部屋で拷問されそうになった時と同じように先輩が窓辺に腰掛けて聞いてくる。


 あれ?ダンジョンの最下層と言えばボスなんだけど…先輩はダンジョン攻略をしたこと無いのかな?全然聞いてこなかったからてっきり知ってるもんだと思ってた。


 先輩がダンジョンボスの存在を知らなかったことに驚いたが、とりあえず私の予想している門の奥のことと、私の目的を再度伝えておく。



「あーなるほどねーその話ねー、だからあそこに兵士たちがいたんだねー。なるほどーなるほどー」



 私が説明したところ先輩には思い当たる節があったようで、納得がいったとしきりに頷いている。

 ダンジョンボスのことについてわかってもらえたのはいいんだけど、兵士云々は私がわかってないからぜひ教えてほしく…



「あのドリーさん、兵士たちがいた理由を知ってるんですか?」


「あぁ、うん予想がついたってだけー、シャルロッテはあの奥のボスを倒すつもりなんでしょ?」



 できればですけどね。



「はい」


「じゃあ、気にしなくていいよー、多分大丈夫だからー」



 大丈夫ってなんだ??大丈夫じゃない場合があったのか!?

 いぶかしむような眼で先輩を見ると先輩は「ほんとに大丈夫だからー」と手をひらひらとさせていた。

 先輩と出会ってまだ一日だけど、まぁ意地悪してきそうな人ではなさそうだし、信じていいとは思うんだけど…国が絡んでそうな一件でポカしたくない!じゃあ絡むなって話なんだけどさ。



「でー?シャルロッテはどうするのー?あの門の中に入りたいんでしょー。今からもう一回行くのー?」



 先輩がいつものようにカラスを呼び出しいじくっている。



「いえ、今日はもう大丈夫です。明日にはチャレンジしますけど…その際にはまたご助力願えますか?」



 簡単にスキルの話をしてしまうと先輩にどやされそうなので「本気」の話はしないで伝える。加えて明日の同伴願いも。一人で奥地にたどり着くためには私のレベルが足りなすぎる。



「んー、今日みたいに門のところまでいかないならいいよー。大した労力でもないしねー、それでいいなら付いて行ってあげるけどー?」


「全然大丈夫です。ありがとうございますドリーさん。」



 やっぱりあの王子と何かあったのかな…まぁ先輩の方から、話してもいいよオーラ出されない限り言わないけど。

 私が好奇心を押しつぶし感謝の意を伝えると先輩はこちらにびしぃっ!と指さして言った。



「大丈夫ってほんとにー?どうやってあの門の中に入るつもりー?」



 ばれてら、先輩は私と違って見逃さないね!

 先輩が言った通りあの門の中まで行く方法はまだ考えてないんだよなぁ。兵士いるし、王子いるし…



「とりあえず獣王国からの書簡が届くタイミングで突入しようとは思っているんですけど…それ以外は…」


「うーん…私の魔法使うー?」



 私が正直に言うと先輩はまたもや力を貸してくれると言ってくれた。



「いいんですか!?」


「まぁ、ここまで来たら最後までやってあげるよー、後輩の面倒を見るのも仕事だしねー。あっ、でもさっき言った通り門のところには入らないよー?」



 まったくもって問題ない!まさか突入まで先輩の力を貸してもらえるなんて思ってもみなかった。いつか何らかの形でお礼を返さねば…



「全然大丈夫です!ほんとにありがとうございます!」


「どういたしましてー。あ、でもー魔法をかけた後は自分で何とかしてねー。魔法かけたら門の中ー、ってわけじゃないからー」



 転移魔法とかではないのか、でも魔法をかけてもらえるだけありがたい!



「はい!頑張ります!」




 …




「あっ!お嬢さん来たっすね。はい、これコボルトの装備っす、大事に使ってくださいっす!」



 先輩とダンジョンから戻ってきた次の日、私は鍛冶屋に防具を受け取りに来ていた。

 先日注文を受けてくれた青年にお金を渡して装備を受け取る。コボルトの装備はいうなれば蛮族の装備みたいなもので、小柄で細い私の体には少し不釣り合いだった。



「まーそうなるっすよね…でも性能面は何の問題もないので安心して使ってほしいっす。」



 お兄さんもあちゃーと言いたげな顔でこちらを見ている。

 盗賊向きではないとは聞いていたけど、見た目のことは聞いてないよ!?聞かなかった私も悪いけどね!誰がわざわざ使用者に似合う装備を作ってくれるっていうんだ。製作者の親方と会ったことすらないし、上客でもない私に…


 不釣り合いな姿のままため息をつくと肩を覆うコボルトの毛が頬に触れる。

 この姿で街を歩くのは嫌だし、宿にいる先輩に見られたくもないので、青年に改めて礼を言った後、一度収納し宿に戻るとする。



 ――――――――――――――――


【コボルトの装備一式】


 HP:1

 MP:0


 力:6

 守:4

 速:2

 頭:0


 器用度:0


 ⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯


 コボルトの素材によって作られた装備。

 装着者に獣のごとく力を与えるが、その反面、敵の「嗅覚」に探知されやすくなる。


 ――――――――――――――――



 ちなみにこれがコボルト装備一式の効果だ。相も変わらず「頭」に恵まれないこと…


「力」が6も上がってくれるのはありがたい。ミノタウロスですら通常じゃ刃が立たない。ボス戦の前にブッチャー含め少しでも強化できるのはありがたい。


 が、お兄さんが数日前に言っていた通り、これは盗賊向けの装備ではない。

「バックスタブ」のように不意打ちのダメージボーナスで一撃必殺を狙う私にとって最も重要なのは「力」より「速」だ。この装備もプラスしてくれることにはしてくれるが、その値はいささか物足りない。

 ウサギの毛皮で防具作った方がよかったか?

 それに加えてこの説明文。「嗅覚」に引っ掛かりやすいとか致命傷にもほどがある。



 えっもしかして私さっき臭かった!!??

 もうしまってしまったため確認することはできないが先ほどまでの青年とのやり取りが不安になってきた。

 もしかしてあのアチャー顔は似合ってなくてアチャーじゃなくて、臭くてアチャーってこと!?あぁ乙女の不覚!!獣装備なんざ臭いに決まってるじゃないか!!


 このゲームがリアルゲーだということを忘れがちな私は今更ながら後悔する。



 このダンジョン終わったら装備を一新しよう…


 動物性の装備以外は重量がかさむというのにどうしようというのか。

 とにかく、臭い装備と長く付き合わなくて済むように、といっそうダンジョンへの思いを強くするチョコだった。



次回の投稿は月曜日です。


※ 昨日は投稿できなくて申し訳ありません。

  今回のような場合連絡ができるようTwitterのリンクをこちらに貼っておきます。よかったら見

  てください。

  https://twitter.com/okanehakowaiyo

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[一言] 先輩優しい!
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